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健康

食事介助の正しいやり方は? むせない姿勢とスプーン操作・誤嚥予防を作業療法士が解説

 丁寧に食事介助をしているつもりでも、むせてしまったり、食事を拒まれてしまったり、思うように食べてもらえないという悩みを持つ人は多い。そこで、“正しい食事介助”ができるようになるための食事介助の心得や改善するべきポイントなどを、食事介助に詳しい作業療法士の佐藤良枝さんに教えてもらった。

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教えてくれた人

佐藤良枝さん/1986年国立療養所箱根病院付属リハビリテーション学院卒業、作業療法士免許取得。肢体不自由児施設、介護老人保健施設、認知症治療病棟などに勤務。2006年にバリデーションワーカー資格を取得。認知症への対応や、高齢者への生活支援に関する講演多数。

「むせ」や誤嚥を防ぐ食事介助のコツ

 食事介助がうまくいかないと悩んでいる人は、現状の方法のどこが不適切なのか、どこを修正するべきなのかわかっていないだけです。知識によって正しい食事介助をすることができれば、目の前にいる被介護者の食べ方も改善します。

 食べることは人にとって楽しみのひとつです。しかし、安全かつ楽に食べられないと、苦行になってしまいます。だんだんと低下していくADL(日常生活動作)の中で、最後まで残るのが食事をとることです。「むせ(誤嚥)」を正しく予防し、対処する食事介助を行うことで、被介護者の食事が改善され、楽しく食事をしていただくことができます。

 現場では「何が好き? 好きなものを用意すれば、食べられるでしょう」ということが多いですが、被介護者は好き嫌いをしているのではなく、食べるという行為が困難になっていると認識しましょう。介護する側が「こんなに努力しているのに」と思っても、ズレた努力になってしまうことがあります。それは、気持ちの問題ではなく、食事の仕方の問題だからです。

なぜ食事中にむせてしまうのか

「食べる」という行動は、うまくできないと誤嚥や窒息のリスクが高まり、誤嚥によって誤嚥性肺炎が起こる可能性もあります。さらに、食べることがうまくできないと、被介護者の食が細くなる原因にもなり得ます。

 むせることは、誤嚥のサインではありますが、同時に生体防御反応でもあります。「むせるかむせないか」と有無だけを見がちな現状は、介護の専門家でも陥りがちなことです。“むせ”を防ぐための方法は、よく観察をすることです。

 それにはまず、摂食嚥下5相のメカニズムを知っておきましょう。摂食嚥下とは、食べ物を認識してから、口に取り込み、咀嚼し、咽頭・食道を経て胃へ送り込む一連の機能を指します。

1.先行期:食べ物を認知し、口の中に取り込むまでの段階

2.準備期:咀嚼・食塊が形成される段階

3.口腔期:食塊を後方の咽頭に送り込む段階

4.咽頭期:食べ物を咽頭から食道へ運ぶ段階

5.食道期:食塊が胃へ運ばれる段階

 特にポイントとなるのは、「4.咽頭期」です。人は、食事を飲み込むときに、口と鼻からの空気の流入をなくし、のどの奥にある喉頭蓋(こうとうがい)が気管に蓋をすることで、食べ物が気管に入ることを防止し、誤嚥を防いでいます。こうして「ごっくん」と飲み込むとき、誰しものどが動きます。

 この、「ごっくん」とするのどの動きを確認しましょう。飲み込んだことを確認せずに次の一口を運んでしまうことで、むせにつながるケースが多いのです。咀嚼し終わったかどうかではなく、のどの動きを見ることで、口に入れた食べ物を飲み込んだかどうかがわかります。

 ただし、わかりやすく一度で飲み込む人だけではありません。何度かのどを動かす人や、少ししかのどが動かない人などさまざまな方がいるので、その人の特徴に気づくことができるよう、観察することが必要になります。

むせてしまったときの対処法

 被介護者がむせてしまったとき、背中を叩くのはNGです。むせは、気管に入った異物を外に出そうとする生体反応です。吐き出す力を強めるために、呼気介助をしましょう。

 呼気介助は、右に3つ・左に2つ分かれている肺の中でも、喚気量が一番多い右上葉の働きを高める動きのことです。

 まず、左手で背中を支え、右手で体の前側、鎖骨の下あたりの肋骨と肋骨の間に指が当たるように触ります。被介護者の呼吸のペースに応じて、吐くときに右手を軽く押し、吸うときに右手をゆるめましょう。

 むせたり、かすれ声でも声が出せるということは、気道に空気の通り道がある、呼吸ができていることを意味しますから、異物を出す力を強める呼気の介助をします。窒息の場合は気道が詰まった状態なので、おなかを圧迫するハイムリック法や、頭を下にした状態で背中を叩く背部叩打法を行いましょう。

介護中の食事を改善する、むせないスプーン動作

 食事がうまくいかないと悩む介護者には、スプーン動作が間違っている場合も多いです。食事を口へ運ぶとき、スプーンの上の食べ物を前歯でこそげるように、斜め上に引き抜いていませんか?それが被介護者の「食べる力」を奪い、むせの可能性を高めることにつながっている理由について解説します。

食事介助のスプーン使いのコツ

 スプーンの入れ方のコツは、「食べ物を上の歯でこそげ落とさない」「下唇か舌の先へ、少し押すようにのせる」「口の奥に入れすぎない」の3点です。

「食べ物を上の歯でこそげ落とさない」というのは、斜め上からスプーンを口に入れるのはNGということです。上の歯でこそげ落とすようにしてしまう姿勢になると、被介護者のあごが上がります。あごが上がるということは、気道確保の状態と同じで肺に空気が入りやすい、つまり娯嚥しやすい状態になってしまいます。

 また、スプーンを「下唇か舌の先へ、少し押すようにのせる」というのも重要なポイントです。私たちはスプーンで食事をするとき、上唇を丸めて口内へ取り込むため、スプーン上には食べ物が残りません。食事介助の場合は、下唇にスプーンを乗せて圧を加えると顔が俯き気味になり、上唇を丸めて食事を取り込むように誘導することができます。

 そして、私たちもスプーンの付け根まで口の中に入れると、食べにくいと感じますよね。やはり食事介助でも、「口の奥に入れすぎない」ことに気をつけましょう。具体的には、下唇や舌の前側にスプーンを乗せることを意識します。被介護者は、前を向き、頭と体が一直線になる姿勢が基本です。前屈している被介護者の場合は、いすを倒して背中で体重を支える姿勢にすると、頭が少し楽になります。

 また、車椅子やベッドは、食事の際に被介護者が姿勢を保持しやすいよう、適切なものを選びましょう。姿勢の保持ができないと、体に余分な力が入り、のどがうまく動かない場合があります。食事介助をする人が被介護者の横に座り、介助者の方へ顔を向けて食事をしているケースもありますが、普通に食事をするときは横からスプーンをくわえることはありませんよね。被介護者を介助者に合わせるのではなく、介助者が被介護者に合わせ、正面からまっすぐスプーンを差し出すことを心がけましょう。

スプーンに乗せる量・サイズ感・素材

 食事を口に運ぶ回数が少ない方がよい、と勘違いしている例もありました。そのために、大きなスプーンを使って、山盛りの一口をあげるというやり方です。

 しかし、食べる力がある既往歴のない高齢者でも、口の中の中央や奥に入れてしまうと、持っている能力を発揮できません。口角から食べ物があふれてしまう場合は、一口量が多すぎるサインなので、量を減らしてみてください。

 特に口の小さい人は、スプーンが歯や唇の端にあたってしまうことが多いので、口角の幅よりも狭いスプーンを選びましょう。特に高齢の女性は、年齢とともに顔が小さくなる人もいるので、サイズも顔や口の大きさに合わせるとよいです。

 ちなみに、スプーンの素材は、ステンレスに過敏になっている人、認知症がひどく噛んでしまう人の場合は、シリコンや木などソフトな素材を選ぶとよいでしょう。

 食事介助がうまくできない理由がわからないときは、スプーンのサイズや素材を変えてみることもおすすめです。

食事介助で覚えておきたい知識5つ

「食事介助=食べさせること、口の中に入れてあげること」と勘違いしている人が多くいます。しかし、これまでお話してきた通り、被介護者に安全においしく食事をしてもらうには、食べ方の観察が不可欠です。認知症や体の動きが悪いから、上手に食べられなかったり、むせてしまったりしても仕方ないという先入観で、観察しようという意識が一層働きにくいのかもしれません。

 正しくは、「食事介助=その人が食べることの援助」です。勘違いしやすいことや覚えておくとよいポイントを5つ紹介します。

とろみ=安全ではない

 よく勘違いしがちなことが、「とろみをつければ食事が楽になる」ということです。元気な人は唾液を何度も飲み込むことができるので、強いとろみをつけた飲料も、のどまで送り込むことができますが、嚥下機能が低下している高齢者や被介護者の場合は口の中に残ってしまうことが多くあります。ジュースなど糖分が入っている場合、口腔ケアをきちんとしていないと、糖が口の中に残り、二次感染で誤嚥性肺炎になるリスクもあるのです。

 とろみをつければ安全ということではなく、食事が楽しくなくなってしまう原因につながります。サラサラの水を飲み込むのが難しい高齢者は多いですが、必要以上にとろみをつけずに、軽いとろみから、その人に合ったとろみを探っていきましょう。

口の中の水分を吸う食べ物は誤嚥しやすい

 誤嚥しやすい、注意するべき食べ物もあります。よく言われる餅だけでなく、パン、わかめ、のりも注意しましょう。

 パンは食べ続けると口の中の唾液を吸い、誤嚥につながることがありますので、途中で水分を取るように促すことをおすすめします。また、わかめやのりは口の中にへばりつきやすいため、高齢者や被介護者にとっては食べにくいこともあります。

常食にこだわらず栄養補給を意識

 常食を食べさせる方策を考えるのではなく、栄養補給をしながら食べ方を改善するのがよい場合もあります。栄養補助食品の活用や専用レトルト食品、宅配サービスも検討してみましょう。

 液体の栄養補助食品もありますし、宅配サービスは糖尿病食や刻み食、ソフト食に対応する業者もあります。自分だけで情報を集めるのは大変なことなので、地域包括支援センターなどに相談してみることをおすすめします。

口を開けたら食べさせていいわけではない

 口の前に物が近づくと口を開けてしまう認知症の症状もあります。口の前にスプーンを運ぶと口を開けるため、食べっぷりがいいと勘違いされる被介護者もいますが、実は指を近づけても口を開けてしまうという症状の場合もあります。

 それに気づかず、食事を飲み込む前に次々と食べ物を口に運んでしまうこともあるので、認知症の被介護者に食事介助をする際には念頭においておきましょう。

むせが弱々しい人は要注意

 介護の現場でよくあるのは、大きくむせる=もう食べさせないということです。しかし、むせは異物をなくそうとする生体防御反応で、強いむせは異物を外に出そうとする力が高いということなのです。しっかりむせきることができて声がすっきりしていれば、食事を継続しても大丈夫です。

 ただし、食事を中止しなければならない場合もあります。むせきれない、異物を外に出しきれない最たる例が、サイレントアスピレーション(誤嚥が起こっても、むせることができない状態)です。心配な時には主治医やケアマネージャー、地域包括支援センターなどに相談してみてください。

取材・文/イワイユウ

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