倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.97「これからの身の振り方」
漫画家の倉田真由美さんは現在54才。すい臓がんで他界した夫の叶井俊太郎さんが、がん告知された年齢が54才だった。夫が旅立ってから1年以上の時が流れ「これからの身の振り方」について思いを馳せた、ある夜の話。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。最新著『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』が発売中。
高校の同級生と会って話したこと
高校時代の同級生Hくんから、「倉田んちの近所で弟が飲食店を開いたから、一度来てみないか」と連絡があったので、本当にすぐ近所だったこともあり待ち合わせてお邪魔してみました。
Hくんとは高校時代はほとんど話したことなかったけど、東京にいる同級生の飲み会で何度か顔を合わせています。ざっくばらんなタイプで、私も遠慮なく話をしやすい人です。
大きなガラス張りの素敵な外観、想像していた「気兼ねなく行ける居酒屋」とは様子が違い、本格的なフレンチをいただくお店でした。普段着で来てしまったことで少し怯みましたが、着席してすぐにアットホームな雰囲気に和むことができました。
たくさんいる共通の友人たちの近況を話したり聞いたりできるのは、同級生ならではです。気になっていた人の現在の様子も知れて、楽しい時間でした。でも一番印象に残ったのは、
「俺、そろそろ次の人生どうするかを考えとうんよ。田舎に安い不動産買って、そこで商売したいと思っとる」
という彼自身の話でした。
私も彼も50代半ば、彼はサラリーマンなので「定年」が視野に入ってくる年齢です。
「俺、家具作ったりするの、好きなんよね」
「家具?」
「そう。今も、ベッドをソファにリメイクしとる最中」
と、写真を見せてくれました。高価そうで豪華な、でもちょっと古いデザインのベッドが、ソファに姿を変えていく写真でした。
こういう話は、同い年である私も「これから」について考えるきっかけ、刺激になります。
「実現するといいね」
「当たり前やろ。実現させるんよ。弟だってこうやって店出してさ、夢を実現しとるんやし」
Hくんは躊躇なく断言しました。
滅多に食べない美味しいフレンチを堪能し、Hくんと「お互いこれからも頑張ろう」と言い合って帰宅しました。
自分のこれから
そして「自分のこれから」について思いを馳せます。普段から薄っすら意識はしているけど、目前に迫った課題ではないので真剣に取り組むことはまだしていません。
私は自由業なので決められた定年はありませんが、逆にいうと毎年定年の危機には晒されているわけで、ここまで仕事をし続けてこられた幸運に感謝しなくてはならないくらいです。年齢的には充分「今年が定年」になってもおかしくないので、早めにこれからの身の振り方を考えておく必要があります。
現在54歳。夫ががんを告知されたのと同い年です。
夫は先のことを考える人ではありませんでした。夫のような「今だけを生きる」生き方にも憧れますが、私はまた別の、将来の方針を決めながらこれからを生きたいと思います。
