《「マイナスリアクションの連鎖」を断ち切る》相手が怒っている時に「安定した態度」を保つ“感情の作法”を人間観察のプロ・橋本真里子さんが伝授する
職場で相手から怒りをぶつけられると、つい感情的になって言い返したくなる。理不尽な八つ当たりに、ムッとして反撃してしまう。でも本当は冷静でいたいし、安定した態度を保ちたい──。
複数の上場企業での受付業務の経験を通じて人間観察のプロとなった橋本真里子さんが、感情に振り回されずに安定した態度を保つ技術を説いた『感情の作法』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
教えてくれた人
橋本真里子さん
株式会社RECEPTIONIST 代表取締役CEO。起業家。1981年三重県生まれ。トランスコスモス、USEN、ミクシィ、GMOインターネットなど、複数の上場企業にて受付として勤務。11年間で、のべ120万人以上の来訪者対応を経験する中で、現場の非効率に課題を感じ、2016年にディライテッド株式会社(現・株式会社RECEPTIONIST)を設立。来客対応のデジタル化を推進するクラウド受付システム「RECEPTIONIST」は、現在では年間400万人が利用。業界シェアNo.1を獲得し、導入企業を拡大している。
* * *
相手が怒っている時に、安定した態度を取るのは難しい
相手が怒っている時、こちらが安定した態度を取るのは難しいものです。
いきなり厳しい言葉で責められたり、八つ当たりされたりしたら、ついムッとして言い返したくなります。
これは、脳の仕組みによるものです。わけもわからず怒りをぶつけられると、私たちは脅威を感じます。脳の中で感情を司る扁桃体が怒りや不安を感じるよう指令を出し、戦闘モードに切り替わります。
いわば相手の怒りに引きずられて、扁桃体が暴走し始め、扁桃体ハイジャックが起こってしまうのです。
そして強い言葉を相手に投げつけるほど、お互いに抜け出せなくなり、相手の戦闘モードも加速して、ヒートアップしていきます。
つまり人間は、「相手が怒っていると、自分もつい怒ってしまう」ようにできているのです。
そんな人体の仕組みがある中で、相手が怒っていても安定した態度を取りつづけるには、一体どうしたらいいのでしょうか?
「マイナスリアクションの連鎖」を断ち切る
イラッとした時、私たちは相手を打ち負かしたい一心になります。
でもそこで、嫌な態度で相手に攻撃をしたらどうなるでしょうか?
当然、相手にも同じ気持ちが湧きます。つまり、相手も扁桃体を刺激されて戦闘モードに入ってしまうのです。
すると相手は、さらにカッとなって言い返してくる可能性が高い。そうするとさらに自分の扁桃体が刺激されて……と、エスカレートしていく一方で終わりがありません。
売り言葉に買い言葉を続ける限り、お互いの扁桃体は暴走を続けて、感情的になっていくばかりです。これはマイナスリアクションの連鎖です。
だから、言い返さない。
相手が怒っている時に、自分はそれを受け流す。すると、相手の怒りも鎮まってくるものです。
コミュニケーションは、合わせ鏡です。
こちらが感情的になるほど、相手はヒートアップしますが、「ワオ!」「ん?」と身をかわしている人に対して怒りつづけるのは至難の業だからです。
これは「感情の作法」のひとつです。
自分が先に怒りを止めるのです。
こちらが先に感情のリングから降りてしまえば、リングの上には、相手しかいないことになります。対戦相手がいない状態で、一人で怒りつづけられるほど人間は器用にできていませんから、戦闘から抜け出すことができるのです。
先に怒るのをやめれば、自分が得をする
そもそも感情のリングに上がるのは、パワーがいることです。
「こう言われたら、どうやり返そうか」という考えで頭がいっぱいになると、身体がガチガチになっていることに気づくと思います。
これは戦闘モードに入り、交感神経が優位になっている状態です。
交感神経が優位になると、身体は緊張状態になり、血圧も上がります。
身体がリラックスする時は、副交感神経が優位になりますが、絶えず緊張状態にあると、食べたものを消化しづらくなり、眠りも浅くなります。がんなどの生活習慣病や、精神的な不調を引き起こす原因にもなるといわれています。
こう考えると、怒るというのは、損以外の何物でもありません。
怒るのを先にやめて感情のリングから降りることを、負けたかのように感じるかもしれません。
でもリングに立ちつづけて一時的な勝利を手に入れたとしても、犠牲にするものが大きすぎます。
・周りから「あの人、感情的に怒る人なんだ」と思われ、評価が下がる
・たとえ勝ったとしても、言われたことを思い返して、嫌な気持ちが続く
・相手から「自分を傷つける人」認定され、また攻撃的な態度を取られる
つまり、感情的になって怒ったところで、いいことはあまり起きないのです。
特に職場では、「負けるが勝ち」になることも珍しくありません。せっかく正しさを主張しても、後で言われたことのダメージを受けたり、周りからの評判を落としてしまったりしては、かえってマイナスの方が大きくなります。
先に感情のリングから降りるのは、相手のためではありません。自分を守ることです。
相手ではなく自分のために、相手の怒りを正面から受け止めないことが大事なのです。
たとえ自分が感情のリングから降りても、相手の攻撃がゆるむまでに多少の時間がかかるかもしれません。でも自分がリングの上にいなければ、ダメージは最小限にできます。
野球では、豪速球をバットで打ち返します。攻撃と守備がわかれているからいいものの、もしお互いに打ち返していたら、ケガ人が続出するはずです。
コミュニケーションも同じで、お互い全力で打ち返していたら、悲惨なことになります。
強いボールを投げ込まれたからといって、いつも全力で打ち返す必要はありません。
バドミントンのラケットで、ポヨヨンと受け止めて、ふわっと打ち上げる。これを続けるうちに、相手からの球速もだんだんと弱まってくるはずです。