夏の猛暑が「誤嚥性肺炎」の引き金に?医師が勧める「パタカラ体操&あいうべ体操」でのどを鍛えよう
猛暑が続くなか、気を付けたいのが「のどの異変」だ。時に命に関わる重病リスクが潜むのどだが、とりわけ夏にその危険性が増すのだという。正しい対策を専門医に解説してもらった。
教えてくれた人
三島渉さん/横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長
「夏こそ、のどに注意」と医師が警鐘
ウイルス性の扁桃炎や咽頭炎、咳、痰などの「のどの不調」を覚えるのは、空気が乾燥する冬場に多いとされてきた。だが、「夏こそ、のどに注意が必要です」と警鐘を鳴らすのは、横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長の三島渉医師だ。
「この猛暑下で気を付けたいのが誤嚥性肺炎です。夏特有の環境やそれによる体調の変化がリスクを高めてしまうのです」
誤嚥性肺炎とは、食べ物や唾液などが誤って気道に入り、細菌が肺で繁殖することで引き起こされる疾患だ。
のどの入り口には「喉頭蓋」という器官があり、食べ物や飲み物、唾液などがのどに入ると気管にフタをする。通常なら肺に食べ物や水分が入ることはないが、加齢などで嚥下(飲み込む)機能が低下してくると、誤嚥を起こしやすくなるのだ。
厚生労働省の人口動態統計によると、2023年の肺炎による死者は、がん、心疾患、老衰に次ぐ4位で、約13万6000人。うち約6万人が誤嚥性肺炎で亡くなっている。とくに75才以上の肺炎は約8割が誤嚥性肺炎とされる。30年には現在の2倍以上に達するとの予測もあるほどだ(2018年、東京都健康安全研究センター年報)。
なぜ夏が要注意なのか。ひとつは「発汗」だと三島医師は言う。
「この炎天下では、少し外を歩くだけで大量の汗をかきます。庭仕事や農作業など外にいる時間が多い人はなおさらです。これにより脱水状態が進み、唾液が減少して口腔内で細菌が増殖しやすくなる。誤嚥したときに肺に細菌が入るリスクが上がるのです。年を重ねるとのどの渇きを感じにくくなり、水分補給が不足しがちになるので注意が必要です。また、夏バテによる食欲不振から栄養不足を招き、食物を飲み込む筋力や免疫力が低下することも誤嚥性肺炎の一因になります」
冷たい物を飲食する機会が増えることも誤嚥の要因になり得るという。
「アイスや氷水など冷たい飲料を過剰に摂取すると咽頭の感覚が鈍り、こちらも誤嚥の原因になります」(同前)
暑い夏は水分補給や食事中の姿勢改善で誤嚥を予防
例年以上の猛暑が続く今年の夏。誤嚥性肺炎にならないための予防策を、三島医師はこう語る。
「大切なのが水分補給。脱水を防ぐには一度に大量に飲むのではなく、少量をこまめに摂取するのがポイントです。ただし、“冷たすぎないもの”を心がけてください。栄養不足に陥らないよう、タンパク質やビタミン、ミネラルなどが豊富に含まれている食品をしっかり摂ることも大切です」
歯磨きや舌磨き、うがい、入れ歯の洗浄などで口の中を清潔に保ち、細菌を増殖させないことも肝要だ。
さらには食事中に「しっかり背筋を伸ばして座る」ことも、誤嚥予防につながるという。
「嚥下は舌、のど、首の筋肉が連動して行なう複雑な動作です。姿勢が悪いと筋肉の動きが制限されて、飲み込む力や嚥下反射(飲み込みの動きを引き起こす反射)が弱くなってしまう。とくに背中を丸めた猫背の姿勢では、首が前に出て気道が曲がり、食道と気道が重なりやすくなるので、誤嚥のリスクが高まります。背筋を伸ばしてのどや気道をまっすぐにすれば、嚥下がスムーズになり、食べ物や飲み物が重力の力で自然と下へ流れやすくなる利点もあります」(三島医師)