認知症の母が「置き型の手すりを動かしてしまう」困った問題を解決した100円ショップのアイテム
作家でブロガーの工藤広伸さんは、東京から頻繁に帰省し、介護職の人たちとも協力して認知症の母の介護を続けている。母の立ち上がりをサポートする「置き型手すり」。かなり重いものなのだが、なぜか母はこれを動かしてしまうという。困った息子が考えた対策とは。
執筆/工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(81才・要介護4)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。著書『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』『親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)『老いた親の様子に「アレ?」と思ったら』(PHP研究所)など。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442
母は20kgもある重い手すりを動かしてしまう
岩手の実家で母が転倒したのは、2024年3月末のことです。足に障害があり、壁や人などの支えなしでは真っすぐ立っていられないのに、居間の照明のひもを引こうとして転倒し、左足の親指を骨折してしまいました。
この転倒をきっかけに、介護保険でレンタルしていた置き型手すりを玄関から居間に移動しました。ところが、手すりが特殊な形だからなのか、母は「椅子」と勘違いして頻繁に動かすようになってしまったのです。
手すりは定位置にないと、転倒防止になりません。母が手すりを動かさないようにするために1年近く試行錯誤した結果、最終的に見つけた意外なアイテムについてご紹介します。
玄関から居間に手すりを移動
介護保険でレンタルした手すりは、「面手すり」と呼ばれるタイプで、平らな面に両手をついて立ち上がるので、手すりを握る必要がなく握力の弱い高齢者でも扱いやすいのが特徴です。
当初は母が玄関で立ち上がるために手すりを置いていたのですが、居間での転倒をきっかけに、居間の入口とコタツの間に設置しました。
この位置なら、母が居間に入ってきたときにすぐにつかまれるし、照明のひもを引く時の支えにもなります。そう考えて配置したのですが、手すりを「椅子」と勘違いしている母は、コタツと90度の方向を向いていることに違和感を持ったようなのです。
手すりの向きをコタツの正面に変えたり、時には居間の隅に片づけたりもしました。そもそも手足が不自由な母が、20㎏もある重い手すりを動かすこと自体驚きですが、認知症になる前からの几帳面な性格が、そうさせるのかもしれません。
認知症が進行した母に「動かさないで」と言っても、すぐに忘れてしまいますし、また転倒して骨折でもしたら、今度こそ在宅での生活は難しくなるので、早く対策しなければならないと考えていました。
そこで置き型手すりをレンタルした、福祉用具のプロである福祉用具専門相談員さんに相談してみました。
福祉用具のプロに相談してみると…
相談員さんいわく「置き型手すりは固定するものではないので、解決策はない」とのこと。もし手すりを固定するなら工事が必要で、介護保険で住宅改修としてなら対応できるけど、それでも居間への設置は難しいとのことでした。
解決策が見つからず、月に数回は重い手すりを動かしてしまう母。わたしが見守りカメラで手すりの位置や向きの変化に気づいたら、訪問リハビリの作業療法士さんやヘルパーさんにお願いして元に戻してもらっていました。
しかし頻度が増えるにつれ、介護職の人たちに何度も重い手すりを動かしてもらうのも申し訳ないと思うようになり、改めて置き型手すりを固定する方法を考え始めました。
突っ張り棒やテント用のペグで手すりを固定できないか?
最初に思いついたのは、置き型手すりのベースの部分と居間の天井を突っ張り棒で固定して、動かないようにする方法でした。しかし天井の板が薄く、穴が開く恐れがあったので断念。
次に置き型手すりのベースの部分にテント用のペグを引っかけて、畳に打ち込もうかと思ったのですが、いいサイズのペグがなかったのと、畳を傷めると思いこちらも断念。
さらに畳に固定できるタイプの手すりが売っていたので購入しようと思いましたが、値段が高いのとサイズが合わなかったので見送りました。
1年近く考えても解決策が見つからなかったので、行き詰って近所のホームセンターに行ってみました。するとL字型の金具が目に留まり、これを置き型手すりのベースの部分と畳のへりの隙間に入れて固定できるかもしれないと考えたのです。
しかし成功する確証がなかったので、失敗しても出費が抑えられるようダイソーへ行き、ホームセンターの金具に似たものを探したところ、L字型の金具が売っていたので、そちらを110円で購入し試してみることにしました。
L字型の金具で手すりはしっかり固定された
自宅にあったゴムハンマーを使って、畳のへりの隙間にL字型の金具を打ち込んでみると、置き型手すりは意外としっかり固定されました。自分の力で手すりを動かしてみると簡単に外れるのですが、力の弱い母と手すりの重さを考えれば、これでも大丈夫かもしれないと考えました。
金具を打ち込んでから1か月ほど経ちましたが、手すりの位置はしっかり固定されています。その間、母は何度か手すりを動かそうとしましたが、母の弱い力では動かせず、諦めた様子が見守りカメラの映像に残っていました。
L字型の金具は、1組2個入りで110円。よりしっかり固定するために、もう1組購入して、今は4個の金具で固定しています。
途中、数万円の出費も覚悟したのですが、わずか220円で解決できてホッとしています。これで転倒リスクを減らすことができましたし、母にはこの調子で住み慣れた自宅で生活して欲しいと思っています。
今日もしれっと、しれっと。