新作映画で認知症役を熱演した研ナオコさん(71才)「私の老後は、自宅で子供たちに介護してほしい」
現在全国公開中の映画『うぉっしゅ」で認知症を患う80代女性の役を演じた研ナオコさん(71才)。介護がテーマの今作品だが、ご自身も幼少の頃に介護経験があり、その後の人生にも大きく影響を与えたという。映画の話題から、ご自身の介護のことまで、研さんにお話を伺った。
研ナオコ(けんなおこ)さん/プロフィール
71才。歌手、タレント。1953年生まれ。1971年「大都会のやさぐれ女」で歌手デビュー。代表作「かもめはかもめ」、「夏をあきらめて」で日本レコード大賞金賞を受賞。歌手以外にバラエティやドラマ、映画、舞台でも活躍。デビュー55周年記念盤アルバム『今日からあなたと… Starting today, with you』が発売中。現在、梅沢富美男劇団特別公演『梅沢富美男&研ナオコ アッ!とおどろく夢芝居』で全国公演中。
現代のヤングケアラーに対して思うこと
研ナオコさんが9年ぶりに映画の主演を務めた『うぉっしゅ』(公開中)。研さん演じる認知症の祖母、磯貝紀江のことを、孫の加那(中尾有伽・28才)が介護する日常が描かれる。
劇中ではピンク色に染めた髪が印象的だが、この日は金色の髪と大きなパールのピアスが柔らかい光を放っている。研さんは、ご自身の介護経験について静かに語ってくれた。
「私も小学生の頃おばあちゃんの介護をしていたから、今で言うヤングケアラーだったのかもしれませんが、当時とは状況が違いますからね。大家族で近所の人もみんなでお年寄りのお世話をしていたけど、現代の家庭は、親の介護を子供だけで抱え込まなければいかないということもありますよね」
映画の中では、孫の加那がソープ嬢という仕事をしながら祖母の介護をする。“人の体を洗う”ダブルワークを通じて、自分自身を見つめ、祖母に心を寄せていく。
「ネットも普及して楽しい情報なども入ってくる世界で、自分だけが介護をしていると感じたら、ますます孤独を感じるかもしれない。この映画を見て、自分だけじゃないと思ってもらえるといいと思いますね」
認知症の役を演じて感じたこと
「監督(岡崎育之介さん)からは『認知症の役だから、頭をクリアに、フラットにしておいてください』と言われたんですね。だから何も考えない、真っ白な状態にしていたんです。
演じてみて、こういう状態ってことは、本人はそんなに不幸ではないのかもしれないって思ったんです。認知症になったことはないから、本当のところはわからないんですけど。認知症になったら不幸だ、かわいそうだと言う人もいますが、どうなんだろうって。この映画は認知症について考えるきかっけになりましたね」
※岡崎育之介さんの「崎」は「立つさき」ですが、本記事では「岡崎」と表記しています。
子供たちに伝えた自分自身の介護のこと
「私自身に介護が必要になったら、子供たちに伝えていることがあるんです」と、研さんはにこやかに語る。
研さんは芸能事務所の社長で、研の仕事と生活をサポートする6才年下の野口典夫さんと結婚し、一男一女に恵まれた。長男は37才、長女は35才を迎える。
「親子間で介護の話は切り出しにくい」と感じる人が多い中、研さんは子供たちが中学生の頃から、自分の老後について話をしていたという。
「2人の子供たちは30代で独立していますけど、自分の介護については、昔から伝えてあるんですよ。
子供たちが中学生のときに、『将来、介護施設には入れないでね。お母さんがボケちゃったら、わからないかもしれないけれど、必ずボケたということを伝えて欲しい。それから、兄妹で私の面倒を見てね、と。当時のふたりは『わかった』って、約束してくれたんです。
うちの子供たちは昔から精神的に大人だったのかもしれませんけど、早いうちから親の老後について話をするのはいいことだと思います。
うちの子供たちは、幼い頃からどこへ行っても『研ナオコの息子だ、娘だ』って言われてきましたから、大変だったでしょうし、精神的に鍛えられているのかもしれません。どこへ行っても周囲の目があって、のびのびと子供時代を過ごせなかったと思うんですよ。かわいそうなことをしたと思います。
息子が思春期の頃は『文化祭に来ないでね』なんて言っていましたけど、高校3年の最後の文化祭だけは夫とマネージャーでこっそり見に行ったんです。黙って帰ろうと思ったら、学校の玄関で視線を感じて振り返ったら、息子と目が合って(笑い)。『あ~見つかった!』と思ったら、お友達と一緒にいた息子がニコッと笑ってくれたの。子供たちは立派に育ってくれました」
愛する我が子に自分の介護を託したい
「自分の家で、我が子に介護をして欲しい」。それが研さんの願いだ。
「たまに確認するんですよ、『あのとき言ったこと覚えてる?』って。そうすると子供たちは『当たり前じゃん!』って。一度聞いたことは絶対に忘れないの。偉いな~、私とは違うなあって(笑い)。
いつも家族のことを一番に考えて、子供たちにもたっぷりと愛情を注いできましたから、自分の老後にことも任せたいなと。よく子供に迷惑をかけたくないから施設に入りたいという話も聞くけど、なんでだろうって思うんですよ。
だって、一生懸命育てて、愛情も時間もお金も子供たちに捧げてきたんですよ。子供たちのために頑張って働いてきました。私は子供たちが本当に大切で大好き。心から愛しています。だからこそ最期まで一緒にいたいし、面倒を見て欲しいって思うんですよね。
もちろん子供たちだけじゃなくて、ヘルパーさんなどプロの人にも家に来てサポートしてもらってね。住み慣れた家で最期を迎えるのが理想です」
200才まで生きて迎える最期
「人生100年時代っていいますけど、だいたいの人は100才まで生きると言って、その前に亡くなってしまうじゃないですか。だから私は200才まで生きるって言い続けようと思って。毎日やることがあって、元気で仕事を続けていられたら、200才まで生きられると思いますよ。そうね、仕事は大事。映画の中でもそういうセリフがありましたけど、仕事が生きるエネルギーになりますよ。
夫に『私は200才まで生きるからよろしく!』と言ったら、『俺は無理だから先に逝くわ』って。『じゃあ私が看取ってあげるわよ』って、彼ともそんな話をしています。200才まで生きるから皆さんのことも私が見送って差し上げます(笑い)。
そして最期は、ありがとね~って言いながら、ふ~っと逝きたい」
【データ】
映画『うぉっしゅ』 新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国の映画館で公開中
https://wash-movie.jp/
出演:中尾有伽、研ナオコほか
配給:NAKACHIKA PICTURES
監督、脚本:岡崎育之介
公開日:新宿ピカデリー/シネスイッチ銀座 他 全国にて絶賛公開
(C)役式
ヘアメイク・堀ちほ 取材・文/廉屋友美乃 撮影/浅野剛