耳穴がかゆい、耳垢がつまって聞こえにくい・・・「自分で耳掃そうじするのはNGです」その理由と正しいケア法を専門医が解説【専門家が教える難聴対策Vol.21】
補聴器専門店の代表で認定補聴器技能者の田中智子さんのもとには、「補聴器で耳がかゆくなる」という人もいるという。気になって綿棒で耳穴へ、耳かきを耳の奥まで…。そんな耳そうじが習慣になっている人はご注意を。「耳そうじ」にまつわる最新情報を専門医に教えてもらいました。
教えてくれた人
■医師・神崎晶さん
独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 臨床研究センター 聴覚・平衡覚研究部 聴覚障害研究室 室長。耳鼻咽喉科専門医・指導医、耳科手術暫定指導医、補聴器適合判定医、補聴器相談医、騒音性難聴担当医、めまい相談医、アレルギー専門医、気管食道科専門医。慶應義塾大学医学部卒業、静岡赤十字病院、静岡市立清水病院を経て慶應義塾大学医学部大学院に入学し、2002年大学院医学研究科修了(医学博士)。1999₋2001年ミシガン大学聴覚研究所にて内耳遺伝子治療の研究のため留学。現在、難聴と認知症に関する臨床研究を行っている。
■認定補聴器技能者・田中智子さん
うぐいす補聴器代表。大手補聴器メーカー在籍中に経営学修士(MBA) を取得。訪問診療を行うクリニックの事務長を務めた後、主要メーカーの補聴器を試せる補聴器専門店・うぐいす補聴器を開業。講演会や執筆なども手がける。https://uguisu.co.jp/
「耳そうじ」習慣になっている人はご用心
突然ですが「耳そうじ」について、考えたことはありますか?
幼い頃に親の膝枕で耳かきをしてもらったこと、大人になった今でも、あのなんとも言いようのない心地よさに包まれた、独特な感覚を覚えています。耳かきや綿棒などで耳そうじをするのが習慣になっている人もいるのではないでしょうか。
そもそも耳そうじはすべきなのか――。正しい耳のケアについて、国立病院機構 東京医療センター・聴覚障害研究室の室長の神崎晶さんにお話を伺いました。
耳には自浄作用がある
「人には耳垢を自然に排泄する機能(自浄作用)が備わっているため、多少の耳垢であれば無理に取る必要はまったくないんですよ。
綿棒や耳かきで習慣的に耳そうじをしている人も少なくありませんが、入浴後に濡れた耳を軽く拭う程度が無難です。そもそも耳そうじは医学的には不必要で、危険な行為にもなります。このことは、私が所属する日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のホームページにも明記されています。
耳垢には細菌の繁殖を抑えたり、耳の中を保護したりする役割もあるので、取りすぎないほうがいいんです。耳の穴は体の中でもデリケートな部分。どうしても耳垢が気になるときは、耳鼻咽喉科を受診してくださいね」(神崎さん)
自己流の耳そうじのリスク
「耳垢は取った方がいい」と考えていた人は驚かれたかもしれませんが、耳そうじによって、耳のトラブルを招いてしまうこともあるそうで…。
「耳そうじの子どものころの思い出を壊すつもりはないのですが(笑い)。しかし、綿棒や耳かきを使って耳そうじすることは、逆に耳垢を奥に押し込んでしまうことになります。
また、強い力で耳の穴をこすると、外耳道(耳穴の入口から鼓膜までの間)が傷ついてしまい、外耳炎に繋がることもあります」(神崎さん)
難聴かと思ったら「耳垢?」
「『聞こえにくくなった』と来院される高齢の患者さんの耳の中を観察すると、10人に1人くらいの割合で「耳垢栓塞」(じこうせんそく)が見られます。
耳垢栓塞とは、耳垢がたまって耳栓のような状態になってきること。この場合、耳垢を取り除くことで難聴が改善するかたも多いんです。耳垢栓塞は、耳の自浄作用が加齢で低下して耳垢が自然に排出されにくくなっていることも原因のひとつです」(神崎さん)
耳垢栓塞の場合、ご自身や家族が除去することは難しいので、専門医を受診することが大切だという。
「耳鼻咽喉科では、点耳薬で耳垢をやわらかくしてから、医師が専用の道具で、耳の中を観察しながら慎重に耳垢を除去していきます」(神崎さん)
イヤホンや補聴器の影響で「耳にかゆみも」
補聴器を着け始めたばかりのときに、かゆみを感じるのですぐに外してしまうというお客様がいらっしゃいました。イヤホンや補聴器などの影響から「耳穴がかゆい」と感じることも多いよう。
「私の患者さんにもかゆみを訴える患者さんは多いですね。かゆみの感じ方は、人によってさまざまです。実は、私から『かゆみ止め薬を処方しましょうか』とお聞きすると、『いや、先生、薬をもらうほどではないです』とおっしゃるかたも意外と多いです。我慢できるレベルのかゆみなのかもしれませんね。
私の患者さんの場合は、ご本人の希望があればかゆみ止め薬を使っていただきながら、『補聴器は徐々に慣れてくる場合も多い、もう少し頑張ってみましょう』というお声がけをしています。(神崎さん)
耳穴のケア、かゆみやかぶれの対処法は?
「耳の中は、基本的には“触らない”ことが鉄則です。ほこりを浴びてしまったときや、水が入ってしまった場合には、軽く綿棒で水分や汚れを拭う程度に。絶対に力を入れてこすってはいけません。
かゆい部分をさらにかいてしまうと、炎症がおきてさらにかゆくなるという悪循環になってしまいます。炎症が進行してしまうと外耳炎などにもつながります。
かゆみなど違和感がある場合は、なるべく早めに耳鼻咽喉科を受診してほしいですね。
どうしてもすぐに受診できない場合には、耳専用の炎症を抑える市販薬を利用して様子をみてもいいでしょう。ただし、1週間塗布して治らなければ他の疾患(外耳道真珠腫という疾患や、がんなど)の可能性もあります。
また、塗布を継続すると真菌(かび)などが発生することもあるため、改善がなければ必ず耳鼻咽喉科に受診してください」(神崎さん)
***
「耳そうじは気持ちいいから…」と習慣にしてはいけません。綿棒で耳垢を取っているつもりが、実は、綿棒が耳垢を耳の奥へ奥へと押し込んでしまっているんです。補聴器やイヤホンでかゆみが出た場合には、すぐに耳鼻咽喉科を受診しましょう。
★うぐいす智子先生のワインポイントアドバイス!

耳には耳垢を自然に排出する機能が備わっています。耳そうじにはご注意を!
取材・文/立花加久 イラスト/奥川りな