ベートーヴェンも活用していた!? 注目の《骨伝導》とは?人気の骨伝導イヤホンの仕組みや選び方をプロが解説【専門家が教える難聴対策Vol.18】
「イヤホンをすると耳の中がかゆくなる」「イヤホンで耳穴を塞ぐと、周囲の音が聞こえないのが不安…」。そんな人に注目なのが「骨伝導」。耳穴を塞がない骨伝導を採用したイヤホンが人気になっているという。実はあのベートーヴェンも活用していたという“骨伝導”の仕組みについて、認定補聴器技能者で補聴器専門店の代表を務める田中智子さんに詳しく教えてもらった。
教えてくれた人
認定補聴器技能者・田中智子さん
うぐいす補聴器代表。大手補聴器メーカー在籍中に経営学修士(MBA)を取得。訪問診療を行うクリニックの事務長を務めた後、主要メーカーの補聴器を試せる補聴器専門店・うぐいす補聴器を開業。講演会や執筆なども手がける。https://uguisu.co.jp/
注目の「骨伝導」とは?
「骨伝導」(こつでんどう)という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
たとえば、お煎餅を食べているとき、ボリボリと口の中で噛み砕いている音や、ゴクリと飲み込むときの音を感じることがあると思います。
口の中や喉で発する音は、頭蓋骨を通して音を感じるセンサー部分(耳の奥の「蝸牛、かぎゅう」と呼ばれる器官)に音の振動が届くことでも音を認識しています。こうした音の伝わり方を「骨伝導」と呼びます。
たとえば、自分の指で耳を塞ぎながら声を発してみてください。いつもと違う声で聞こえませんか? それが「骨伝導」によるものです。
ちなみにベートーヴェンは、20代後半から難聴が始まり、徐々に悪化していきました。晩年の約10年間はほとんど音が聞こえない状態でしたが、指揮棒を口にくわえてピアノに当て、骨伝導を利用して音を感じ取りながら作曲を続けたと伝えられています。
骨伝導イヤホンの特徴とは?
最近になって、この骨伝導の仕組みを使ったイヤホンが多く発売されるようになりました。骨伝導イヤホンが広く知られるようになったためか、骨伝導の補聴器や集音器についてもお店に問い合わせが増えています。
骨伝導イヤホンは、耳の穴を塞ぐことがなく、耳への圧迫感が少ないのが特徴です。イヤホンをすると耳にかゆみが出たり、圧迫感があって疲れたりするというかたには、骨伝導イヤホンは適しています。
また、周囲の音を聞き取りながら音楽や通話などを楽しめるのもメリットです。ランニングやウオーキングを外でするときは、周囲の音も聞こえた方が安心ですよね。そういったかたには周囲の音も聞きつつ、イヤホンで音楽を楽しむ、ということができるので大きなメリットになります。
また、マイク機能がついているタイプなら、オンライン会議や家族・友人とのテレビ電話などでも、自分の声が聴こえやすくスムーズに会話、発言ができます。スマホと連携させれば、ハンズフリーで通話することもできます。
骨伝導イヤホンのタイプ
イヤホンの種類は、「有線」タイプと「ワイヤレス」タイプがあります。ワイヤレスイヤホンには、AirPodsのように片方ずつのものや、左右一体型のヘッドホンタイプもあります。
最近人気が高いのは、首の後ろにかけて装着するネックバンドタイプ。一体型なので紛失の心配が少なく、使わないときは首にかけることもでき、使いやすいでしょう。
防水機能が優れた機種もあります。ランニングやウオーキングをしながら使用したい場合は汗をたくさんかいてもいいように防水機能も確認しましょう。
骨伝導イヤホンのデメリット
骨伝導イヤホンは、耳を塞がないので周囲の音が聞こえますが、電車やバスなど乗り物や街中の騒がしい場所などでは、イヤホンからの音が聞き取りにくいことがあります。
また、商品によっては周囲に音漏れが生じる可能性があり、図書館や静かなカフェなど、音が漏れると困る場所での使用には向いていません。
骨伝導イヤホンは「耳の周囲の骨を圧迫して痛くなる」という声もあり、耳を塞がずに使える一般的なイヤホンも登場しているのでそちらを選ぶ手もあるでしょう。
骨伝導イヤホンの選び方と注意ポイント
骨伝導イヤホンの機能的な特徴として、一般的に「低音域の音が伝わりにくい」ことが挙げられます。音楽鑑賞など曲によって低音を重視するなどこだわりがある場合には、一般的なイヤホンを選んだほうがいいでしょう。
一方で、低音が少ない分、中音域は相対的に大きく聞こえます。中音域というのは、人の話し声などの音域なので、ラジオや通話などの用途には向いています。
骨伝導イヤホンを導入するにあたって、まず着け心地や音質をチェックすることが重要となります。店頭で聴き比べや試着ができる場合には、試してから購入するといいでしょう。
なお、骨伝導イヤホンの価格は、1000円代から4~5万円まで幅があります。ご自身の聞きたい用途や使い勝手に合わせて選ぶことが重要でしょう。
骨伝導イヤホン【まとめ】
このように骨伝導イヤホンは、周囲の音を聞きながら音楽やラジオを楽しめるなど便利な機器です。
耳の穴を塞がずに使える今注目の骨伝導イヤホンは、つけ心地はもちろん、メリットデメリット、活用シーンを考えて選びましょう。
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骨伝導イヤホンはメリット・デメリット、活用シーンを考えて選びましょう
同じ骨伝導の仕組みを利用した「骨伝導集音器」や「骨伝導補聴器」もありますので、こちらは次回詳しくお伝えします。
●骨伝導イヤホンのメリット
・耳の穴を塞がないので、周囲の音を聞き取りやすい。
・長時間使用しても疲れにくい。
●骨伝導イヤホンのデメリット
・音漏れが生じる可能性がある。
・低音領域の音は聞き取りにくいタイプもある。
●骨伝導イヤホンの活用シーン
・オンライン会議やテレビ電話をするとき。
・ハンズフリーで通話したい。
・音楽を聴きながら歩く、走るなど。
・スポーツをするとき。
取材・文/立花加久 イラスト/奥川りな