介護いらずの幸せな老後に必要な5つのこと|実例をもとに社会福祉士・精神保健福祉士が提案
高齢になると心身が弱ってフレイル状態となり、やがて介護が必要に…。子供や家族に負担をかけないためにも「介護いらずのピンピンコロリ」を目指したい。介護施設に暮らしていても、自宅で暮らしていても、実践できる介護を遠ざけるために「今すぐ始めるべきこと」を、社会福祉士として活動し、精神保健福祉士でもある渋澤和世さんに提案いただいた。
この記事を執筆した専門家/渋澤和世さん
渋澤和世さん/在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)がある。
「介護いらず」を目指す生活習慣
ひとりでは生活がままならず、人からサポートが必要になったら、それは「介護状態」といえます。介護が始まると、精神的、身体的、金銭的にも家族に負担をかけることになります。そんなとき、介護を受ける側の多くは、介護者に申し訳ないという思いを抱き、生活のあらゆる場面で自分の要望を我慢しています。施設に入居したとしても、要介護度が進めば介護スタッフに頼らなくてはなりません。
自宅でも施設でも生活拠点がどこであろうと、誰しもが自由にならない生活は望んでいないのです。介護状態にならないために、どうしたらいいのでしょうか。実例をもとに介護予防のための習慣について紹介したいと思います。
1.実例/施設でも実践できる生活習慣
ある介護付き有料老人ホームで暮らす80代のA子さんは、要介護3から要介護1に改善しました。彼女が普段から実践している生活習慣は、以下のようなものでした。
・食事…毎食、完食を心がける
・リハビリ…週2回、20分程度の個別リハビリを受けた
・運動…毎朝ベッドに座り、足踏み、脚上げを実践している
このほか、毎朝、目覚めると「ありがとうございます」と声に出すこと、生かされていることに感謝をするそうです。
また、お母様からの教えである「明日ありと思う心の仇桜」(親鸞上人の言葉で、今日できることは先延ばしにしない)」という言葉を胸に、やりたいことは後回しにしないのが心情と、この時は冬に向けてマフラーを編んでおられました。
A子さんは、幼少期や学生時代の家族との想い出を沢山話してくれましたが、「ひとりでここにいても、家族との想い出で笑っていられる、それだけで寂しくはないの」と話してくれました。
2.介護状態になる原因を知っておこう
介護状態にならないためには、まず、実際にどのような原因で介護状態になるのかを理解しておくことが大切です。
まずは、介護が必要となってしまった原因についてみてみましょう。厚生労働省の国民生活基礎調査※によると、以下のような結果がでています。
■要支援全体
1位:関節疾患…19.30%|2位:高齢による衰弱…17.40%|3位:骨折・転倒…16.10%
■要介護全体
1位:認知症…23.60%|2位:脳血管疾患(脳卒中)…19.00%|3位:骨折・転倒…13.00%
■総数全体
1位:認知症…16.60%|2位:脳血管疾患(脳卒中)…16.10%|3位骨折・転倒…13.90%
※厚生労働省「2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/index.html
要支援の原因は、高齢による衰弱の他、関節疾患、骨折・転倒など運動機能の衰えからくるものが主な原因です。また、要介護は認知症や脳血管疾患(脳卒中)などの脳に関する病気のほか、ここでも骨折・転倒が上位に入っています。
3.フレイルについて理解しておこう
まず目指したいのは、関節疾患や骨折・転倒を防ぎ、要支援状態にならないこと。そのためには、健康寿命を延ばすこと、特に心身の衰えに直結する「フレイル」の予防が大切です。
フレイルの予防に関して、厚生労働省の「健康長寿に向けて必要な取り組みとは?100歳まで元気、そのカギを握るのはフレイル予防だ」※をもとに考えてみましょう。
フレイルとは、「虚弱」という意味で、加齢とともに、心身の活力(運動機能や認知機能など)が低下し、健康状態と要介護状態の中間段階のことです。
フレイルになる原因には、「身体」「精神」「社会」が関わっているとされています。筋力や体力、認知機能の低下だけでなく、社会的活動の減少も影響しているとされています。
4.フレイル予防のための3つの柱を覚えておこう
フレイルには可逆性という特性もあり、自分の状態と向き合い、予防に取り組むことでその進行を緩やかにし、健康に過ごせていた状態に戻すことができるとされています。
フレイルから要介護にならないために
フレイル予防の柱は、以下のは3つ。
【1】たんぱく質をとり、バランスよく食事をし、水分も十分に摂取するなどの「栄養」。
【2】歩いたり、筋トレをしたりするなどの「身体活動(運動)」。
【3】就労や余暇活動、ボランティアなどに取り組む「社会参加」
※参考
厚生労働省「健康長寿に向けて必要な取り組みとは?100歳まで元気、そのカギを握るのはフレイル予防だ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202111_00001.html
※厚生労働省「食べて元気にフレイル予防」
https://www.mhlw.go.jp/content/000620854.pdf
5.介護状態にならないために目標を立てよう
フレイル予防は日々の生活習慣と結びついています。毎日実践するのが大変なら、週に1度でも、年間を通せば52週(52回)はできるので、目標を立てることから始めてはいかがでしょうか。
毎週が大変なら、1か月で2~3個の目標を達成できれば良しとするなど、自分のペースで挑戦してみましょう。
目標は漠然としたものではなく、具体的な数値や行動を入れることで、努力次第で達成しやすくなります。以下は、目標の一例です。
【1】「栄養」目標の例
・魚、肉を手のひら一杯、1日2食に取り入れる
・卵ひとつを食べる
・豆腐1/4丁を食べる
・コーヒーには豆乳を入れて飲む
・食事はしっかり30回くらい噛む など
肉・魚・卵・大豆製品などのたんぱく質を積極的に摂取して筋肉量の維持に努めるのが理想的ですが、市販のヨーグルトなど高たんぱくの商品を取り入れるのもおすすめです。
【2】「身体活動(運動)」目標の例
・1日5000歩くらい歩く
・ラジオ体操を1日1回行う
・寝る前に足上げ体操を左右10回行う
・座りながら足踏みを行う
・家事、掃除で1日40分は身体を動かす など
ひとりでも、家の中でもできることで構いません。大切なことは「じっとしている時間を減らす」ことです。
参考/厚生労働省「アクティブガイド-健康づくりのための身体活動指針-」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple-att/2r9852000002xpr1.pdf
【3】「社会参加」目標の例
・編み物など趣味の教室に週1で通う
・お化粧をして外出する
・図書館で本を借りる
・知人や配偶者の入居施設に面会に行く
・通院はバスをやめて歩いて行く など
就労やボランティアのほか、買い物や通院、散歩も社会参加です。趣味の教室通いや図書館など行き先を決めて外出してみてはいかがでしょうか。
***
介護の必要ない老後を過ごすことは、本人にも家族にも本当に幸せなことです。フレイル予防、介護状態にならないための行動は、健康なうちに取り組むことが大切です。今すぐに行動してみてください。