【介護予防・日常生活支援総合事業】に社会福祉士が注目!「父の介護経験から高齢者の居場所や介護予防の必要性を痛感」|サービス内容や利用の仕方を解説
「要介護まではいかないが、だんだん体が弱ってきた」「高齢の親が家にこもり、外出しなくなってきた」。そんな高齢者に注目なのが、総合事業と呼ばれる「介護予防・日常生活支援総合事業」だ。社会福祉士の渋澤和世さんが、父親の介護を振り返りながら、総合事業の現状や、サービス内容やその必要性について解説してくれた。
この記事を執筆した専門家
渋澤和世さん
在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)がある。
要支援1の父は家に閉じこもりがちに
筆者の実父は、アルツハイマー型認知症の実母を支えながら静岡の実家で暮らしていました。80才になるまでは大きな病気もなかったのですが、尿が出にくくなってしまったため、何か所かの病院を受診したのですが、適切な治療はみつかりませんでした。やがて膀胱から尿が出なくなり、腎臓の機能も低下していきました。それをきっかけに外出が億劫になったのか、家で1日中ゴロゴロしてテレビを見て過ごすようになりました。
その頃、父は要支援1でデイサービスに週2回ほど通っていましたが、身体機能の悪化は急速に進んでいきました。筋力が落ちて転倒することが増え、杖歩行もアッという間に難しくなり、83才のときに肺炎がきっかけで亡くなりました。
高齢者の「介護予防」の必要性を痛感
振り返ってみると、父にとって大それたイベントでなくても、近場で気楽に参加できるものがあれば、ADLの低下(日常生活動作を思うように行えなくなること)を遅らせることができたかもしれません。
高齢者のADLを維持するためには、家の中に閉じこもらずに積極的に外へ出て行くことの必要性や、社会的な役割を意識できる居場所の大切さを身に染みて感じました。そんな経験から、高齢者を地域全体で支え介護予防につなげる「介護予防・日常生活支援総合事業」について紹介していきたいと思います。
「介護予防・日常生活支援総合事業」とは?
総合事業は、2015年の介護保険制度改定から各自治体で導入されているもので、正式名称は「介護予防・日常生活支援総合事業」(以下、総合事業)といいます。
介護保険サービスは「国の制度」ですが、総合事業は「自治体の事業」です。そのため、各自治体がそれぞれのサービス内容や料金を決めることができるようになっています。
自治体の力の入れ方によっては、サービス内容や料金が異なるなど地域格差も懸念されていますが、地域の実態に応じた介護予防サービスの提供が可能になるメリットもあります。
実際、地域住民やボランティア、NPO、社会福祉法人など、様々な事業主体からサービスが提供され、これまでの介護サービス事業者による介護予防サービスに加え、高齢者自らサービスを選択し利用することができるようになりました。
また、各自治体で行われていた介護予防事業は、介護認定の申請をして非該当(自立)となったかたを対象に行われていましたが、この総合事業では、要介護認定の申請を行わなくても介護予防サービスを利用できることが大きな特徴となっています。
サービスの種類や内容、対象者は?
総合事業には、おおきく介護予防・生活支援サービス事業と一般介護予防事業があります。
【1】介護予防・生活支援サービス事業
●対象者:要支援1・2または「基本チェックリスト」で事業対象者に該当されたかた。
基本チェックリストとは、必要なサービスが利用できるよう現状を確認するためのツール。日常生活の様子や身体機能の状態、栄養状態、外出頻度など25項目の質問で構成され、心身機能の衰えによる生活機能の低下がみられると「事業対象者」と判断される。判定には即日~3日程度かかる。
※厚生労働省/基本チェックリスト
https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/dl/tp0501-1f_0005.pdf
●サービス内容
・訪問型サービス…利用者の自宅において、掃除や洗濯などの生活支援を行うサービス。
訪問介護員(ホームヘルパー)による身体介護や生活支援のほか、地域住民、NPOなどによる掃除、洗濯、ゴミ出しなどの生活支援など。要支援者は身体介護と生活支援、事業対象者は生活支援のみが利用できる。
・通所型サービス…通いの場において、食事や機能訓練、レクリエーションなどを行うサービス。
通所介護(デイサービス)サービスのほか、地域住民、NPOなどによる運動や体操、レクリエーションなど。
・その他の生活支援サービス…栄養改善を目的とした配食や、ボランティア等による見守り(安否確認)のサービス。
・介護予防ケアマネジメント…総合事業の利用者に対して、健康状態や生活状況、希望するサービスなどを踏まえたケアマネジメント。
【2】一般介護予防事業
●対象者:65才以上のすべての高齢者
※地域に住む65才以上のすべての高齢者で、要介護のかたも含まれる。
●サービス内容
以下は一例で、自治体により内容は異なります。
・介護予防講習会
・体操教室
・地域コミュニティ
・サークル活動
・高齢者サロン
・介護予防のためのボランティア活動
サービスの利用方法
高齢になると体力が落ちてきて、買い物や掃除に援助が必要と感じることがあります。要支援や要介護の状態に当てはまらないからといって、介護サービスの利用は、「はなからできない」と思っている人もいるのではないでしょうか?
介護予防・日常生活支援総合事業は、そんな不安を抱えているかたも対象です。ぜひ、下記の流れで相談をしてみてください。
1.市区町村の窓口または地域包括支援センターに相談
2.基本チェックリストにより状況を確認
3.介護予防・生活支援サービス事業の対象者は、介護予防ケアマネジメントの依頼書を提出
明らかに要介護認定が必要な場合、または予防給付・介護給付によるサービスを希望する場合は、要介護認定を申請。
生活機能の低下がみられない場合は、一般介護予防事業サービスを案内
4.介護予防・生活支援サービス事業の対象者には自立支援に向けたケアプランを作成
5.適切なサービスの利用開始
※参考/厚生労働省「介護予防・日常生活支援総合事業のサービス利用の流れ」
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/flow_synthesis.html
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2024年は介護保険制度改定の年ですが、提案には上がっていたものの見送りとなったものに「要介護1、2の総合事業移行」があります。
要介護1、2を介護保険の介護給付サービスから切り離し、総合事業に移行する案がありましたが、サービスの低下や介護サービス事業所の撤退も危惧され今回は決定とはなりませんでした。
介護保険制度は、改定のたびに、国→自治体→地域住民やNPO団体に介護の運用や責任が移ってきているように感じています。
今後も給付と負担のバランス、世論の意見なども交えて決定されていきますが、総合事業はこれから介護が始まる予備軍にこそ影響するため、引き続き注目していく必要がありそうです。
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