老人ホームを退去になるのはどんなとき?5つの事例と対処法「SNSの誹謗中傷には要注意」【社会福祉士解説】
せっかく入居した老人ホームから、退去勧告が! そんな事態になったらどうすればいいのだろうか。退去になる場合の原因とはなんなのか。退去になりやすい5つの事例をもとに、退去となった場合の対策や、退去にならないために準備しておくべきことについて、社会福祉士の渋澤和世さんい解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
渋澤和世さん
在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)がある。
老人ホームは退去となるケースもある
情報収集や問い合わせ、そして施設見学を重ねて、やっと見つけた老人ホーム。
「初めての集団生活をうまくやっていけるだろうか」という不安もあるとは思いますが、多くのかたは衣食住と介護サービスが確保できたことに安堵し、ご家族も介護の負担が減り安心できたのではないでしょうか。
親も子もそれぞれ新たな生活が始まったと思いきや、施設から突然の退去勧告――。そんなケースもあるのです。そこで今回は「老人ホームを退去となるケース」について解説します。
もしも施設側から退去を告げられたら、驚くばかりか「毎月お金は払っているはずだ」「最期まで看てくれるのではなかったのか」といった怒りがこみ上げるかもしれません。
老人ホームを退去しなければならない場合、何かしらの理由があります。
退去についての説明はされているはず
例えば、入院が長期に渡った、要介護度が重くなった、他の入居者や職員への迷惑行為、費用が払えなくなったなど、人によって様々です。
退去となる行為は、大抵の老人ホームで、入居申込書の記載時や確定時に説明されているはずです。
その際、「一生涯の入居をお約束します」と謳っている老人ホームはまずありません。
手続きを行う家族は、入居できたからと安心せず、「一生暮らせるとは限らない」ということを頭に入れておくべきです。病院と同じように、心身状態が変わればそれに適した施設へ移るものだと考えておきましょう。
「そんなことは聞いてない」「何度も説明しました、うちでは難しいです」と言い争った末、法的措置へと進んでしまうケースもあるのです。
介護度が改善した場合、退去となるのか?
要介護度が重くなったら退去というのはありそうな話ですが、改善しても退去となる場合もあります。
特別養護老人ホーム(以下、特養)のケースがそれにあたります。特養は、基本的に要介護3以上で介護度が重いかたが優先的に入居できる施設です。入居後、要介護度が2以下に改善された場合、退去を迫られることがあります。
ただし、現実的には、既に入居している人に対して、改善が理由で退去を迫る施設はほとんどありません。とはいえ、ゼロでもありません。
筆者が毎月訪問している特養も、過去に要介護3から要介護1に下がったかたがいました。そのかたは、退去とはならず特例入所として引き続き入所継続をしていました。
特例入所には、一定の条件があるため、自治体の福祉課などに相談し、条件に当てはまれば入所継続可能となります。家族に結果報告をして家族から依頼を受ければ、引き続き利用することができます。
老人ホームで退去になりやすい事例
老人ホームには、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、有料老人ホーム、グループホーム、ケアハウスなど実に多くの種類があります。どの種類の施設であっても、退去勧告となりやすい事例は5つあります。
【1】他の利用者や職員に対する迷惑行為
他の利用者や職員に対して暴力的な行動、セクハラ行為、暴言が頻繁にあると退去勧告されることがあります。
また、他人の部屋に勝手に入る、物を盗むといった行為が頻繁になると、他の入居者は安心して生活できません。共同生活な困難なケースとして退去勧告を受ける可能性があります。
【2】一定期間以上の利用料の滞納
利用料の支払いが滞った場合は対象になります。本人に支払い能力がない場合、連帯保証人や身元引受人に請求がいきますが、なお、支払いがない場合は退去勧告になります。居住費と食費は自己負担なので、どんな施設でも起こりやすいケースです。
【3】心身状態の変化
施設で暮らしていても、高齢になると大腿骨骨折や誤嚥性肺炎などで入院することが増えてきます。入院期間が長期(多くは3か月だが施設によって異なる)になると、退去勧告を受けることがあります。
入院をきっかけに医療依存度が高くなった場合、対応できる職員や環境が整っていないことを理由に他の施設への転居を「相談」という感じで持ちかけられるケースが多くなります。
【4】不正入居
認知症や持病を隠しておくなどの嘘の申請や、入居者本人や保証人が反社会勢力であることを隠していたケースがこれに該当します。
【5】運営母体の倒産
入居している施設が倒産した場合、退去勧告を受けることがあります。経営母体が他に引き継がれてそのまま入居可能な場合もありますが、引き継がれなければ閉鎖となります。
運営は継続されたとしても、運営方針や費用、職員も変わることが多く、環境や対応の食い違いから合意できず退去になるケースもあります。
退去を告げられた際の対処法
老人ホームから退去勧告を受けても、すぐに出ていかなければならないということはありません。通常は90日間の猶予期間が設けられています。まずは以下の対応をしてみてください。
入居契約書と重要事項説明書を確認
退去勧告の理由をきき、それが正当なのか、施設側は努力をしたのか確認する。
納得いかない場合は相談窓口へ
退去理由の説明を受けても納得いかない場合、協議しても解決できない場合は、契約書に記載されている苦情対応窓口へ相談しましょう。それでも解決しない場合は下記に連絡をしてみてください。
・市役所・区役所等の介護保険課や高齢福祉課
・都道府県に設置された国民健康保険団体連合会
・社団法人全国有料老人ホーム協会
退去勧告を受けるには何らかの理由がある
筆者の個人的な意見としては、施設側から退去の相談があるということは、何かしら問題があるということです。そのまま強引に留まったとしても、気持ちよく生活できるとも限りません。
まずは、入居一時金が返金されるのか確認し、戻ってくるお金はしっかり受け取ること。そして、次の行き先を探す際は、情報収集をしっかりしましょう。よく理解せずに入居するとまた同じように退去勧告を受ける可能性も。「認知症に対応しているか」「医療はどこまで対応できるのか」なども含め、施設の種類や方針を理解しておくようにしましょう。
注意すべきなのはSNSの書き込み
近年の特徴として、ご家族の口コミサイトへの過度な誹謗中傷のコメントやSNS(ソーシャルネットワークサービス)で施設に向けた悪質な書き込みも退去理由となる場合がありますので、SNSの投稿には注意したほうがいいでしょう。
入居時に、しっかり退去となるのはどんなケースか確認し、重要事項説明書などの書類の内容も理解しておくことが大切です。
入居者側の都合はもちろんですが、老人ホーム側の都合で入居が困難となるケースがあることも覚えておいてください。
そして、入居後に何らかのトラブルが起きてしまった際は、施設側に相談し、一緒に解決策を見つけられるとよいのですが。退去勧告を受ける前に、話し合うことで納得のいく答えが見つかるかもしれません。
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