人間は3つの呼吸を使い分けている|メンタルを整える「吐いて吸う」呼吸法を専門医が伝授
コロナ禍以降、持病の有無にかかわらず息切れが気になる人が増えているという。小さな呼吸の不調でも、放置すると体と心に悪影響が及ぶことがある。ふだん、あまり意識することのない“呼吸”について、この機会に考えてみませんか?
教えてくれた人
松野圭さん/呼吸器内科医
順天堂東京江東高齢者医療センターの「息切れ外来」で、息切れ患者の診察にあたっている。順天堂大学医学部呼吸器内科学、同学部スポーツ医学研究室准教授。呼吸筋ストレッチ体操指導士として各地で指導も行う。
人間は3つの呼吸を行っている
呼吸を整えることがメンタル向上につながるのはなぜか?
「呼吸は、心臓や消化器官と同様、ふだんは自動的に動いています。止まったら命にかかわりますからね。それを司(つかさ)っているのが自律神経という自動調整機能。自律神経がメンタルの調整に大きくかかわっているのはよく知られていますが、自律神経は基本的にコントロールできないもの。
ただ唯一、呼吸だけは例外です。なぜなら呼吸は自分で変えることができるからです。もう少し詳しく説明すると、人間は、同じように見えて実は異なる3つの呼吸を行っており、それぞれの呼吸は脳の違う部位から指令が出ています。
1つ目は、自動的に行われている『代謝性呼吸』で、脳幹という部位でコントロールされています」(呼吸器内科医の松野圭さん・以下同)
2つ目は、息を止めたり深呼吸を行ったりと、意識的に変えられる「行動性呼吸」。司令塔は、感情や筋肉を動かす大脳皮質だ。
「最後が、『情動呼吸』。情動(喜怒哀楽の感情)を司る脳の『扁桃体(へんとうたい)』の支配下にある呼吸です。情動呼吸とは、緊張や不安を感じると無意識に呼吸が乱れ、リラックスすると安定する呼吸のことで、呼吸が乱れると交感神経が優位に、安定していると副交感神経が優位になることがわかっています」
3つの呼吸の大きな特徴
<1>行動性呼吸(頭の部位:大脳皮質)
・自分の意志
・息止めや深呼吸
<2>情動呼吸(頭の部位:扁桃体)
・緊張や不安(呼吸が乱れる)
・リラックス(呼吸が落ち着く)
<3>代謝性呼吸(頭の部位:脳幹)
・無意識
・生きるために必要
※出典:順天堂東京江東高齢者医療センターより改変
リラックスできる呼吸で気分を落ち着かせて
そこで、「不安で呼吸がしづらい」と感じたときにリラックスできる呼吸を行えば、副交感神経を優位にさせ、気分を落ち着かせることができるというわけだ。
「ゆっくりと鼻から吸い、さらにゆっくりと鼻(口でもOK)から吐くのが、理想的な呼吸です。皆さん、息を吸って酸素を取り入れることが大切だと思いがちですが、実は吐き出す方がメイン。医大生でも案外知らないんですよ(笑い)。『呼吸』とは文字通り『吐いて吸う』という意味ですから、先人はよく理解していたのでしょうね」
松野さんによると、息を吐ききったつもりでも肺の中には半分程度の残気量(残った空気量)があり、肺機能が衰えると残気量が増え、肺の利用効率が悪くなるという。その状態で酸素を取り入れても、よい循環にはならないわけだ。
息苦しくなると息を吸いたくなるが、そんなときこそゆったりとした鼻呼吸で余分な酸素を吐き出すことが重要だ。
「呼吸のキモは『呼吸筋』と呼ばれる胸郭(きょうかく/ろっ骨や脊椎で囲まれた空間)まわりの筋肉群(下の図参照)です。
実は、肺は自力で動けず、呼吸筋によって動かされている。そんな重責を担った呼吸筋ですが、運動不足や加齢で衰え、さらにスマホによる悪姿勢で凝り固まっている。それが、呼吸のしづらさを招いています」
まずは呼吸筋をほぐすことが、スムーズな呼吸への近道。美容と健康のためにも、呼吸ケアは必須!
呼吸に必要な筋肉
人間は、呼吸をするのに、これだけの筋肉が必要になる
<吸息筋>
A:胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)
B:斜角筋
C:僧帽筋(そうぼうきん)
D:傍胸骨内肋間筋(ぼうきょうこつないりょくかんきん)
E:外肋間筋(がいろっかんきん)
<呼息筋(こそくきん)>
F:内肋間筋
G:外腹斜筋
H:内腹斜筋
I:腹横筋
J:腹直筋
イラスト/うつみちはる
※女性セブン2024年11月14日号
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