歯列矯正や入れ歯は70才からでも遅くはない!歯の専門家が教える“健康寿命をのばす歯の治療法最前線”
私たちにとって口は大事な身体への入り口。だからこそ歯や口の中の健康状態が、全身の健康にも大きな影響を与える。人生100年時代といわれる中、健康寿命をのばすためにも虫歯や歯周病にならないように未然に防ぎたいもの。歯の最新治療から不幸にも歯を失ってしまった時の対処法まで、いま知っておくべきことを歯の専門家に教えてもらった。
教えてくれた人
照山裕子さん/歯科医・東京医科歯科大学非常勤講師、福井只美さん/アイ矯正歯科クリニック副院長、小林保行さん/キーデンタルクリニック院長、角田達治さん/アルカディア歯科・矯正歯科院長
人生の後半でも歯並びを整えた方が心身ともに健康になれる
80才になっても自分の歯を20本以上保つことを目指す「8020(はちまるにいまる)運動」はいまや健康長寿の“常識”となりつつあるが、ただ20本あればいいわけではない。2005年に発表された80才以上を対象に噛み合わせや歯並びと歯の本数を調査した「8020達成者の咬合(こうごう)状態」の結果によれば、その8割が整った歯並びの持ち主だった。
歯科医で東京医科歯科大学非常勤講師を務める照山裕子さんは、調査から20年近く経ったいまもこの傾向は変わらないと話す。
「歯並びがきれいな人の方が、汚れがつきづらく磨き残しが少ないうえ、食べ物を噛むときに全体の歯にバランスよく負荷がかかるために歯のすり減りが均等で、虫歯や歯周病になりにくい。整った歯並びは“100年食べられる歯”を作るうえで重要なファクターになることは間違いありません。そのため、歯列矯正で歯並びを整えておくことも、歯を長持ちさせる1つの方法です」(照山さん)
とはいえ、「矯正は若い頃にやっておかなければ意味がない」と考える人もいるだろう。実際、歯列矯正をしている人の8割が40代以下であるというデータもある。しかし、アイ矯正歯科クリニック副院長の福井只美さんは、矯正は年齢に限らず有効だと話す。
「実際に当院では70代で歯列矯正を受けている患者さんもいます。ほかのデンタルクリニックで年齢を理由に断られたと来院する人もいますが、私はいくつになっても歯列矯正は可能だと考えていますし、インプラントや差し歯があっても矯正した患者さんは大勢いる。噛み合わせがよくなることはもちろん、『ずっとコンプレックスだった歯並びが整ってうれしい』と見た目がきれいになったことを喜ぶ声が非常に多いです」
人生の後半で理想の歯並びを手に入れることは、心身ともに健康な状態を導くということ。ただし、年を重ねてから歯列矯正をする場合は、大切な歯に必要以上に負担をかけないために気をつけるべきことがある。
「歯列矯正をしたいと思ったら、虫歯や歯周病の疑いがある場合でも、最初に矯正歯科に行ってください。歯列矯正は口腔内全体の状態をチェックし、どの歯を残して矯正するかを立案することからスタートします。矯正のために抜歯するなら、まずは人工的な歯や弱った歯が対象になるため、もし先に虫歯や歯周病の治療を行い、高額なインプラントを入れたとしても、その歯を抜かなければならなくなるケースがある。最初のチェックで歯周病や虫歯を見つけたら、専門医を紹介するので、治療と同時進行で矯正を受けることができます」(福井さん)
入れ歯を使いこなすために70代までに作るべし
歯周病や虫歯が見つかった場合は、いかに早く治療を受けるかも歯の寿命を左右する。
「特に歯周病は、糖尿病や動脈硬化、心疾患などを増悪させることがわかっており、全身の健康のためにも早期治療がマストです。デンタルクリニックでは歯磨きの指導や歯石の除去から始まり、それでも改善が見られなければ、歯肉を切開して歯石を取り除く『フラップ手術』という治療を行います」(照山さん)
虫歯も発見が早いほど、負担は少なくなる。キーデンタルクリニック院長の小林保行さんが解説する。
「小さな虫歯ほど削る部分が少なくなり、プラスチックが原料の『コンポジットレジン』など金属以外を使った保険治療が可能です。医学的見地からいえば、金属はアレルギー反応のリスクもあるため、自費も考慮に入れて、できるだけ金属の使用は避けてほしい」
セルフケアから早期治療まで、あらゆる手を尽くしても歯を失ったときは、入れ歯に頼ることになる。その場合は、自分に合ったものを選べるかどうかがその後の人生を左右する。
「『自分の歯じゃないと違和感がある』『きちんと噛めないのではないか』など抵抗感を
持つ人も少なくありませんが、その人に合った入れ歯を作れば違和感なく何でも食べられます。ただ、入れ歯治療は手間や時間がかかるため、保険適用内で作られるものは歯科医にとってほぼ利益が出ず、それゆえに質が低くなる。実際に『入れ歯を入れて食べると痛いから』と、取り外して歯茎で食べている患者さんも少なくなく、そうした状態では好きなものを自由に食べることは難しい」(アルカディア歯科・矯正歯科院長の角田達治さん・以下同)
作る際は、自費入れ歯の経験が豊富な医師による自費診療も考慮に入れるべきだろう。
「また、入れ歯製作には技工士との連携が重要であるため、院内に自費入れ歯専任技工士や関連設備を併設している歯科医院はいい入れ歯を作る技術があるといえます。加えて、なるべく早めに歯科医に相談することも大切です。入れ歯を使いこなすには若い方が有利で、80才を超えて作っても、口腔環境に慣れるのが難しい。いい入れ歯を70代のときに作っておくのがベストでしょう」
最期まで好きなものを楽しく食べるために、いまできることから取り組もう。
歯と全身的な健康状態の関連をチェック!
【1】歯が<脳>に与える影響とは?
ものを噛むとき、脳も刺激を受けている。噛む力が弱まればそれだけ認知症リスクも上がる。
【2】歯が<心臓>に与える影響とは?
歯周病は動脈硬化の原因となり、心疾患リスクを上げることが明らかになっている。
【3】歯が<腸>に与える影響とは?
歯周病は腸内に作用し、腸内細菌のバランスを乱すこともある。
【4】歯が<脚>に与える影響とは?
噛む力がなくなると、たんぱく質の摂取量が減り、歩けなくなるケースも。
写真/角田先生提供、PIXTA
※女性セブン2024年3月28日号
https://josei7.com/
●「100年食べられる歯」を目指す7つのルール「うがいは高速で1回」理由を専門医が解説