「100年食べられる歯」を目指す7つのルール「うがいは高速で1回」理由を専門医が解説
寿命が延びるということは、それだけ自分の体とつきあう期間が延びるということ。とりわけ、「生きること」に直結する「食べること」は最期の瞬間までついてまわる。好きなものを自由に食べられる幸せを噛みしめるために、100年食べられる歯を作る最強ルールを紹介する。
教えてくれた人
角田達治さん/アルカディア歯科・矯正歯科院長、照山裕子さん/歯科医・東京医科歯科大学非常勤講師、小林保行さん/キーデンタルクリニック院長
口腔環境の悪化すると認知症の発症リスクが2倍に
人生100年時代の到来で、人類の食事の回数は2万回以上増えた――これはシンクタンク「100年生活者研究所」が「80才から20年寿命が延びた場合」を想定し、算出した数字だ。同調査では、「食べることに幸福を感じる人ほど人生全体の幸福度が高く、長寿のモチベーションが強い」ことも明らかになった。
つまり、健康寿命を延ばし、最期まで幸せに生きられるかどうかは、自分の歯をいかにして長持ちさせ、「噛む力」を維持できるかにかかっているということ。
30年以上にわたってシニア世代の「噛み合わせ」の問題に対峙してきたアルカディア歯科・矯正歯科院長の角田達治さんも現場でその重要性を痛感している。
「医療技術や介護食がどんなに発展しても、口からしっかり栄養を摂ることに勝る健康法はありません。特に全身の筋肉を作る肉や魚などの動物性たんぱく質はほかの食品では代替できないため、歯が衰えて食べられなくなれば、急激に体が弱っていく。また、噛むことは口まわりの神経を刺激し、脳の活性化にもつながります」(角田さん・以下同)
翻っていえば、口腔環境の悪化は脳の機能低下を招くということ。
「きちんと噛めていない人は認知症の発症リスクが2倍になるという研究結果もある。実際に、寝たきりになった患者さんがしかるべき処置を受けて再び噛むことができるようになった結果、友人と旅行に行けるまで回復するようなケースは珍しくありません」
歯科医で東京医科歯科大学非常勤講師を務める照山裕子さんも「歯の健康は寿命と直結している」と声を揃える。
「80才で自分の歯が20本以上残っている人は、19本以下の人に比べて転倒や要介護のリスクが低く、健康で長生きすることが明らかになっています。にもかかわらず、いまだに口の健康に無頓着で『悪くなったら抜いて入れ歯にすればいい』と考えている人は少なくない。
平均寿命が70代前半だった昭和の頃ならまだしも、100才まで生きる時代において、そうした意識では歯を守ることはとうてい不可能です。いますぐ、長持ちする“100年歯”の作り方をアップデートしてください」(照山さん・以下同)
歯ブラシ以外のツールを使って長持ちする“100年歯”を作ろう!
「100年歯」を作るために、真っ先に取り組むべきこととして専門家たちが主張したのは、毎日のセルフケアを徹底すること。
「口腔内を自浄する役割を果たしてくれる唾液や、歯を覆うエナメル質の厚みは、年を重ねると減り、歯周病や虫歯の罹患リスクが高まるため、シニア層ほどこまめなケアが必要です」
歯を守るための正しいケアをするために、まず見直すべきは使っている歯磨き剤の成分だ。キーデンタルクリニック院長の小林保行さんが解説する。
「虫歯予防に効果があると証明されているフッ素が入っていることはマストです。1450ppmの高濃度タイプを選ぶとなおいい。一方で、ホワイトニング用の研磨剤と泡立ちをよくするための発泡剤は入っていないものが正解です。研磨剤はエナメル質をすり減らし、発泡剤は爽快感が得られる一方、磨き残しを招く可能性があります」
照山さんは「歯ブラシ以外のツールを使いこなせるかが明暗を分ける」と話す。
「歯ブラシを上手に使えていても、歯間をしっかり磨かなければ6~7割しか汚れが取れていません。特にシニアには歯や歯茎がやせている人が多く、歯間に汚れが詰まりやすい。フロスや歯間ブラシなど歯ブラシ以外のツールは、必ず導入してください。
また、使うタイミングは歯磨き前が効果的。歯磨き剤のフッ素成分が歯間に残り、虫歯予防になります」(照山さん・以下同)
口をゆすぐときは“スピード”を意識したい。
「高速でうがいをすると、水圧で汚れが落ちやすくなるうえ、口まわりの筋肉を鍛えることにもつながるため一石二鳥です。ただし、フッ素を行きわたらせた後は、吐き出す回数を少なめに。できれば1回にとどめてください。 歯周病予防の洗口液は就寝前に使用するのが効果的。『エッセンシャルオイル』『グルコン酸クロルヘキシジン』『塩化セチルピリジニウム』といった薬用成分が含まれた製品は、歯周病対策に効果があると証明されています」
お茶やコーヒー、チーズは虫歯予防に効果的
食生活の改善も、歯を長持ちさせることにつながる。
「世界保健機関(WHO)が2005年に発表した『歯と口腔の疾患および健康に関する食事』では、たんぱく質やポリフェノール、ハードタイプのチーズなどを積極的に摂ることが推奨されています。たんぱく質は、歯周病悪化を予防する必須アミノ酸の含有量が多いうえ、筋肉の原材料にもなる。口まわりの筋肉を維持する意味でも積極的に食卓にのせるようにしてください」
ポリフェノールの抗酸化作用には、歯周病の炎症を抑える効果が。
「具体的には、果物や野菜、お茶、コーヒー、ナッツなどがおすすめ。また、ハードタイプのチーズは虫歯予防に効果的です。カリウムやリンなどのミネラル成分によって歯の再石灰化が促されます」