倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.17「もう泣きたくないのにな」
漫画家の倉田真由美さんは、すい臓がんで2月に旅立った夫、叶井俊太郎さんの思い出探しをしては、涙する日々が続いている。「夫の思い出探しは、楽しいのか苦しいのか」。愛する人の喪失と向き合う、現在の心境を明かしてくれた。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
時間薬の効き目はかなりゆっくり
「時間薬」とは、私が想像していたよりも効き目がかなりゆっくりのようです。現状、今日まで「少しずつでも気持ちが楽になってきた」という実感はありません。
一日の中で、夫のことを考えていない時間も当然あります。笑っている時、何かに夢中になっている時も。夫のことが頭をよぎっても、「あ、ちょっと辛さが軽くなってきたかも」と思えそうな瞬間もあります。でもその次の瞬間どっぷり悲しみが押し寄せてきて、涙が止まらなくなったりしてしまいます。
この繰り返しの日々です。昨日より今日の方が楽、とはまだなりません。女友だちにこういう状態であることを話したら、「恋をしているみたいだね」と言われました。
気持ちが囚われる、という意味ではまさしくそんな感じかもしれません。でも、恋は楽しいけど夫の喪失を嘆くことはつらいので、その点がまったく違います。私は今の状態が苦しいです。毎日何度も泣くのは嫌なんです。もう少しだけでいいから、平気になりたいんです。
でも、思い出探しをしてしまう。昔の携帯まで漁って。考えないようにしようと、離れることができないんです。とりあえずこの思い出探しの作業が一通り終わらないとどうしようもないのかな、という気もしています。
夫の思い出探し「楽しいのか苦しいのか」
昨日は十年以上前に使っていたガラケーの中に残っていた、彼とのメールのやり取りを読み返していました。結婚する前のものも残っていて、「ああ、今とは言葉遣いが違うなあ」「お互いちょっとだけ丁寧で、ちょっとだけ他人行儀だな」など、感慨深いものがありました。当たり前だけど、十年以上も前だと結構忘れていることも多いんですよね。
夫の文章はちょっと読んだだけでも、「あ、夫だ!」とわかるくらい特徴があります。短いメールにも随所に夫らしい言い回しや表現があって、夫を感じることができます。
夫の思い出探しは、楽しいのか苦しいのか自分でもよく分かりません。笑顔の夫を見つけたりした時は嬉しいけど、すぐにまた泣き濡れてしまう、その時ははっきりと苦痛です。でも、せざるを得ないのでしている、という感じでしょうか。
夫のことを、涙なく話せる日が来るといいな。でも、まだまだ先になりそうです。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』