長~い52間の縁側がある千葉のデイサービスがグッドデザイン大賞に!「赤ちゃんから高齢者まで誰でもウェルカムな場所」
千葉・八千代市のデイサービス『52間の縁側』が2023年度のグッドデザイン大賞に輝いた。厚生労働省の調査によると、要介護(要支援)と認定された人は、2023年11月時点で約707万人となり、増加傾向にある。人はいつまでも自分らしく、元気でいたいもの。介護や支援が必要になっても地域社会と切り離されず、ありのままの生活が送れる施設として注目を集めている。どんな場所なのか紹介していこう。
高齢化に伴い必要性が高まる「デイサービス」の存在
デイサービスとは、介護保険サービスのひとつで、運動や食事、他の利用者との交流を楽しめる施設だ。
食事・入浴・排泄の支援だけでなく、体を動かすゲームや習字、フラワーアレンジメントといったレクリエーションが行われ、 高齢者のQOL(=生活の質)向上を目的とした活動が中心となる。最近では、スポーツジムが併設されていたり、麻雀やカラオケのような趣味を楽しめたりと、ユニークなサービスを提供している施設が人気になっている。
そんな高齢者のニーズを満たす多種多様なデイサービスが登場する中、高齢者が家族や地域と切り離されずに過ごせる居場所として注目なのが、千葉・八千代の「52間の縁側」だ。2023年のグッドデザイン大賞とJIA日本建築大賞をダブルで受賞した話題のデイサービスを紹介する。
地域社会との融合を目指す新しいスタイルのデイサービスが誕生
千葉県八千代市にあるデイサービス「52間の縁側」は、一直線に設けた長い縁側と「カフェ・工房」「高齢者が過ごすリビング」「はなれのような座敷と浴室」の3つの機能に外部スペースを挟み込むように配置。小さな居場所がいたるところに散りばめられており、高齢者向けの施設でありながら地域の人たちが気軽に立ち寄れる空間が広がっている。地域住民や子ども達と一緒に庭づくりのワークショップを開催し、利用者だけでなく大人も子どもも信頼し合える地域づくりが行われているのも魅力の1つだ。
通路には柱が立っていたり、木道には手すりがなく縁側には段差があるなど通常の高齢者施設では見かけない光景が並ぶ。柱にぶつかったり、段差でつまずくリスクを含んだ利用者の安全確保と逆行した「不便さ」は、人と人との交流やコミュニケーションで補うことを想定している。
また、自発的な行動を基本としており利用者がむりやり誰かと話したり、交流する必要もなくサービスを押しつけられる心配もない。介護や支援が必要でも「同じ空間にいるだけ」で他者との交流が生み出されるように設計されているのだ。
みんなの存在を感じられる「まち」のような存在に
長い縁側と広い屋根下の空間、カフェ、寺子屋、デイサービスや公衆浴場といった施設の中に様々な人々が行き交う「まち」の機能を持つデイサービスは応募総数5447件の中から2023年度「グッドデザイン大賞 内閣総理大臣賞」を受賞。さらに2023年度「JIA日本建築大賞」も受賞した。
「デイサービスという型にはまらない、地域でお互いに助け合える場がここでは実現されています。赤ちゃんからお年寄りまで誰でもウェルカムという状況が何より素晴らしい。お年寄りもいつもサポートされるだけでなく、子どもを見守ったり、子どもも大人の手伝いをしたりと、昔は当たり前にあったであろう風景が日常的にあり、長い縁側と広い屋根下空間がそのコンセプトを見事に体現させ、実際の状況を誘発させています」
とグッドデザイン賞の審査委員から高い評価を得ている。
設計を担当した建築家の山崎健太郎さん(※立つ崎)は
「これまでの多くの高齢者施設は、最期までその人らしく生きていくことができているのかをよく考えました。施設の中では、同じ状況(介護度)の同じような人たちと共に過ごすことを強要され、入浴、排泄、食事は皆一律なサービスが提供されています。認知症の親を介護する家族にとって施設で預かってもらう時間はひとときの安らぎですが、ひとたび自宅に戻ってきた時の負担とストレスはとても大きい。制度やお金に頼った介護は当事者にとってもその家族にとっても急場はしのげますが、人生の終わりに向かっていく姿として不十分なのではないかと感じたんです」
と思いを語った。
今はまだ元気でもいつかは利用するかもしれない介護保険サービス。最後まで自分らしい生活を送るためにも、どんなサービスや施設があるのか早めに調べておくのも悪くはないだろう。
【データ】
52間の縁側(山崎健太郎デザインワークショップ)
https://ykdw.org/works/long-house-with-an-engawa
2023年度グッドデザイン賞
https://www.g-mark.org/gallery/winners/20423?years=2023
※一級建築士事務所 株式会社 山崎健太郎デザインワークショップの発表したプレスリリース(2024年2月8日)を元に記事を作成。
写真/山崎健太郎デザインワークショップ提供 取材・文/松藤浩一
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