見えない何かが見えている?終末期の父の様子にハラハラしながらむくんだ手足をマッサージ【実家は老々介護中 Vol.37】
81才になる父は、がん・認知症・統合失調症と診断され、母が在宅介護を続けていました。美容ライターの私と3歳上の兄も母をサポート。入退院を繰り返しながらも、父の最期は家でと思っていた家族でしたが、家で看ることが限界になり結局入院。もう家には帰れないだろうと覚悟を決めたものの、何もしてあげられない状況に、家族にも不安と焦りが…。コロナによるお見舞いの制限がある中、できることを探して悶々としています。
→36回【おそらくもう家には戻れない、三度目の入院。黒い服を用意して、今後に備える家族会議】を読む
誰かと話してた?父に不思議な言動が次々に現れる
病院での父は、誰かが見えてるのかな?と思うことが何度かありました。目をパチパチさせ、驚いた様子で私の後ろをしきりに見ているのです。ちゃんと目覚めているときは、意思疎通でき、あやふやながら会話もできるのですが。
「何?どうしたの?」と聞いても「うん、うん」としか答えず、ニコニコしながら「ああ、そう、そう」と誰かと話す素振りを見せたこともありました。これは何でしょう?統合失調症の幻覚、幻聴は、ずっとお薬で消えていたはずです。こういう考えには戸惑いもありますが、いわゆる「お迎え現象」というものでしょうか?
お見舞いに来てくれた親戚に話すと、「会いたい人が見えるのかもねえ。うちの身内のときは、いろんな人が会いに来たみたいなんだよね。生きてる人も死んでる人も、もう記憶がごっちゃになって。本人は喜んでたなあ」と教えてくれました。父は怖がってないし、むしろ興味深く見えない誰かと接してるんだから、まあいいか…。
最後のお別れにと、実家へ来てくれたのに、またも病院に励ましに来てくれる親戚たち。みんな身内を見送ったことがあり、この状況でも余裕があるというか落ち着いています。私は自分の親のことだし、人の旅立ちに関して、まだまだヒヨッコなので、常に落ち着かない。親戚がいちいちアドバイスをしてくれます。
「この感じだと、あと1、2週間くらいだと思うよ」
「お別れがね、順番どおりならいいんだよ。万歳って思わなくちゃ」
イヤ、万歳は言いすぎ。みんな自由すぎて、ありがたいような、疲れるような気分になるのが正直なところです。
「お母さんが寂しいんだからね。話し相手になってあげて」と、的確なアドバイスもあり、「それは確かに」と、心がけていこうと思いました。
入院から5日が経った今、父は弱々しく青白く、やせて力もギリギリです。震える手でどうにか私の手を握ってくれた様子に胸が痛みました。かろうじて水は飲めているようでしたが、何をするにも体に力が入らない様子。
今、家族にできることは何でしょう?無力感と焦りがストレスになり、もう介護をしているのではないのに、毎日疲れます。
「せめてスキンシップをして、愛情を伝えておこう。私も父に触れて記憶に残しておきたい」と、どちらかというと自分のためですが、父にリップクリームを塗ってあげたり、クリームで父の手や足をマッサージしたりすることにしました。
病院はいまだにコロナ対応で、面会時間は1日に30分、2名だけというルールです。母、兄、私のうち2人しか行かれず、親戚が来る日は譲らなくてはならないとなると、結構不便です。
コロナ禍でなければ、父ももっとイキイキ過ごせて、もう少し長生きできるのではないだろうか?もう何を恨めばいいのかわかりません。
「お父さん、マッサージ気持ちいいですか?」
「うん、うん、ありがとう」
父は、香りのついたクリームをずっとイヤがっていたのに、もうにおいを感じないみたいです。すぐに目をつぶって寝てしまうのは傾眠傾向なのでしょう。
点滴のせいか、手足はむくんでパンパンです。触るとぶよぶよして、じっとり湿っています。
旅立ちが近くなった人は、肌の水分量が減っていくといいます。
「父母はもう少し時間がほしいのだから、点滴で延命するのには意味がある。しかし、本当にこれでいいのか?父を苦しめていないか?」とぐるぐる考えてしまいます。
私自身も心の準備なんてできやしないので、父が少しでも長く生きてくれるのはありがたいのですが…。
水分を入れたら尿も出るわけで、父はカテーテルを入れられ、お小水は尿バッグに溜まっていきます。尿量を確認できるようベッド横に尿バッグが下げられているのを見た兄は、
「おしっこが外から見えるってイヤだよなあ。おしっこが出なくなると、もう間もなく…ってことらしいよな。何週間もベッドに寝たままお迎えを待つのは、俺はイヤだなあ」と言い、複雑な気持ちみたいです。
今の私は、自宅と実家を1日おきに行き来しています。仕事していても「今このとき、父の命は刻々と削られている」と思うと不安になるんですよね。
過去に身近な人を見送った経験があれば、もっと冷静でいられたのかもしれません。うちの子どもたちにも、老いて旅立っていく父の姿を見せておくことが、将来役立つのかもしれない、と思いました。
文/タレイカ
都心で夫、子どもと暮らすアラフィフ美容ライター。がん、認知症、統合失調症を患う父(81才)を母が老々在宅介護中のため、実家にたびたび手伝いに帰っている。
イラスト/富圭愛
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