父、急変…。血圧低下、発熱しても救急車を呼ばずにいられるのか? 決断のときが来ました【実家は 老々介護中 Vol.35】
81才になる父は、がん・認知症・統合失調症と診断され、母が在宅介護をしています。美容ライターの私と3歳上の兄は、実家に通って母を手伝っています。いよいよ具体的に最期の準備を始める段階に。複雑な気持ちを抱えながらもうまく立ち回り、家族に後悔を残さないようにしたいのですが…。
延命措置はしないと言いながら、父母は点滴を選択
仕事場に母から電話が来ました。
「今日、訪問診療が来てさ。お父さん、血圧がちょっと低いし不安定だって。とりあえず、家で点滴することにしたよ」
――ああ、やっぱり点滴か。
「わかった。仕事終わったらそっちに行くね」と答え、訪問診療の医師が言っていた言葉を思い出していました。
「もう水を処理できない体に点滴をするとね、肺などに水が溜まりやすくなって苦しいんですよ」
「父の希望だとは思うけど、点滴も延命措置なんじゃないかな? これって正解なの? そもそもがんの告知をしていないのはどうなんだろう?」とこの辺は、何度考えても答えが出ないです。
兄は今日、仕事を抜けられないと言うので、私が実家を見に行くことに。父は眠っていて、点滴の処置をしに訪問医療の看護師さんが来ていました。
「点滴がもうすぐ終わるので、少し待ちますね」と、看護師さん。でも、時間の余裕を持って来てくださった本当の目的は、家族に話をすることだったようです。リビングに座ると、私たちふたりの目を見て看護師さんは静かに話を始めました。
看護師:「今のうちに、この後のことを話し合っておかれたほうがよろしいと思います」
母:「そうですよねえ。あとどのぐらい、もつんでしょうか?」
看護師:「いつまでかは、誰にもわからないんですが、やがて、あまり遠くない未来です。必ず、旅立ちます。必ずです」
母の寂しそうな顔に驚きました。もうショックなんて受けないくらい、この状況をわかっているはずなのに。50年以上連れ添った相方がいなくなるインパクトはとてつもなく大きいのです。
看護師さんが帰ると、母は目をショボショボさせながら呟きました。
「こんな話、縁起でもないけどしょうがないね。覚悟はしてたけど、寂しいよねえ」
母の考えでは、お葬式をするにしても親戚は年寄りばかりだし、コロナやインフルエンザが蔓延するのが心配。だから、こぢんまりやりたいとのこと。
私は、小規模なお葬式専門の仲介業者から資料を取り寄せてあること、明朗会計だから母の希望に合うかもしれないことを説明し、それから、
「仕切りはお兄ちゃんに任せるって、ちゃんと言っておいてね」
と釘を刺しました。
もちろん、私にやれと言われれば葬儀の手配でもなんでもやるけど、きょうだいゲンカに発展しそう。兄に任せたほうがいいに決まっています。
その夜。私が仕事場に戻って作業していると、深夜2時半に母から電話がありました。父が熱を出して苦しそうなので、救急車を呼んで入院させたというのです。
「それじゃあ、最期を家でという可能性は無くなったよね?父母が病院のほうが安心、と判断したのならそれでいいけど…。そうか、やっぱり」と私は思ってしまいました。
この先、病院で最期を迎えるのか、看取りは別の施設になるのか?果たしてどうでしょう?
でもとりあえず、私が、遠くから実家に通う任務は終わったということです。なんだか少しホッとしました。
文/タレイカ
都心で夫、子どもと暮らすアラフィフ美容ライター。がん、認知症、統合失調症を患う父(81才)を母が老々在宅介護中のため、実家にたびたび手伝いに帰っている。
イラスト/富圭愛
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