メニエール病|原因、検査、診断、保険適用の最新治療法など解説
メニエール病は内耳の内リンパ水腫により、回転性のめまいや耳鳴り、難聴などの症状が起こる。30〜50歳代での発症が多く、ストレスや過労、睡眠不足が誘因となり、めまい発作が発症する。治療は内服薬が基本だが、難治例は手術も行なわれる。
近年、造影剤使用のMRI検査により、内リンパ水腫の可視化が可能となった。診断や治療効果判定への活用が期待されている。
めまい発作誘因原因はストレス、過労、睡眠不足
音は鼓膜を振動させ、中耳の耳小骨から内耳の蝸牛(かぎゅう)に伝わる。そこで感覚細胞により、電気信号に変換され、蝸牛神経を介して脳に伝達されることで認知される。音の聞こえに重要な働きをする内リンパ液は蝸牛内の血管条(けっかんじょう)で作られ、内リンパ嚢(のう)で吸収される。
内リンパ液の過剰生産や吸収低下、血管条から内リンパ嚢に至る経路内の通過障害などで、内リンパ水腫(内リンパ液が正常以上に溜まる状態)が生ずるのが、メニエール病の病態と考えられている。
厚生労働省の研究班によるメニエール病患者対象の大規模疫学調査では、めまい発作を誘引する原因としてストレス、過労、睡眠不足が指摘されている。
富山大学医学部耳鼻咽喉科頭頸部外科学講座の將積(しょうじゃく)日出夫教授に話を聞いた。
注目の画像診断、内耳造影MRI
「内リンパ水腫で、めまい発作が起こるメカニズムは、いくつか推測されています。1つは内リンパ液を貯蔵している内リンパ腔の一部に穴が開き、内リンパ液の成分のカリウムが外リンパ腔で神経を刺激し、めまいを起こす膜破綻説です。通過障害が起こっている部分に圧が加わり、詰まりが一気に解消するときの急激な圧の変化で、めまいが起こるという説もあります」
近年、内耳の内リンパ水腫の画像診断として内耳造影MRIが注目を集めている。造影剤注射数時間後にMRIの撮影を行なう。造影剤は内耳の外リンパ腔に入るが、内リンパ腔には入らない。そのため内リンパ水腫は内耳の造影欠損像として可視化される。
2017年、日本めまい平衡医学会により、メニエール病の診断基準が改訂され、内耳造影MRIを含む、検査所見(聴力検査、平衡機能検査)が新たに追加されている。その一方、メニエール病確実例の診断には内耳造影MRIは必要とされていない。
メニエール病の診断基準(2017年改訂版)
●回転性のめまい発作が反復する
1、純音聴力検査
4、内耳・後迷路性疾患、中枢性疾患など原因既知疾患の除外
●難聴や耳鳴り、耳閉塞感などの聴覚症状が変動する
2、平衡機能検査
5、聴覚障害のある耳のMRI造影によらない内リンパ水腫の確認
●第Ⅷ脳神経以外の神経症状がない
3、神経学的検査
従来の診断基準は上の3項目で、2017年版より検査項目が追加された。新しい診断基準では症状の3項目すべてを満たし、検査所見1から4までを満たすもの。さらに検査所見の5を満たす場合はメニエール病の確定診断例となる。
治療は経口利尿剤、抗めまい薬などの内服。手術が検討される場合も
治療は経口利尿剤や抗めまい薬などの内服治療が基本だが、薬物が無効で、めまい発作を繰り返す場合には手術治療が検討される。
内リンパ嚢開放術は脳硬膜表面に存在する内リンパ嚢を外側から切開する手術だ。
耳後部(じこうぶ)の皮膚を切開し、骨を削開してアプローチする。内耳に直接的な手術操作を加えない手術治療で、耳鼻科医が担当する。また鼓膜に穴を開け、内耳の感覚細胞を障害する薬(ゲンタマイシンなど)を入れ、めまいを軽減させる手術もある。
「内リンパ嚢開放術などで治らない難治性メニエール病に対しては前庭神経切断術を行なうこともあります。前庭神経は内耳からの情報を脳に伝える神経で、前庭神経切断術により、90%以上がめまいから解放されます。この手術は脳外科医が担当しますが、耳鼻科医も連携して行なう場合があります」(將積教授)
これまでのメニエール病治療は薬か手術かの二択だったが、昨年手術適応のある患者に対し、非侵襲忠治加圧装置を使用した中耳加圧治療が保険収載された。
非侵襲中耳加圧装置を使用した中耳加圧治療とは
メニエール病は内リンパ水腫により、めまいなどの発作が生ずる病気だ。治療は内服治療を主に行なうが、効果が得られず、めまい発作を繰り返す場合は手術が必要となる。
そうした手術適応の難治性患者に新治療として昨年保険収載されたのが、日本発の非侵襲中耳加圧治療だ。
中耳加圧治療は1970年代にスウェーデンで始まった。大型の減圧装置内に患者を入れ、時間をかけてゆっくりと室内を減圧する。減圧室内で患者は嚥下(唾を飲み込まない)しないよう医師から指示を受ける。これにより中耳腔の気圧は減圧室内の気圧よりも高くなり、陽圧(加圧された)状態が保たれ、メニエール病の症状が改善される。
「減圧室を使った中耳加圧療法は、めまいなどの症状に効果があったのですが、大規模な施設の建設が必要なため、普及しませんでした。その後、1990年代に圧波を出力する小型の中耳加圧装置が開発され、現在は欧米で広く普及しています。ただ、その装置では鼓膜に穴をあけた状態(鼓膜穿孔)を維持することが不可欠で、日本では承認されていません」(將積教授)
中耳加圧療法のメカニズムは加圧により、内リンパ液の流れを促進する、内耳のホルモン分泌に影響するなどが推測されている。將積教授らは2000年頃から、欧米で開発された小型の中耳加圧装置を使って臨床研究を開始、治療効果を実証した。
しかし、この装置では鼓膜穿孔を維持する目的でチューブを留置する必要がある。留置は鼓膜穿孔や中耳炎の原因となる可能性のほか、チューブのトラブルで、めまい発作が再発することもあった。そこで鼓膜穿孔せずに中耳加圧治療が可能な装置の開発に着手した。
日本には古くから、耳管狭窄(じかんきょうさく)治療に使われてきた装置が存在し、長期間の使用で安全性も確保されている点に着目、2007年から新しい臨床研究を開始したのである。
「欧米の装置は陽圧の圧波だけを用います。私たちの装置では陽圧と陰圧の圧波を確実に出力することにより、効果が得られるように工夫しました。難治性メニエール病患者を対象に1年間、中耳加圧治療を継続し、8割以上で効果があることがわかりました。これは欧米の装置と同程度の治療効果でした」(將積教授)
富山大学と富山県新世紀産業機構、第一医科、ハイメックと共同で中耳加圧装置を開発して企業治験を実施。非侵襲中耳加圧装置による中耳加圧治療は昨年9月に保険収載された。
患者は自宅で毎日治療を行なう。1日2回、1回3分加圧して毎日の「めまい症状日誌」をつける。1か月後から効き始める人もいるが、通常は3〜4か月以降に効果が出てくる。なお、1か月に1回の通院も不可欠だ。
難治性患者の手術に変わる新治療として期待は大きい。
※週刊ポスト2019年3月22日号、3月29日号
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