肺がんステージⅢの治療に新薬登場 「20年ぶりに進展」へ
肺がんは自覚症状が少ないまま進行し、転移もしやすいため、手術が難しい進行がんで見つかることが多い。Ⅲ期の非小細胞(ひしょうさいぼう)肺がん(腺がん、扁平上皮<へんぺいじょうひ>がん、大細胞がん)に対する治療は抗がん剤と放射線の併用療法だが、昨年新しい治療薬が承認された。
化学放射線併用療法後に、免疫チェックポイント阻害剤を投与するもので、再発までの期間を大幅に伸ばす結果が報告されている。
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がんの中で年間死亡者数1位の肺がん
肺がんの新規患者は年間13万人を超え、年間死亡者数も、約7万人とすべてのがんの中で一番多い。
肺がんの約85%は非小細胞がんで、根治治療としては手術が第一選択だが、ほぼ無症状で進行することが多く、約6割が進行がんで見つかる。
非小細胞肺がんに対する治療は手術、放射線、化学療法(抗がん剤)、分子標的薬に加え、現在は複数の免疫チェックポイント阻害剤が承認されている。免疫チェックポイント阻害剤とは、がん細胞の表面に現われる、たんぱく質のPD-L1がPD-1と結合することで免疫機能が抑制されるのをブロックし、免疫機能自体を活性化させる。
昨年、Ⅲ期の局所進行非小細胞肺がんに対する免疫チェックポイント阻害剤が、新たに承認された。
近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門の中川和彦教授に話を聞いた。
「Ⅲ期の限局型進行非小細胞肺がんは非小細胞肺がんの17パーセントを占めています。Ⅲ期は切除可能から、不能なものまで多様ですが、手術をしても成績が良好とはいえません。これまで抗がん剤と放射線の併用療法が多く選択されてきましたが、治癒率は20%程度でした。
そんな状況の中、昨年20年ぶりに、新しい治療薬として免疫チェックポイント阻害剤(商品名:『イミフィンジ(R)』)が承認されました」
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生存率が15~20パーセント向上
イミフィンジ(R)は抗PD-L1抗体で、がん細胞にあるPD-L1と結びつき、PD-1との結合を阻害し、休眠していた免疫担当細胞(T細胞)の働きの再活性化を促進、がん細胞を攻撃して死滅させる。
イミフィンジ(R)は化学放射線療法(CRT)を行なった後に、点滴で投与を開始、1年間継続する。
国内外多施設共同パシフィク試験の結果では、CRT後に偽薬を投与したプラセボ群とCRT後にイミフィンジ(R)を投与したイミフィンジ群の2群に分け、再発までの期間などの比較を行なった。CRT後のプラセボ群は再発までが5.6か月だったのに対し、イミフィンジ群は16.8か月と約1年の差があった。生存率も15〜20パーセント向上し、CRT後の維持療法としての効果が見込めることがわかった。
進行した肺がん治療の新たな選択肢に
「Ⅳ期の非小細胞肺がんに対しては、抗がん剤と免疫チェックポイント阻害剤の併用もなされるようになっています。ただⅢ期にCRTとイミフィンジ(R)の同時併用療法が可能かは現時点では不明で、これから研究を進めていきたいと考えています」(中川教授)
イミフィンジ(R)の副作用としては発疹、甲状腺機能低下、下痢、間質性肺疾患などが報告されている。すでに非小細胞肺がんに対する免疫チェックポイント阻害剤はオプジーボ、キイトルーダ、テセントリクが承認。この新薬の登場で、進行した肺がんに対する治療の選択肢が広がるのではないかと期待は大きい。
※週刊ポスト2019年2月1日号