「膀胱がん」は高齢者男性に多い 進行具合で治療法の選択を
膀胱がんの罹患率は10万人当たり約10人と推計され、男性患者は女性の約3倍となっており、喫煙者の発症率が高い。膀胱は粘膜、粘膜下層、筋層という構造で、がんが粘膜や粘膜下層に留まっている場合は内視鏡での治療が可能だ。しかし、筋層まで到達している場合は膀胱全摘術が行なわれることが多い。その場合は蓄尿と排尿が障害されて患者のQOL(生活の質)の低下は免れない。
膀胱がんは喫煙者が多く、比較的高齢者が発症しやすい
膀胱は腎臓で作られた尿を溜め、尿排出の際に収縮する働きをしている。その構造は内側から粘膜、粘膜下層、筋層と重なっている。膀胱がんの約90%は膀胱の内側を覆う尿路上皮粘膜から発生する尿路上皮がんだ。
喫煙者の発症リスクが非喫煙者の約3倍で、他に染料や化学薬品を扱う職業で発生頻度が高くなっているという。
多摩南部地域病院(東京都)泌尿器科の小林秀一郎医師に話を聞いた。
「膀胱がんは比較的高齢者に発症するといわれています。その約7〜8割は表在性がんという内視鏡で治療が可能ながんです。しかし、残りは浸潤性がんで、気づいた時にはかなり進行しており、他の臓器に転移していた例もあります。多くは痛みを伴わない血尿で、病院を受診して見つかりますが、健診での尿検査や超音波検査で異常を指摘され、精密検査によって発見されるケースもあったりします」
膀胱がんの種類によって治療法が大きく異なる
膀胱がんは超音波やCT、MRIなどによる画像診断と合わせ、尿道から内視鏡を挿入し、膀胱内の組織を採取して確定診断を行なう。膀胱がんは、その進行度により、がんが粘膜や粘膜下層に留まっている筋層非浸潤性がんと、筋層までがんが進展した筋層浸潤性がん、転移性がんに大別される。
筋層非浸潤性がんは表在性がんとも呼ばれ、イソギンチャクのようなものが粘膜から生えていることが多い。進行が比較的ゆっくりしたがんで、尿道から内視鏡を挿入し、電気メスでがんを削り取る、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)で治療可能だ。
しかも膀胱を温存することができる。ただし、表在性がんは再発しやすいため、再発リスクが高いと判断された場合には生理食塩水で溶かしたBCG(ワクチン)や低容量の抗がん剤を膀胱内に注入する、膀胱内注入療法を実施するケースもある。
膀胱全摘術が標準治療の筋層浸潤性がん、最近は温存療法も
筋層を突き破り、膀胱外まで顔を出した筋層浸潤性がんに対する治療は、膀胱全摘術が標準治療となっている。
「膀胱は骨盤の内側の下方、前立腺のすぐ上にあり、また膀胱粘膜は尿道と連続しているため、膀胱全摘術の場合は男性では膀胱だけでなく、前立腺も一緒に摘出します。陰茎の内側を通る尿道を膀胱につけて摘出することもあります。前立腺の中には精液の通り道があって、裏側には勃起神経も通っているので、手術により、性機能が失われる可能性が高くなります。女性は膀胱、尿道とともに子宮や膣の一部、卵巣なども摘出することが多いです。膀胱全摘術は泌尿器の手術の中で最も難しく時間がかかり、体の負担や術後の合併症もある手術の一つです」(小林医師)
膀胱全摘術では尿の通り道を作る手術も必要だ。最近では患者の手術による負担を減らし、QOLの向上を目指す、膀胱温存療法が実施されるようになっている。