「毎日入浴する」「よく笑う」「ペットを飼う」…寝たきりになるリスクを下げる行動リスト「明るい人はケガの治りも早い」
日本は世界有数の長寿国だが「平均寿命」と元気で自立して暮らせる「健康寿命」の差は、男性が8.79年、女性は12.19年もある。つまり最期の約10年間は何かしらの制限を抱えて生きざるを得ないということ。世界と比較すると寝たきり人口が多いとも言われている。寝たきりを防ぐにはどうしたらいいのか。寝たきりのリスクを上げる行動、下げる行動を専門医に教えてもらった。今日からでも生活に取り入れていこう。
→「日本で寝たきり人口が多い」理由とは?米国の研究でわかった健康寿命を延ばす食品ランキング
教えてくれた人
竹内孝仁さん/日本自立支援介護・パワーリハ学会理事、鎌田實さん/諏訪中央病院名誉・院長、渋谷昌三さん/心理学者、星旦二/東京都立大学名誉教授、小向敦子さん/高千穂大学人間科学部教授、
寝たきりリスクと強く相関関係にあるのは睡眠と入浴
日本自立支援介護・パワーリハ学会理事で、長年介護を研究してきた竹内孝仁さんが言う。
「“寝たきり”という言葉に医学的な定義はないものの、食事、トイレ、入浴など日常生活の多くの面で介助が必要な『要介護2』以上は自分で動くことが難しい状態にあります。寝たきり、またはそれに近いといえるでしょう」
竹内さんによれば、要介護認定を受けている人のうち、「要介護2」以上の人は約5割を占めるという。
諏訪中央病院名誉院長で、長野県の健康寿命を1位に導いた鎌田實さんは、寝たきりリスクと強く相関関係にあるのは睡眠と入浴だと話す。鎌田さんは、睡眠時間と認知症の関連性を指摘する。
「睡眠は7~8時間が理想。6時間以下、9時間以上のいずれでも、認知症になるリスクが高くなる。適切な時間、しっかり睡眠を取るためには深く眠れるように準備することが肝要です。おすすめは入眠の90分前に入浴して深部体温を上げておくこと。寝入りばなに最適な体温になり、スムーズな入眠につながります」
入浴のメリットは快眠に留まらない。千葉大学が2010~2012年に行った大規模追跡調査によれば、週7回以上入浴する人は2回以下の人と比較して要介護認定を受けるリスクが3割も少なかった。
「ただし、高齢者の入浴はヒートショックの危険性もあるため、体調と相談し、無理に入ろうとしないように心がけてほしい」(鎌田さん)
「寝たきりの壁」は「週イチの外出」にアリ
「外出」も重要なファクターだ。寝たきりの発生原因として「閉じこもり症候群」を提唱した竹内さんが言う。
「私は1984年に『寝たきりの原因は、脳卒中や骨折だけでなく、自宅で閉じこもっていることにもある』と論文で発表しました。その後、多くの研究者によって、外出頻度と寝たきりの発生の相関関係について調査が行われ、最終的には『1週間に1回外出しているか否か』が寝たきりになる境目だと結論づけられました」
「閉じこもり症候群」を防ぐべく自由に外に出るためには自分の足で歩けることが必須条件になる。竹内さんが続ける。
「当然ながら、自力で歩くことができなくなれば、寝たきりになります。特に70才を超えると、日常的に歩く習慣がなければ足腰はすぐに衰えます。60才になったら、毎日トータルで2km、40~50分ほど、歩数に換算すると5000歩くらい歩くことを生活に取り入れてほしい」
ただし、ただ歩くだけではリスク軽減につながらない。
鎌田さんは「歩幅が狭い女性は、歩幅が広い人に比べて認知症リスクが5.8倍になる」と指摘する。
「犬の散歩をして歩いているという人がいますが、歩幅が狭ければあまり意味がありません。ウオーキング時は大股で歩くこと。いつもより5~10cm広い歩幅で歩くことを意識してほしい。並行して取り組んでほしいのは筋トレです。即効性があるのはどこでもできるスクワット。1日10回×2セットを目安に取り組んでください。ぼくは講演会のときに必ず参加者全員でスクワットをしてもらいますが、90才以上でもできるかたは何人もいらっしゃる。今日から実践あるのみです」(鎌田さん)
星さんは「お尻まわりの筋肉を鍛えてほしい」とアドバイスする。
「最期まで施設に入らず、家で元気に過ごすには、便失禁を防ぐことも重要です。尿であればおむつでなんとかなるものの、排便への介護が難しくなると家族では対応できず、施設に入れざるを得ないことが多いからです。予防法は簡単で、意識して肛門をきゅっと締めるだけ。肛門括約筋や尿道括約筋が鍛えられて、尿もれ防止にもなります」(星さん)
毎日笑うと要介護リスクはぐんと下がる
寝たきりを招くのは食事や生活スタイルに留まらない。性格傾向や人づきあいの方法も大きく影響する。鎌田さんは「孤独」は最大のリスクだと主張する。
「社会とのかかわりが弱くなる『社会的フレイル』は危険です。特にコロナ禍では不要不急の外出を控えた高齢者が多くいて、寝たきりに近づいたケースも増えてしまったのではないかと危惧しています。好きな芝居を見に行ったり、レストランに出かけて好きなものを食べたりするのはとても大切なことです。人生において大概のことは不要不急ですが、やりたいことを見つけて行動に移すことは健康を維持するうえで大変重要です」
佐々木さんも「自主性を持つ人は強い」と言う。
「医師として多くの患者を診てきた中でわかったのは、いくつになっても受け身にならず、自分の役割を持って社会に参加しようとする人は寝たきりになりづらいということ。仕事でも趣味でも、社会とつながれるようなものを見つけてほしい」
かといって、ストレスは体に悪いので、無理をしてまで他人とコミュニケーションを取る必要はない。
「ひとりで過ごすのが快適だという人は、そのままでかまいません。人づきあいが苦手でも、せっせと体を動かしてピンピンコロリを実現している人はたくさんいます。忘れないでほしいのは、ひとりでも外に出かけて体を動かし、社会とかかわりを持つことの大切さです」(竹内さん)
おひとりさまでランチや美術館、映画館などに行くだけでも充分、寝たきりから遠ざかることができるのだ。
『なんばグランド花月』でいちちばん多い忘れもは杖
「楽しく外出することが健康寿命を延ばすことになる」と話すのは、高千穂大学人間科学部教授の小向敦子さんだ。
「漫才式セミナー講師であるWマコトさんの『笑いの力』によると、大阪の『なんばグランド花月』でいちばん多い忘れ物は杖だといわれているそうです。その理由は足腰が弱って杖をついてやっと会場に来た高齢者が舞台を見て思い切り笑い、杖を忘れてスタスタと歩いて帰るから。笑いは寝たきり対策においていちばんの薬なのです」(小向さん・以下同)
名古屋大学大学院・予防医学系研究科の竹内研時客員研究者らの研究でも、笑いの効果が証明されている。
要介護認定を受けていない65才以上の高齢者1万4233人を3年間追跡調査し、笑う頻度が<ほぼ毎日>、<週に1~5回>、<月に1~3回>、<ほとんど笑わない>の4段階に分類してその後の介護の必要性について分析したところ、<ほとんど笑わない>と答えた人は<ほぼ毎日>笑うと答えた人に比べ、「要介護2」以上になるリスクが約1.4倍高いことがわかった。
笑顔は肌もツヤツヤに!
「メンタル面はもちろん、笑いが身体の健康に与える影響も、かなり大きいといえる。心理学者の渋谷昌三さんは大胸筋や肋間筋などが鍛えられるうえ、横隔膜が動くことで内臓がマッサージされて、代謝がよくなると『ピンピン・コロンの心理学』で提唱しています。目の周りや頰、口の周りなど表情筋も使うので、肌にハリやツヤが生まれ、若返りや小顔効果も見込めます」
竹内さんも「明るい人は心身が健康だ」と言い添える。
「経験上、明るい人は病気やけがの治りが早いです。大学病院で整形外科医として勤務していたとき、複雑骨折で入院・手術する高齢者のうち、朗らかでよく笑う人ほど治りがよかった記憶があります。医局でも、医師たちの間で『不思議だ』と話題になっていたほどです」
怒りっぽいことにいいことナシ!
裏を返せば、怒りっぽい人は寝たきりリスクが高くなるということ。
東京都立大学名誉教授の星旦二(たんじ)さんはこう指摘する。
「人間は怒りを感じると、ストレスホルモン『コルチゾール』の分泌量が増えます。その状態が恒常化すると、血管が収縮して血圧が上昇し、体が冷えやすくなる。寝たきりに限らず、怒っても体にいいことはありません。加えて“自分は健康だ”と信じることも重要です。主観的な健康観が、将来の寝たきり予防になることも私たちの調査によって明らかになっています」(星さん)
寝たきりリスクを上げる・下げる行動一覧【まとめ】
表示項目は、対象や行動など / 効果・リスク / 研究・調査内容、原因・理由など。
■ビタミンDの不足・サルコペニアリスクが3倍↑
国立長寿研究センターの調査(2022年)によれば、ビタミンDが充足している群は欠乏している群と比較してサルコペニアの発症例が3分の1に抑えられた。
■6時間以下の睡眠・認知症リスクが36%↑
スペイン・マドリード大学が発表した2018年の調査による。7~8時間が適量。
■週7回以上の入浴・介護認定リスクが3割↓
千葉大学の大規模調査による。週2回以下しか湯船につからない人と比較すると要介護認定を受ける可能性が3割減ることが明らかになった。
■歩幅が狭い女性・認知症リスクが5.8倍↑
2019年に発表された国立環境研究所の調査による。歩調は因果関係がないことも明らかに。
■ほとんど笑わない人・「要介護2」リスクが1.4倍↑
名古屋大学の研究による。65才以上の高齢者1万4233人を2010年~2012年の3年間追跡調査した結果。ほとんど笑わない人はほぼ毎日笑う人と比較して「要介護2」になるリスクが1.4倍高いことが明らかに。
■ペットを飼っている人・介護費が50%↓
2017年に埼玉県で行われた460人を対象とした調査による。ペットを飼っている人は飼っていない人と比較して介護にかかる金額が半分だった。
■歯が10本未満の人・寝たきりリスクが15倍↑
2014年に発表された8020推進財団の聞き取り調査による。
取材・文/戸田梨恵 取材/小山内麗香、平田淳、伏見友里、三好洋輝
※女性セブン2023年8月31日号
https://josei7.com/
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