「日本で寝たきり人口が多い」理由とは?米国の研究でわかった健康寿命を延ばす食品ランキング
自分で歩くことが難しい状態にある「要介護2」以上の人は、認定者の約5割を占めているという。最期まで食事やトイレなど日常生活を自分の力で過ごすために必要なことを、長野県の健康寿命を1位に導いた鎌田實医師を始め、多くの専門家達にアドバイスをいただいたのでご紹介する。
教えてくれた人
竹内孝仁さん/日本自立支援介護・パワーリハ学会理事、星旦二/東京都立大学名誉教授、佐々木欧さん/秋葉原駅クリニック・医師、鎌田實さん/諏訪中央病院名誉・院長、大西睦子さん/内科医
約5割の人が寝たきりに近い状態
約680万人――これは介護保険制度のもと、要支援・要介護の認定を受けた人数だ。人生100年時代といわれて久しく、年を重ねてなお精力的に活動するシニアの姿が目立つ一方、晩年を病院や自宅のベッドで寝たきりで過ごす人も決して少数派ではない。
日本自立支援介護・パワーリハ学会理事で、長年介護を研究してきた竹内孝仁さんが言う。
「“寝たきり”という言葉に医学的な定義はないものの、食事、トイレ、入浴など日常生活の多くの面で介助が必要な『要介護2』以上は自分で動くことが難しい状態にあります。寝たきり、またはそれに近いといえるでしょう」
竹内さんによれば、要介護認定を受けている人のうち、「要介護2」以上の人は約5割を占めるという。
実際、日本は世界有数の長寿国だが、「平均寿命」と元気で自立して暮らせる「健康寿命」の差は、男性が8.79年、女性は12.19年もある。
つまり、最後の約10年間は日常生活に何らかの制限を抱えて生きざるを得ないのが現状なのだ。
寝たきり人口が多い日本
寝たきりになるきっかけについて、東京都立大学名誉教授の星旦二(たんじ)さんはこう指摘する。
「脳梗塞や脳出血などの脳血管障害や、転倒・骨折が主な要因です。また、特に高齢者の場合は、そうした病気やけがが根治したとしても、長い入院によって筋力が弱ったり認知機能が落ちたりした結果、寝たきりになる側面も無視できません。都道府県別に見ると、人口あたりの病院病床数が多いほど、要介護認定を受けている人数は増加します」
特に日本は、世界と比較しても寝たきり人口が多いといわれる。
「寝たきりは、平均寿命が日本と大差のない欧米諸国にはあまり見られない現象です。原因として考えられるのは、日本特有の入院期間の長さと、サポート不足でしょう。
寝たきりを防ぐには、入院したら一日も早くリハビリをして退院し、日常生活に戻ることです。しかし日本は、OECD加盟国平均より、平均入院日数が長いにもかかわらず、患者1人あたりの看護師やスタッフが少ない。介護やリハビリの支援を充分に受けられないのです」(秋葉原駅クリニック医師の佐々木欧さん)
つまり手をこまねいたまま漫然と年を重ねれば、寝たきりリスクは回避できず要介護への道まっしぐらということ。最期まで自分らしく生きるためには、そのリスクを少しでも下げる方法について知っておくべきなのだ。
長野県を健康寿命を1位に導いた医師が話す「大切なのは食生活の改善」
多くの専門家たちが寝たきりリスクと直結すると声を揃えたのは食生活だった。
諏訪中央病院名誉院長で、長野県の健康寿命を1位に導いた鎌田實さんが振り返る。
「私が長野に赴任した1980年代後半、長野県民は不健康で、脳卒中の罹患率は国内トップクラス。当然、寝たきりの高齢者も多かった。医師として地元の患者に対峙しているうちに、その大きな理由は食生活にあることに気がつき、改善指導を行ったのです」
鎌田さんによれば当時の長野県民の食生活は、名産である野沢菜漬けでご飯を何杯も食べるような形がスタンダードだった。
「塩分過多のうえ、野菜不足に陥っている人が多くいました。これでは血管病になるのも当然です。野菜は抗酸化作用が強く、慢性炎症による動脈硬化を防いでくれる。診療や講演会を通して野菜たっぷりの具だくさんみそ汁や砂糖を使わない野菜ジュースなどのレシピを伝授することで、少しずつ摂取量が増えていきました。
厚生労働省は毎日350gの野菜摂取を推奨していますが、都道府県別で見ると、いまだに多くの自治体で摂取量が50g足りません。50gはミニトマトならだいたい5つ分。いまの食事に少しプラスするだけで摂取目安を達成できます」(鎌田さん)
→健康寿命1位へ「長野県」の秘密|そば店が多い、魚代わりにおやき、野沢菜漬けの力ほか
アメリカの研究で明らかになった野菜とビタミンDの力
野菜が健康寿命を延ばすことはアメリカの研究でも明らかになっている。ボストン在住の内科医、大西睦子さんが解説する。
「2021年にミシガン大学の研究者らが『ネイチャーフード』に発表した論文では、世界の研究者7000人の協力を得て開発されたデータベースから、食べ物による健康寿命の変化が分単位で算出されています。
例えば、アボカドは2.8分、トマト・きゅうり・レタスは3.8分、にんじんは3.6分、もやしも2.2分寿命を延ばすという結果が出ています」
ほかにもバナナやりんご、豆類やオートミールも寿命を延ばす食べ物として紹介されている。それらとともに摂取を意識したいのは、魚やきのこ類に含まれるビタミンD。国立長寿医療研究センターの調査によれば、摂取量が少ない人ほど加齢に伴う筋力の低下であり、寝たきりの原因になる「サルコペニア」になりやすいという。
「ビタミンDにはカルシウムの吸収率を高める効能があるため、骨折リスクを上げる骨粗しょう症予防のためになくてはならない栄養素です。
また、骨の支柱であるコラーゲン線維は、たんぱく質でできています。特に高齢者はたんぱく質が不足しがちなので、卵や豆腐、サラダチキン、かつおぶしなどを使った料理を一品添えることをおすすめします」(佐々木さん)
揚げ物を食べるならいい油でお昼ご飯に
積極的に摂るべき食品がある一方、寝たきりリスクを上げる食品もある。
「脂質が多い食事は高脂血症や高コレステロール血症を招き、血管の老化から脳血管障害のリスクを高めます。例えば筋力維持のためにたんぱく質を摂ろうとして、鶏のから揚げを食べる人もいますが、揚げ物はなるべく控えた方がいい。どうしても食べたければ質のいい油を使ったものを、ランチで食べるよう意識してほしい。夜遅くに脂質を摂ると内臓脂肪になりやすいことが明らかになっています」(鎌田さん)
大西さんも声を揃える。
「前述のミシガン大学の調査によれば、脂質が多い加工食品の代表格であるホットドッグは36分、チーズバーガーも6.2分健康寿命を縮めるとされています」
→専門家が10人が選んだ「脳卒中・心筋梗塞を防ぐ食品」ランキング|1位の成分は血栓を溶かす