兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第205回 深夜のパソコン事件】
ライター、つまり文章を書くことを生業にしているツガエマナミコさんは、若年性認知症の兄と2人暮らし。兄の生活全般をサポートしながら、家で仕事をすることも多いマナミコさんの大事な仕事道具はパソコン。そのパソコンに異変が起きてしまったというのです!
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深夜の悪戦苦闘
パソコンというものは便利なようでたいへん不便でございます。久々にパソコンのトラブルに見舞われて、深夜に四苦八苦したお話しでございます。
その日は、夜11時にはお風呂から上がり、眠かったのですぐに眠るつもりでございました。兄をトイレに誘導し、寝る部屋までご案内し、ベランダにある兄のお尿さま掃除も終え、あとは寝るだけでございました。でも「最後にメールチェックだけしよう」と思ったのが運の尽きだったのでございます。
画面にそれまでに見たこともない「このアカウントのパスワードを入力してください」といった指示が出てまいりました。パソコン様は時折、いつもと違う動きをしては人を驚かせるいたずら小僧でございます。これまでの経験の中で、こんな時は慌てずに一度電源を切って、もう一度やり直すと案外問題は解決するものだと学習してまいりました。
しかし、今回は2回やり直してもメールチェックで同じ画面が出てきて先に進みません。
「パスワード」なんてものは、めったに入力するものではございませんので、どれがどのパスワードだったか覚えておりません。初期セットアップの際に取扱説明書に張り付けた古いメモだけを頼りに、これかなと思うものを入力して「次へ」を押してみますと、「パスワードが違います」といった内容が表示され、一気に冷や汗が出てまいりました。
「やばい」事態でございます。
再び、パソコンを再起動し、同じ画面が出てきたところで、違うパスワードを入力してみましたが、それもアウト。もうそこからは、メールソフトを立ち上げると「送受信エラー」しか出なくなりました。銀行の暗証番号を間違えたときのように、不審者扱いとなりサーバーがブロックしたとしか思えないような仕打ち。まったくもってどんな対処をすればいいのかわかりません。
スマホからパソコンのアドレスにメールしましたがピクリとも受信しません。ただ送信はできたので、何かのきっかけがあれば治るのではないかと少し明るい気持ちになりました。
「メール 受信できない」という検索ワードで、トラブル解決法が出ていそうなサイトを探しました。すでに深夜12時。早く寝ようと思っておりましたのに、寝るどころではない上に、顔からは脂汗が噴き出し、全身が冷や汗でびっしょり。せっかくの湯上りたまご肌が台無しでございます。
なんとか復旧しなければ、仕事に支障が出てしまうので、必死にあがくこと3時間半。最終的にパスワードの変更をしてみたのですが、復旧に至らず。できていた送信もエラーになってしまい、「もうわたくしにできることは何もない」と匙を投げ、寝ることにいたしました。朝になったらサポート窓口へ電話をし、最悪は出張サービスをお願いするしかないと覚悟を決めておりました。
でも、朝ダメモトでメールソフトを立ち上げてみると、なんと、深夜にスマホから何度も送って届かなかった自分のメールがズラッと届いたではありませんかぁ~。念のため、送信も行ってみて、無事に開通していることがわかり、あっけなく一件落着いたしました。
結局、何が起きて、何が解決のきっかけになったのかわからずじまいでございます。何事もなかったかのようなパソコンの様子に、お風呂上りにメールチェックなどせずに寝ていたら、あの騒動はなかったのではないかと思い、なにかキツネにつままれたような気持ちになりました。
パソコンは通常通り。でもわたくしには寝不足とストレスと目の疲れがガッツリと残りました。
10年選手のパソコンなのでそろそろ買い替え時でございましょうか。でも新品は複雑なセットアップ作業が必要なので、あれをやるのか…と思うと買い替えるのも二の足を踏んでしまいます。
パソコンがないと仕事ができない時代になりました。手書き原稿&郵送という時代を知っているだけに、なんというスピードで時代は流れているのだろうかと改めて感じたツガエでございます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性60才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現64才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ