認知症の母が歯を磨く姿に衝撃 息子が「やめて!」と大声を出した理由と口腔ケアの対策
岩手・盛岡で暮らす認知症の母を遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。要介護4の母は、日常生活の中でできないことが増えてきた。あるとき、母の歯磨きの様子に異変を感じ――。歯磨きの正しい習慣を維持するための工夫や対策を教えてもらった。
見守りカメラに映った母の歯磨きの姿に衝撃!
「ちょっと!やめて!」
わたしはスマートフォンをタップした瞬間、早朝なのに思わず大声を出さずにはいられませんでした。いったい、何が起きたのでしょう?
スマホの映像には、岩手に居る母が歯を磨く準備をする姿が映っていました。時間は朝の5時40分。おそらくわたしが起きる前に朝食を食べ終わっていたから、歯磨きの準備を始めたのだと思います。
母の左手には歯ブラシが映っていて、通常なら右手には歯磨き粉を持っているはずです。ところが歯磨き粉は見当たらず、代わりに母が持っていたのは食器用洗剤でした。ポンプ式の容器を押して、洗剤を歯ブラシにつけていたのです。
初めて見る光景に驚き、思わず大声を出してしまいました。わたしは東京に居たので、母の行動は止められません。ただ「あ~、やっちゃった」と言うだけでした。
朝の騒動のあと冷静になって再発防止の方法を考え始めたのですが、この件はそれほど大きな問題ではないかもと思えたのです。
食器用洗剤の対策は実施済みだった
以前母は、食器用洗剤を誤飲しました。そのときの対策として行ったのは、購入した状態のキャップをひねる容器から、100均ショップで買ったポンプ式の容器への入れ替えです。この対策のおかげで、誤飲はなくなりました。
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念には念を入れて、食器用洗剤自体も変更しました。界面活性剤の割合が少ないほうが、万が一飲み込んだとしても体への負担が小さくなるためです。
また台所にハンドソープを置くと食器用洗剤との違いが分からなくなるので、昔ながらの固形石けんだけを置くようにしました。
こうした対策を行っていたからこそ、落ち着いていられたのかもしれません。さらにある情報を思い出し、改めてネットで調べ直したところ間違いではなかったので、大騒ぎするほどではないと思えたのです。
入れ歯の洗い方と問題点
母は大半が入れ歯です。歯は8本程度残っていて、入れ歯を付けたまま歯磨きをしていますが、歯磨きというよりも実際は入れ歯掃除といってもいいかもしれません。
今回、中性の食器用洗剤を使って歯を磨いてしまったわけですが、入れ歯の洗浄に使う分には問題ないと、ネットで調べた歯科医のブログに書いてありました。
確かに母の入れ歯を歯医者で作ったときに、研磨剤の入った一般的な歯磨き粉で磨くと、入れ歯に傷がつくのでよくないと言われました。
そのため入れ歯を外して、食器用洗剤で洗うこと自体は問題なかったのです。ただ母の場合は、洗剤のついた歯ブラシを口に入れてしまったのでそこは問題です。
ちょうどわたしが歯のクリーニングをするタイミングだったので、歯科衛生士に母の入れ歯について質問してみました。
すると、やはり研磨剤の入った歯磨き粉で磨くと傷がつくため、食器用洗剤はOKと言われました。ただし、歯を磨くのは洗剤ではいけないと――。
歯磨きや入れ歯洗浄の今後の課題と対策
入れ歯は洗剤で、自分の歯は歯磨き粉で磨いてと母に伝えても、使い分けはできません。思案した結果、歯を磨く習慣は忘れて欲しくなかったので、わが家ではこれまでどおり歯磨き粉で歯も入れ歯も磨くようにしました。
といっても、これは母がひとりで生活しているときの話で、デイサービスの日は口腔ケアを依頼していて、専用の泡磨きを使った入れ歯の洗浄をお願いしています。
また、わたしが実家に帰省したときは、入れ歯洗浄剤を使ったつけおき洗いを週1回程度ですが定期的に行っています。
今後も母は、食器用洗剤で歯を磨く可能性はあると思います。さらに認知症が進行すると誤飲する可能性もゼロではありません。結局、母の見えるところに食器用洗剤は置かないようにしました。わたしやヘルパーさんが食器を洗うとき、いちいち洗剤を隠した棚から取り出すのは面倒ですがやむを得ません。
母は料理ができなくなってしまい、ギリギリできる数少ない家事のひとつが皿洗いです。食器洗い専用のスポンジは残しておいたので、今後は洗剤をつけずに洗ってもらうつもりです。
今も洗剤をつけたりつけなかったりして皿を洗っていますし、キレイに洗ったお皿を汚れた台拭きで拭いてしまったり、汚れが残ったまま食器棚に戻したりしています。元々キレイにするための皿洗いではなく、あくまでリハビリとしての家事なので問題ありません。
これで母が洗剤を口にする機会はなくなったのですが、実はもうひとつ大きな課題があります。
そもそも母は歯ブラシや歯磨き粉を定位置である洗面台の中に戻さないので、いつも見当たりません。毎日歯磨きができていないのです。
化粧ポーチの中や食器棚から歯ブラシや歯磨き粉が出てくることもあるので、見つけたらわたしやヘルパーさんが定位置に戻して、何とか歯磨きの習慣を続けてもらっています。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(79歳・要介護4)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442。