「喉がイガイガする」と訴える認知症が進行する母 その衝撃の理由と息子が取った対策
東京と岩手・盛岡を行き来し、認知症の母を介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。遠距離介護も10年に及び、母の認知症もじわじわと進行している。先日、工藤さんが実家で母と過ごしていたとき、「喉がイガイガする」と母の様子に異変が――。母はあるものを誤飲してしまったのだ。その経緯や対策についてのお話だ。
居間のコタツの上にあった青い液体
母:「喉がからい! イガイガする!」
台所には何度も何度もうがいをし、咳払いを繰り返す母がいました。いつもと違う居間と台所の様子から、イガイガの原因はすぐに食器用洗剤の誤飲と分かったのです。
夕食が終わって1時間ほど経過した、19時頃のことです。わたしは実家の2階にある自分の部屋から1階の居間へ移動すると、コタツの上に食器用洗剤がふたの開いた状態で置いてあり、その隣にあった新聞紙にはドロッとした青い液体がついていました。
一瞬、何が起きているのか分からなかったのですが、居間に食器用洗剤があること自体がおかしいので、とりあえず台所に洗剤を戻しに行ったところ、母が咳込みながら唾をペッペッと吐き出していました。
母の誤飲は初めてでしたが、わたしは冷静にスマホで「食器用洗剤 誤飲」と検索。すると洗剤メーカーのホームページが表示されて、こう書いてありました。
「すぐに水で口をすすいでから、コップ1~2杯の水または牛乳を飲んでください。牛乳には、胃壁を保護し、成分の影響を弱める働きがありますので、あれば牛乳を飲むほうが効果的です。また、飲んだ洗剤を無理に吐き出そうとしないでください」
早速冷蔵庫にあった牛乳を母に飲んでもらったのですが、治まる気配はありません。もう1杯牛乳を飲んでもらって、さらに水を2杯飲んでもらったのですが、母は相変わらず喉が痛い、からいと言い続けます。
母はなぜ喉がからいのか分かってなかったようなので、食器用洗剤を飲んだ事実を伝えると、その瞬間は驚くのですが1分も経たないうちに忘れてしまい、喉がイガイガするのは何でだ? とわたしに質問してくる始末でした。
次に取った行動は、いつもお世話になっている訪問看護ステーションへの電話です。緊急性はないと思うけど、念のため電話をしましたと伝えると、看護師さんからは何かあったときには深夜でも構わないから電話をするようにと言われました。
さらに担当のケアマネジャーに誤飲の応急処置と訪問看護に連絡した話をして、最後に妹にLINEで連絡をしました。妹からは自宅での介護はもうムリかもしれないとの返事があり、そう思う気持ちも無理はないかもと思いながらも、早速対策を実行したのです。
誤飲の原因となった1枚の写真
冷蔵庫の中を見てみると、食器用洗剤を誤飲した理由がわかりました。
母はこれまで何度も、食器用洗剤を冷蔵庫に入れてしまうことがありました。家族やヘルパーさんが冷蔵庫で洗剤を見つけたら台所に戻すようにしていたのですが、まさか飲んでしまうとは思ってもいませんでした。
改めて台所にある見守りカメラに録画された映像で確認すると、母は食器を洗い終わったあとに、洗剤を冷蔵庫に入れました。数分後にまた冷蔵庫を開けると、飲料のようなボトルが冷蔵庫に入っていたので、それを居間に持って行って飲んでしまったようです。
冷蔵庫に食器用洗剤が入っていた理由も、おそらくボトルの見た目が母には飲料のように見えたからで、勘違いして冷蔵庫で冷やしていたようです。これまでは、たまたま家族やヘルパーさんがすぐ見つけていたので誤飲はなかったのですが、今回は防げませんでした。
2日後にかかりつけ医の受診があったので、誤飲について報告しました。おそらく微量のアルコールが入っているから、その刺激で喉が痛いのかもしれないと診察され、念のため喉を診てもらい問題ありませんでした。
食器用洗剤の誤飲対策
今後母が食器用洗剤を誤って飲んでしまわないよう、このような工夫をしました。
まずは100円ショップで、「ポンプ式」の容量が280mlの透明ボトルを購入しました。透明なボトルを選んだ理由は、中の液体が見えることで母に飲料ではないと分かってもらうためです。
また、誤飲しても量が少しになるよう、小さめのボトルを選びました。
ポンプ式にした理由は、無意識に押す動作になると思ったからです。また水で消えないシールにひらがなで「せんざい」と書いたのですが、洗剤の意味が理解できない日もあったので、後日「しょっきをあらう」に変更しました。
この対策をしたあとは、誤飲は1度もありません。ただ今度はハンドソープと間違うようで、食器用洗剤で手を洗ってしまうことはあります。
実は誤飲の2か月前に、たまたま訪問薬剤師さんと誤飲に注意しないといけないよねと話したばかりでした。それで少しだけ対策をしようと思っていたので、冷静に対処できたのは、この偶然のおかげかもしれません。
母の認知症の症状の進行を感じる場面が多くなっていますが、さらに工夫を重ねてこの難局を乗り越えていきたいと思っています。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(79歳・要介護3)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442。