経済アナリスト森永卓郎さん「親の介護に年間500万円」介護離職のデメリットを考察
厚労省「雇用動向調査」によると、介護のために会社を辞めてしまう介護離職者の数は、2010年の約5万人から2018年には10万人を突破し、わずか8年で2倍になっている。年老いた親が認知症などを患い、仕事を辞めてしまうと、「収入を失う」という大きな問題がある。経済アナリスト森永卓郎さんをはじめ、お金の専門家に介護にかかる費用や介護離職の現実について意見を聞いた。
一度介護離職すると正社員での再就職は厳しい
介護が長引くほど認知症は進み、出費だけがかさんでいった結果、介護費用はおろか親と自分の生活費すら底を突いてしまった、というケースは少なくない。
ファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんは「一度介護離職すると、正社員での再就職は厳しいと覚悟した方がいい」と語る。
「“施設に入れたり介護サービスを利用するためのお金がないから、自宅で親を介護する”という考え方はやや見通しが不充分だと言えます。自分で介護しても、安く済むとは限りません。“お金がないから、親を施設に入れられない”という人の多くは、仕事を辞めたことで収入を失って困窮し、親の貯蓄や年金を使うしかなくなっているからなのです」
在宅介護でかかる費用は?
介護保険サービスの支給限度額は要介護度に応じて決められており、自己負担割合は所得に応じて1~3割ほどだ。
「要介護1(買い物や歩行などに介助が必要)から要介護2(簡単な調理や金銭管理などに介助が必要)であれば、負担額は1万6000円~1万9000円ほど(1割負担の場合)。
特別養護老人ホームの入居基準である要介護3(着替えや入浴、トイレなどで介助が必要)以上になると、全面的な介護が必要になり、公的なサービスだけでは賄えなくなる可能性が高く、保険外での負担も必要になります」(黒田さん・以下同)
例えば、会社員の子と同居している82才の要介護2の女性の場合。認知症があり家事はできないが徘徊はなく、家族は仕事があるため週3日はデイサービスを利用し、週1回の整形外科に介護タクシーで通院しているものとする。この場合、食費や医療費などを含めると、月々5万3000円が必要になる。
「介護費用は、施設に入居するか、在宅介護か、認知症があるかどうかで変わってきます。例えばある調査では、施設で介護するとなると年間352万円、認知症だと年間359万円が必要になります。
一方、在宅で介護すると年間218万円、認知症だと年間307万円が必要です」
在宅介護もお金はかかる
■在宅介護もお金はかかる
【介護保険の自己負担分】
・小規模多機能型居宅介護|1か月|2万円
・福祉用具レンタル|見守りカメラ|950円
・訪問リハビリ|週1回×4|1500円
【介護サービスの自己負担分】
・食費|朝食380円×6昼食(おやつ含む)600円×20・夕食550円×20 2万4280円
・居住費|2100円×6|1万2600円
合計 5万9330円/月
要介護2、1か月に宿泊6日、通所介護14日の場合。以下表組はすべて出典:黒田尚子監修
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森永卓郎さん「父の介護に年間500万」
在宅介護の方が低い金額になってはいるものの、それでも200万~300万円は必要ということだ。
そもそも、こうした数字はあくまでも平均値。父親の在宅介護を経験した経済アナリストの森永卓郎さんは「年間500万円以上かかった」と話す。
「2000年に母が亡くなってから、父をわが家で引き取って、自宅で介護しました。主に面倒を見てくれていた妻は父の介護で腰を痛めたのですが“一度面倒を見ると決めたのだから、途中で投げ出せない”と言っていました。
しかし、父が亡くなって12年経ついまでも、妻は腰痛に悩まされています。最後の1年半、要介護4になった父を施設に入れました。家の近所の民間の高齢者施設で、入居金はなし。月額の固定費と雑多なコストで月40万円ほどかかっています」(森永さん)
森永さんの場合、住まいが都心だったので、施設も都心。結果、施設費用も高くなってしまったのだという。
介護保険制度は自立を支援するもの
介護が必要になった高齢者を社会全体で支えるしくみ──これが介護保険制度だったはずだ。都心でなくとも、親を施設に入れた場合、年間350万円もかかるのなら、何のために介護保険料を払っているのかわからなくなる。
『親不孝介護』などの共著書を持つNPO法人となりのかいご代表理事の川内潤さんが言う。
「くれぐれも誤解しないでほしいのが、介護保険はあくまでも“自立を支援するためのサービス”であって“家族の安心を担保するためのサービス”ではない、ということ。
安心を追求すると、いくらお金をかけても足りることはありません。逆に言えば、公立の特養ホームなどを視野に入れれば、本人の年金収入だけでも足りる。在宅介護よりも安くなるケースも少なくありません」(川内さん)
家族の手で行うようなサービスを施設に求めれば、必要以上のお金がかかるのは当然のこと。限界を迎えるまで在宅介護を頑張って「もう疲れた、いますぐ施設に入れたい」と思ったときには、高額な施設しか空いていないのだ。
教えてくれた人
黒田尚子さん/ファイナンシャルプランナー、森永卓郎さん/経済アナリスト、川内潤さん/NPO法人となりのかいご代表理事。『親不孝介護』などの共著書を持つ
文/角山祥道 取材/小山内麗香、進藤大郎、土屋秀太郎、平田淳、伏見友里
※女性セブン2023年3月2・9日号
https://josei7.com/
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