介護・看護のために仕事を辞める人は7万人超!専門家が教える介護離職を防ぐ5つの具体策
介護や看護を理由に仕事を辞めてしまう「介護離職」は約7万人に上り、55才を過ぎると離職率が急激に増える(厚生労働省・2020年雇用調査)。親の介護が現実化する50代から考えておくべき介護と仕事の両立や、「介護離職」しないための対策について専門家に話を聞いた。
「介護経験者の5人に1人が仕事を辞めることを考えたことがある」という現実
5年ごとに実施される「就業構造基本調査」(総務省)によると、2017年に介護・看護を理由に離職した人は約9万9100人に上る。さらに、2020年の雇用動向調査(厚生労働省)でも、個人的な理由で離職した人のうち「介護・看護」を理由とする人が約7万1000人もいる。
NPO法人「となりのかいご」を運営する川内潤さんは、「介護のために仕事を辞めてしまう“介護離職”は危険です」と語る。
企業や個人から寄せられる介護に関する相談には、「仕事と介護」の両立に悩んでいるという人も多いという。
「私たちが実施した介護に関するアンケート※によると、週2回以上の通い介護をしている人が70%います。その中でも“ほぼ毎日”介護に関わっている方の割合が67%と多くの割合を占めています。それだけ介護に体力も時間も負担がかかっている人が多いということです」(川内さん、以下同)
川内さんがこれまで対応してきた相談者の中には、介護のために仕事を辞める人のほか、親の家の近くの会社に転職をした人もいるという。
「介護する世代は50代後半~60代が多く、転職先を探すのもなかなか大変です。転職できたとしても、前職からかなり給与ダウンする場合もあります。そうなると、親の介護にかかるお金どころか、自分たち家族の生活もままならなくなってしまいます」
そんな危険な介護離職を避けるための具体的な対策を教えてもらった。
介護離職をを避けるための5つの対策
1.普段の交流から親の意向をくみ取っておく
「介護は突然始まる場合もありますので、普段からの親子のコミュニケーションがとても大切です。
親と介護について話をするときは、『これから10年の中で自分は〇〇を大切にしたいと思っているんだけど、父さん、母さんは何か考えていることがある?』という対話を繰り返し、一緒に考えていくことが重要だと思います」
親と介護について話す場合のNGワードは、以下のようなものだ。
「どんな介護・医療を受けたい?」「どんな状態になったら高齢者施設に入居する?」「お金の準備はできている?」
子供からこういった言葉を投げかけられると、親は「お前たちには迷惑をかけないから心配するな」という気持ちになり、会話がストップしてしまうことがほとんどだという。
2.地域包括支援センターなど外部サポートを活用
親の介護と仕事の両立に不安を感じているなら、まずは、地域包括支援センター(以下、包括)に相談しておくのが第一歩。包括では、医療や介護、福祉など高齢者の生活のために必要なアドバイスや援助を行ってくれる。
「親の介護が心配になった時点ですぐに地域包括支援センターに連絡しましょう。入院している場合は、病院のソーシャルワーカーと相談してください。自分が休むのではなく、外部サポートを活用することが親のためにもなり、介護離職を避けられ、家族関係の悪化も防げます」
親と離れて暮らしていても、親の住んでいる地域の包括に電話相談できるという。まだ介護が始まっていない場合や、本人が介護認定を受けていなくても相談に乗ってもらえるとのこと。
また、インターネットで「(親が住んでいる住所) 包括センター」などと入力して検索すれば、親が住まいの近くの包括の連絡先が探せる。
「認知症になったらどうすればいいか?」「遠距離介護になりそうだが、どうすれば仕事を辞めずにすむ?」など、正直に自分の仕事の状況も含めて相談してみるのがいいという。
「便利な情報を得られるだけでなく、スタッフとのコミュニケーションをとっておくことが後々の介護のためにも大切です」
3.介護休暇・休業は取り方に注意して
親の介護で仕事を休むときは、休暇の取り方に注意が必要だという。
「介護と仕事の両立に関して日々相談を受けていますが、介護休暇・休業を取得したことで、かえって介護離職につながってしまうケースもあるんです。そのため、お休みの“取り方”が大事になってきます。
介護する人とされる人の双方にとって一番いいのは、必要なときにだけピンポイントで休暇を取ること。なぜなら、長く休むと会社に戻りづらくなったり、仕事へのモチベーション低下にもつながったりする場合があるからです」
介護のためにお休みを取る期間の目安は、以下の通り。
・要介護状態が発覚したときの介護保険申請やケアマネジャーやソーシャルワーカーとの打ち合わせ…半日~1日。
・デイサービス、ショートスティ見学…2~3日など。
「お休みは、必要なときに必要な日だけとピンポイントで取ることをおすすめします。2週間~1か月に渡る長期のお休みに関しては、家族との最期の時間を過ごす看取りの時期で活用するのがよいでしょうとアドバイスしています」
介護のために休む場合の制度をチェック
□「介護休業」
要介護状態の家族(配偶者 ・事実婚を含む 、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫)を介護するための休業。対象となる家族ひとりにつき、通算93日間・3回まで休むことができる。介護休業期間中も「介護休業給付」(給与の67%が雇用保険から)を受け取ることができる。
なお、令和4年4月1日から「入社1年以上」という要件が廃止され、勤務年数にかかわらず取得しやすくなった。
□「介護休暇」
上記の介護休業とは別に、年間5日間(介護対象者が2人以上の場合は最大10日間)まで有給である「介護休暇」を半日単位で取得することができる。
※2022年11月時点。参考/厚生労働省「介護休業とは」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/closed/index.html
4.ひとりで抱えずに介護のチーム作りを
「介護離職の一番の理由は、介護を自分だけでしなければならないと思い込み、ひとりで抱えこんでしまうこと。その結果、仕事と介護の両立ができなくなってしまうというケースが多いんです。介護か仕事かを天秤にかけるのではなく、どちらも並行して行うほうが、親にとってもよい介護環境になることが多いんです。
そのためには、家族の理解や協力、そしてケアマネジャーをはじめ専門スタッフと力を合わせて“介護チーム”作りをして、役割分担を明確にすることが大切です。
複数の人に関わってもらうことで、急な変化にも対応できるようになり、介護する人の気持ちの余裕が生まれ、仕事も続けやすくなるはずです」
5.介護は親も子も「自分の生活」を大切に
介護する側の“意識改革”が最も必要だと川内さんは語る。
「介護する側は、親のためによかれと思って先回りして力を貸し過ぎて、ご本人がまだできる行動を制限してしまったり、能力を奪ってしまったりするケースもあります。
しかし、それは本当に相手が望んでいることでしょうか? 介護する側の安心のためにしていることではないでしょうか?
介護される人にとって幸せかどうかが大切。親も子供が仕事を辞めてまで自分の介護をして欲しいとは思っていないはずです。
今一度、ご本人の気持ちや希望に目を向けられる余裕が持てるよう、親子がそれぞれの生活を大切にして無理のない介護を続けていただきたいですね。
心配なことがある場合は、繰り返しになりますが、地域包括支援センターに相談してください。また、私たちのような専門のアドバイザーを頼ってください」
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今年2022年10月には、5年ぶりに「就業構造基本調査」
90代の母を通いで介護している記者だが、「介護される人にとって幸せかどうかが大切」という言葉は、心に響くものがあり今後の介護生活に生かしていきたいと感じた。
教えてくれた人
NPO法人「となりのかいご」代表理事・川内潤さん
上智大学文学部社会福祉学科卒業後、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員などを経て2008年に市民団体「となりのかいご」を設立。2014年に同団体を法人化し代表理事となる。厚生労働省『令和4年中小企業育児・介護休業等推進支援事業』検討委員。講演やテレビ出演などで、わかりやすく介護に関する情報を発信している。著書『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法』、『親不孝介護』(山中浩之さんと共著)。https://www.tonarino-kaigo.org/
取材・文/本上夕貴