増加中の【介護離婚】実例に学ぶ回避策「介護は第3者を頼ることと情報収集が大切」
介護問題をきっかけに夫婦が不仲となり離婚に至る「介護離婚」という言葉をご存じだろうか?長年連れ添った仲良し夫婦が親の介護でもめて不仲になり、別居や離婚する事例も増えているという。実際の相談実例をもとに、「介護離婚」を回避する方法を探った。
介護離婚が増えている背景
「介護がもとになって別居または離婚してしまう、いわゆる“介護離婚”の相談が増えていると思います」
こう語るのは、企業や個人の介護に関する数多くの相談にのっているNPO法人「となりのかいご」の代表であり、介護アドバイザーの川内潤さんだ。
実際、厚生労働省の離婚調査※によると、同居期間が「20 年以上」の夫婦が離婚する割合が昭和25年以降増加傾向で、令和2年には 21.5%と過去最高を記録。長年連れ添った夫婦の不仲には、さまざまな原因があるが、結婚20年を超えた夫婦は、親も年を取り介護が始まる世代ともいえる。
※厚生労働省「令和4年度離婚に関する統計」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/rikon22/dl/suii.pdf
親や伴侶の介護が原因となって離婚や別居に至る「介護離婚」の中でも、相談件数が多いのは、妻が義理の親(夫の親)の介護をするパターンだという。
「夫が仕事中心の生活を送っている場合、自分の親の介護を妻に頼むことが増え、妻の負担が増えることで、夫婦仲が悪化することが多いように思います。
いまだに『介護は家にいる時間が多い妻が担うもの』という考え方が根強くあるようです」と、川内さんは話す。
介護離婚の危機に陥った人たちの相談事例
じわじわと増える介護離婚を避けるためにも、実際の相談事例にもとづいて、介護離婚を避けるためのポイントについて教えてもらった。
義母の介護施設選びを巡り離婚危機に(Aさん、50代女性)
Aさん夫婦の仲良しぶりは近所でも評判だった。ところが、夫の母親(80代)が認知症が進み、いよいよ施設介護を考えるようになり、夫婦仲が一変したという。
「世話になった母親だから…」と、夫は背伸びをして都内の一等地にある高額の施設を選びたいという。Aさんも最初は納得したが、貯蓄などを考えると、入居年数が長びくとAさん一家の生活自体が苦しくなるのが目に見えている。
「もう少し安価な施設を探したい」という妻のAさんと、譲らない夫は口論が絶えなくなり、介護離婚の危機だという。
専門家のアドバイス
「この場合は、妻であるAさんが要になります。夫は自分の親なので、どんどん介護にのめり込んでしまい、冷静になれないのかもしれません。Aさんにとっては義理の親なので、一歩引いて冷静に対処して欲しいと思います。
まずは、施設入居を決める前にAさんが中心となってケアマネジャーに相談したり、介護のプロなど第3者の意見を聞いたりして、話をまとめてから夫に伝えることが大切です。
私の相談の中には、入居金1億円、毎月の費用50万円を超える施設に入居されている方もいらっしゃいますが、入居されているご本人は、まだ築50年を超える自宅にいたいとおっしゃるかたもいらっしゃいます。
施設介護を経験して感じるのは、どんなに優秀で多くの介護職(看護師)がいても、プライバシーが保持できる広い個室があっても、立派な機械浴槽があっても、クリニックが併設していても、施設に入居した経緯が家族都合ばかりが優先されている場合は、結果としてよいケアにはなりません。
ご家族の不安を解消するために高い施設を選んでいないか、親にとって本当に必要なケアなのか、冷静に考えてみていただきたいと思います。
そして、相談するタイミングは必ず施設入居前にしてください。入居後ですと、結果的に義母様が振り回されてしまうことになってしまいます」(川内さん、以下同)。
川内さんによると、親子の距離の近さが、かえって介護の障害になってしまうことがあるという。
「親を大切に思う気持ちは誰しも同じですが、その強い思いが、必ずしも親にとって“より良い介護”かどうかはわかりません。自分たちの生活を犠牲にしてまで親の介護にお金をかけるのは、親も本位ではないはずです」
子育てと介護で疲弊!協力しない夫と介護離婚?(Bさん、30代女性)
小さな子供を抱えたBさんは、自分の母親も介護状態に。実母の介護で実家に帰ることが増えていき、ついには実家で暮らしながら母親の介護をするようになってしまった。
幼い子供の世話を夫に任せきりになり、介護離婚に発展しかけているという。
専門家のアドバイス
「子育てと介護のダブルケアはただでさえ大変なのに、自分ひとりですべてをこなそうとするのは、精神的にも体力的にもかなり負担が大きいですよね。
ひとりで抱えずに、まずは地域包括支援センターやケアマネジャーなどに相談してください。子供がよかれと思ってしている介護が、親には負担となっていたり、自立を妨げていたりする場合もあるのです」
介護離婚を回避するための5つのポイント
1.介護方針を夫婦だけで決めない
ケアマネジャーなどのプロ(第3者)に相談する。
2.信頼できる情報を夫(妻)と共有する
プロの意見をメモにしたり、専門書を読んでもらったりして情報を共有する。
3.感謝の言葉を口にする
介護に協力してくれたときは相手に「ありがとう」などの感謝の言葉を伝える。
4.介護は外部サービスを頼る方が質の高いケアになることを知る
自分たちの負担を減らすために、頼れるサービスを探しておく。
5.「介護」以外の話題作りを
介護のことばかり話題にせず、ときどきリフレッシュを。趣味や休息の時間を取れるようにする。
介護離婚を防ぐには早めの情報収集を
「介護離婚を避けるためには、介護が必要な親の生活を中心にするのではなく、なるべく自分たち夫婦や自分の子供との生活に重心を置いて欲しいと思います。
親孝行のつもりでも、子供の側は介護の素人です。プロの手に委ねたほうが介護される親も自分たちにとってもうまくいく場合が多く、結果的に親孝行にもつながります。
自分ができないからと言って、妻(夫)だけに任せてしまうことが、一番の離婚の原因になります。
介護のプロであっても自身の親の介護は難しい。なぜなら、元気なときの親を知っているので、親が弱っていくのを目の当たりにするのは、介護のプロであっても辛いことだからです。なるべく第3者や専門家に頼って欲しいと思います。
親がまだ元気なうちから情報収集をしておくことをおすすめします。
いざというときに頼れる相談先やサービスを調べ、夫婦で情報共有しておくことが、親孝行につながり、何より自分たち夫婦の介護離婚を防ぐために必要なことです」
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長年連れ添った夫婦でも、実親や義理の親の介護をきっかけに亀裂が走ったり、介護離婚に発展したりする可能性があると知り、改めて介護の難しさや奥深さを知った。親は大切でも自身の家族や家庭があってこそ、安心な介護に向き合えるのだと感じた。
教えてくれた人
NPO法人「となりのかいご」代表理事・川内潤さん
上智大学文学部社会福祉学科卒業後、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員などを経て2008年に市民団体「となりのかいご」を設立。2014年に同団体を法人化し代表理事となる。厚生労働省『令和4年中小企業育児・介護休業等推進支援事業』検討委員。講演やテレビ出演などで、わかりやすく介護に関する情報を発信している。著書『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法』、『親不孝介護』(山中浩之さんと共著)。https://www.tonarino-kaigo.org/
取材・文/本上夕貴