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離れて介護するのは不安?「通い介護」の意外なメリット

 東京―岩手と遠距離で、認知症の母の介護している工藤広伸さん。家族の目線で”気づいた””学んだ”数々の介護心得をブログや書籍などで公開し、リアルな実体験が役に立つと評判だ。

 当サイトでもシリーズで、工藤さんの遠距離介護の知恵などをアドバイスしてもらっている。

 今回のテーマは「通い介護」について。新年度を迎え、生活にも変化の多いこの時期、介護体制を見直すこともあるかもしれない。介護を通いで行うのは、大変なだけなのか?モノの見方を変えると、ヒントが見つかるかも!?

* * *

 新生活が始まる4月。転勤がきっかけで、遠距離介護が始まってしまったり、介護施設にご家族を預ける決断をされたりする方もいらっしゃるかと思います。

 厚生労働省発表の国民生活基礎調査の概況(平成28年)によると、介護を必要している方と「別居」で介護されている割合は約4割もいます。わたしのように通いで介護をするご家族や、介護施設に預けるケースなどが該当します。

 今日は通いの介護で注意すべきポイントと、意外と知られていない離れて介護するメリットについてお話しします。

「距離」ではなく「時間」と「手段」に注目

 わたしのように首都圏在住の場合、北海道や沖縄は距離的に遠くなります。移動に時間がかかり、介護する前に体力を消耗します。

 しかし、通いの介護は「距離」に応じて大変さが決まるわけではなく、「移動時間」と「移動手段」で決まるとわたしは考えています。

 わたしの介護先である盛岡は、東北新幹線で最短所要時間は2時間10分です。直線距離で約500kmありますが、移動時間中は本を読むこともありますし、寝て過ごすこともあります。

 一方で、同じ2時間の移動でも、車の運転では神経も体力も消耗します。わたしより距離的に近い場所へ、介護で通っていたとしても、移動のストレスは車のほうが大きいのではないでしょうか?

 交通費に関しても同じで、距離に応じてコストが高くなるわけではありません。

 東京を基準に考えた場合、北海道や沖縄は距離的には遠いのですが、飛行機の便数や航空会社の数が多い地域なので、むしろ交通費は安いです。交通手段の選択肢が限られる地域(例えば秋田県、新潟県、四国地方)などのほうが、北海道や沖縄よりも交通費は高いと言われています。

※参考サイト:交通費変形地図

「盛岡と東京の往復生活は大変ですね」

 わたしは他の介護者から、このようにお声かけ頂くのですが、遠い=大変というイメージが強いからだと思います。

 距離が近くても大変な方はいますので、距離と介護の大変さは意外とリンクしていない部分も多いのではないでしょうか。
  

通い介護の3つのメリット

 通いで介護することは、同居で介護するよりも不安が募るものですが、実はメリットもいろいろとあります。

 1つ目は、介護する人の気持ちがリフレッシュされるということです。

 認知症の母と1週間、共に生活をするのですが、ほぼ毎日、母は同じ話や質問を繰り返します。始めは気にならなくとも、毎日10回以上同じ質問をされ続けると、さすがにわたしもイライラしてきます。

 そのイライラが蓄積され、爆発しそうになったとしても、必ず東京へ帰る日がやってきます。帰京すればイライラの貯金残高はゼロになり、気持ちがリフレッシュします。

 同居介護は、気になった時にすぐ対応できるというメリットがある反面、近すぎて衝突が増えるというデメリットもあります。

 通いの介護は、程よい距離感を保ってくれる点ではメリットがあると思います。

 2つ目に、介護の負荷が分散されやすいということです。

 絶対に誰かの力を借りないと、通いの介護は成り立ちません。ケアマネジャーを始めとする介護職の皆さん、医師や看護師など医療関係者、民生委員や親族、ご近所の力が必要になります。

 介護者や介護される人の中には、人の力を借りることを拒むケースがあります。こうなると、介護をすべてひとりで抱え込んでしまい、社会から孤立して介護が破綻することがよくあります。

 通いの介護は、介護保険サービスを利用しないと成り立たないことが多いので、自然と介護負荷が分散されやすいと思います。また医療・介護職とのコミュニケーションも自然と増えるので、ストレスも蓄積されにくいように思います。

 3つ目は、自分の時間を有効活用できるようになります。

 介護者が通いの介護のペースをつかみだすと、仕事もプライベートも残った時間でうまくやりくりできるようになります。また、介護中の滞在時間もそう多くはないはずなので、ものわすれ外来への通院、病院・介護施設への訪問など、効率のいいスケジュールを組むようになります。 

 わたしも会社員時代の3か月間、介護と仕事の両立をしました。働く時間が限られていた分、仕事の生産性もあがりました。

 通いの介護は、介護の体制が出来上がるまでの期間は大変です。しかし、介護がうまく回り始めると、介護者自身の負担は大きく減ると思います。

要介護5の父も通いで介護

 要介護5で悪性リンパ腫だった父も、通いの介護でした。食事や下の世話が必要で、同居での介護が必要とわたしは判断したのですが、医療・介護職の方が毎日来るローテーションを組んで、何とか通いの介護ができました。

 要介護者を病院や介護施設に預けないと、十分な医療や介護が受けられないと考えてしまうご家族は多いのですが、意外と在宅でも不自由のない医療や介護が受けられることを父で体感しました。

 通いの介護のメリットも考慮しながら、ご自身の新生活を組み立ててみてください。

 今日もしれっと、しれっと。

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「『認知症介護は過酷なもの』と思っている方は多いと思います。しかし『認知症って、そんなに悪くないよね』と思える瞬間もあります。わたしの介護体験を通じて、今介護している皆さまの気持ちを少しだけ軽くできたら…そんな思いで書いた作品です」(工藤さん)。

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工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/

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