猫が母になつきません 第340話「へんのうする」
少し前の出来事を書きます。母は運転免許証を持っていました。大昔に取得しているので大型自動二輪も乗れるという…。しかし実際には教習以外では車を運転したことのないペーパードライバーでした。でも免許証は持っていると身分証明書として使うことが意外と多いですよね。昨年、母に公安委員会から「更新前に認知機能検査を受けるように」というお知らせが来て、検査を受けたのですが結果はひどいものでした。母に「なに、この点数?」と言うと「この日は調子が悪かったのよ」とか「寝てなかったから」などと言い訳。結果《診断書提出命令》というものが出て、期限までに「認知症ではない」という医師の診断書を出さないと《運転免許の効力の停止又は取消処分》ということになりました。認知症でないと判断されれば「高齢者講習→更新」となりますが、母の場合はそれは望めないので取消がいやなら《自主返納》しか道はありません。この説明を何十回もしましたが、母は理解も納得もしていませんでした。しかたないので本人が窓口に行く必要がない代理申請の書類をそろえましたが、そのうち本人も「返納する」と言い出したので買い物のついでに最寄りの警察署に寄って書類を出すことにしました。他にも同年代の母娘の姿が。みんなそうしているという姿を見れたのはよかったかもなどと思ったのは甘い考えで、母は最後の最後で粘りを見せ「私はまだがんばれる」というアピールをはじめて婦警さんを困らせていました。この免許証の返納がとても重い意味をもつ出来事だったのだと私が気付いたのはもっと後で、それは母にとっては社会的地位の剥奪であり、世の中からいらない人間だと言われたように母は感じていました。そのことは、この後に起きた父に関する一連の行動とは無関係ではないと思うのです。
【関連の回】
第337話 「どこ?」
第338話 「はしゅつしょ」
第339話 「おわらない」
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。