頑固な父母の心を溶かしたのは、医療のプロの「うふふ」と「お願いしますね」【実家は老々介護中 VOL.3】
アラフィフ美容ライターが、がん・認知症・統合失調症を患う80才の父と、その父を在宅介護をする母、ふたり暮らしの実家を手伝っています。父母ともに頑固で困ることばかり。でも、ちゃんとご飯を食べて身ぎれいにすると、父母も私も気分が明るくなるようです。
「要介護認定、抵抗あるなあ」でずるずる何日も過ぎてしまう
先日、病院の社会福祉士さんの言うことなら「うん、うん」と聞き入れていた父と母。その場で訪問担当の看護師さんから病気の父の食生活を訊ねられ、母は「朝食にはバナナ、ヨーグルト、コーヒー。夕食では発泡酒を欠かさない」と明かしました。
「ああ、おいしそうですね。晩酌でよく寝られるし、いいんじゃないですか? うふふ」
看護師さんが笑顔で受けとめてくださると、母は機嫌がよくなり、
「はい、ご飯はどうにかですねえ。それより、お風呂の介助が大変なんですよ。こんなやせっぽちですけど、力が要りますねえ。本人の足がもうチョコチョコ歩きなんで、トイレも転ばないか危ないですよねえ」と本音がポロリ。
この流れで、もう何年も前から要支援2のままになっている父の要介護度について、区分変更を申請するようにとのアドバイスも受けました。あんなに何もかもイヤがっていた父と母が「はい、わかりました」と答え、プロの力ってすごいな、と驚きました。
しかし。ひと晩寝ると母はまた、「要介護認定かあ、抵抗あるなあ」「お父さん、まだしっかりしてるじゃないの。やっぱり訪問看護なんて要らないね」とブツブツ。父が介護サービスを受けるのを、母に納得してもらうにはどうしたらいいのか……。
私は急いで親戚に応援を頼み、わざわざ出てきてもらって一緒に地域包括支援センターへ。この連携で母も渋々、要介護認定の申し込みをしてくれました。
ただ、訪問看護のほうは「まだ早い!」の一点張り。こちらをなぜ渋るのか、意地になって聞く耳を持たない母。
「定期診察の日に、主治医の先生から勧めてもらいましょう」
地域包括支援センターの方からアドバイスをもらい、病院に電話。主治医に伝言をお願いして、当日は私も付き添うことに。
さて、診察室にて。先生は診察が終わると父の目をしっかり見て、次に母の目をしっかり見て、優しく話してくださいました。
「僕ね、おふたりが病院へ来るの、いっぱい待たされて大変だろうから、訪問看護師さんに、週1回でも来てもらったほういいと思うの。奥さまもね、ここまで運転して連れてくるの大変だもんねえ。訪問看護が入れば、定期診察の前にちょっと具合が悪いときも、先に連絡をもらえるのよ。訪問診療っていうのもあるんだけど、まず訪問看護の指示書を出しておきますからね。よろしくお願いしますね」
ここでもプロの力が炸裂です。父と母はスルッと聞き入れ、ようやく書類を書いて手続きが終わりました。
数日後。朝のうち実家に電話してみると、朝食をモゴモゴ食べながら母がのんきに、
「こないだはどうもね。まずはやってみるから大丈夫だよ」
あんなにイヤがっていたのに拍子抜けです。母も病気の父を思って本音と建前があったのかも。「 まわりに言われて、仕方がないからこうなったんだよ」、と父に言い訳したのかもしれません。
「今食べてるバナナとヨーグルトがね、いい栄養が入ってるのがスーパーで売っててさ。おいしいよ」
もう別の話題になっている母。違う銘柄を食べるのが楽しいようなので、「今度ネット通販で、別の種類を探して送るね」と約束しました。食が細くなっている父も「孫と一緒に選んだよ」と送ったら喜んで食べてくれるのかな、と思いながら。
告知を受けてからここまで、1か月もかかってしまいました。環境を整えれば、元気な時間を少しだけ延ばせるかもしれません。最期まで心穏やかに過ごせるようにと願うばかりです。
文/タレイカ
都心で夫、子どもと暮らすアラフィフ美容ライター。がん、認知症、統合失調症を患う父(80才)を母が老々在宅介護中のため、実家にたびたび手伝いに帰っている。
イラスト/富圭愛