親への病気の告知、介護の心配をやんわりと傷つけずに伝える言葉選びって?【実家は老々介護中 VOL.2】
私はアラフィフの美容ライターです。現在、都心で夫、子どもと暮らしていますが、実家では、がん・認知症・統合失調症を患う80才の父を母が在宅で介護中。娘として、老々介護の両親を手伝う日々のあれこれを綴ります。時間に追われて大したことはできないけど、父母も私も、身ぎれいにすると気分が明るくなるようです。
気合いの空回り。久々に眉を描いた母と告知について話し合う
「お父さんに、がんとは知らせないよ。認知症なんだし、不安にさせるだけよ。黙っておいてね」。
昨年、父にがんが見つかったとき。疎遠になっていた兄を呼び寄せ、母は私たち兄妹にこう宣言しました。
母は、普段は化粧っ気がないのになぜか眉だけ描いていて。それも、雑に線を描いて点線みたい。 キリッとしてるのか、変な感じです。
「言わなくていいのかな。自分のこと、知りたくない? 疑心暗鬼になったりしないかなあ?」
私が母に、ああだこうだと言っていると、
兄が「告知って、納得して治療するとか残りの人生どうしたいとか、考えるためにするんだとしたら、すぐ忘れちゃう人に言って傷つけていいのか俺にはわからない」という意味のことを言ったのですが、配慮の足りないひどい言い方だったので少しケンカになりました。
しかも、「他人のお世話になんてなりたくない、お父さんは私が看る 」と母が言い張り、兄妹で「今すぐ介護サービスに頼ろうよ。困ってから急に助けてって言われても、みんな無理だから」と説得を試みたところ、お互いにひどい言葉を何回もポロッと言ってしまい、ものすごくこじれて苦戦しました。
みんな混乱していて悪気はなかったのですが、言葉って難しいものです。
傷つけない言葉選びのお手本だなと思ったのが、診断を受けた病院の社会福祉士さんです。「介護サービスを受けるよう、母に話してほしい」とお願いしたとき、母にこう言ってくれました。
「お母さんがね、もし、お父さんとふたりで疲れてしまったら。うーんなんて言うかな、ご飯を食べずにふたりで1週間、そのままじっと座っている、なんていうことになったら、困りますよねえ。訪問看護師が行ったり、あとデイサービスとかヘルパーさんとかね。手伝ってもらいましょうよ」
要するに、「共倒れで亡くなって発見されるのを避けましょう」というのを、言葉を選んで言うとこうなる、という例です。
「地域包括支援センターにね、行ってみてはと思います。老人よろず相談所なんですよ。なんでも相談できて無料ですから今すぐ電話してみましょう」
有無を言わさず気持ちを傷つけず、その場で電話をかけていつでも訪問できるように繋いでくれました。嘘も方便というけれど、プロのワザはすごい。母も本当は無理だとわかっていながら、父に気を遣って選んだ言葉が「私が全部背負うから大丈夫」になってしまったのでしょうし。
母に、描いた眉をぼかすブラシのついた眉ペンシルをあげました。
「お化粧なんて、やってる暇ないけどさ。でもありがとうね」と母。
気持ちに余裕がなさすぎて、言葉が荒くなってごめん。滅多に使わないかもしれないけど、ふと使ってくれたらうれしいなと思っています。
文/タレイカ
都心で夫、子どもと暮らすアラフィフ美容ライター。がん、認知症、統合失調症を患う父(80才)を母が老々在宅介護中のため、実家にたびたび手伝いに帰っている。
イラスト/富圭愛