猫が母になつきません 第317話「かいやくする」
「折れた」ではなく「折った」んです。母の携帯にまつわるトラブルは数知れず、依存度はどんどん高まるばかりで、もう手から離すことができなくなっていました。コロナ禍で外に出て人に会う機会が減ったことで母は「自分が仲間はずれにされている」と思うようになり、被害妄想が膨らんで実際にはかかってきていない電話や来ていないメールに毎日振り回されるようになりました。当然私も一緒に振り回され、その日も何十回も同じ妄想メールの話をしている途中で、思わず持っていた母の携帯をボキっと…。母に1日中パタパタされていた携帯は簡単に折れました。母は「あーっ」と声をあげましたが、最初にでた言葉は「洗ったスリッパどこに干したっけ?」でした。ショックすぎて脳が現実逃避したのでしょうか。5日ほど携帯のない生活をした後、新しい携帯を買いに行く車中で私が「携帯がないほうが落ち着いて生活できるんじゃない?」と問うと母は「携帯はなくていい」。携帯ショップで解約手続きをしてその足で電気屋さんへ、大きいサイズのタブレット購入…なんか勢いで。そのうちまた携帯が必要になる日は来るでしょうが、タブレットに慣れていればスマホが使えるようになるのではと思いました。お会計のときに母が「大丈夫かしら」と漏らすと店員さんが「うちの母も80過ぎてますけどタブレットで韓国ドラマ観てますよ」と励ましてくれました。母はハイパー高齢者として名誉挽回することができるのか? ともあれ買い物を終えてカフェで抹茶ラテを飲む母はひさしぶりに楽しそうでした。
【関連の回】
第290話「ハブられる」
第292話「れんとうする」
第302話「メールする」
第311話「ふしぎがる」
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。