30人以上のクラスターが発生した老健 職員のコロナ対応の実例と嘆き「防護服で全身汗だくの悪夢」
介護施設で働きながらブログで介護士の働き方について情報を発信しているたんたんさんこと、深井竜次さん。昨年から働き始めた介護施設でコロナ感染が拡大し、クラスター騒動に発展してしまった。夜勤で働くたんたんさんがコロナ対応を経験して現場で感じたことや問題点についてレポートしてくれた。
介護士ブロガーのたんたんと申します。介護現場で働いてきた経験や知見をもとに、「多くの介護士さんが幸せな働き方を実現できるように」という思いを込めて、ブログを運営しています。
介護ポストセブンでもこれまで僕が介護現場で経験した出来事や学びを、「介護士さんをはじめ介護にかかわる多くの人に参考になれば」と思って記事を書いてきました。
今回は介護施設での新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)対応について、実体験をもとに感じたことや問題点について書いていきたいと思います。
僕が働く施設でクラスターが発生した経緯
僕が現在働いている島根県の介護施設(老人保健施設、以下、老健)では、5月に利用者様1名と職員1名がにコロナに感染しました。そのときは、2名に抑えることができました。
しかし、この記事を書いている最中、再び利用者様と職員の感染が確認され、現在も対応に追われています。
僕は老健で夜勤専従として働いていますが、7月7日の出勤時、入居者様と職員を合わせて10名以上の感染者が出たことを知りました。その後、次々と感染が拡大し、30名近くのクラスターとなってしまったのです。
感染源は特定されていませんが、近隣の大きな工場で集団感染が発生したことも関係しているかもしれないといわれています。入居間もない利用者様さまから職員に感染が広まったとも考えられます。
5月の時は、利用者様の感染者が1名だったため、ユニット※を封鎖して関わる職員を限定して対応できていましたが、今回はすべてのユニットで感染者が出てしまったため、前回のような封じ込めができなかったことも、クラスターを引き起こした要因かもしれません。
※ユニット:利用者を10人程度の「ユニット」に分け、介護サービスを提供する形態。
介護現場のコロナ対応で感じた恐怖と不安
介護施設でコロナが発生した時に感じたことは、「感染者が常に身近にいる」ことでいつ自分も感染してもおかしくないという不安な気持ちを抱えて働かなければならないということ。介護施設で感染した利用者様は、受け入れ先の病院がみつからない場合も多く、そのまま居室で過ごすことになります。
感染した利用者様は、まず居室に隔離をします。介護職員は、介助や食事の提供の際、防護服を身に着けマスクの重ね付けなどをして対応します。夜勤の時も同様に対応しますが、基本的にセンサーを設置して、ある程度の行動を別室のモニターから監視しながら必要なときに対応しています。
感染者が認知症の場合は隔離が困難
認知症の利用者様が感染したケースでは、ご自身がコロナに罹患していることがわからない場合もあるため、部屋から出歩いてしまうこともあります。こうしたことから、短期間で多くの職員や利用者様に感染が拡大してしまったと考えられます。
職場に感染者がいても職員はもちろん仕事を続けなければなりませんし、感染した職員も増え続けているため、感染していない職員が休日出勤や残業で対応するという事態になっています。
僕ら職員は皆、「これ以上感染者が増えたらどうしよう」「次は自分が感染するのではないか」という不安を抱えながら働いています。職員は気持ちも体力もどんどん消耗しています。
実際、厚生労働省が行った介護職員への調査※によると、コロナ対策の実施後の変化として、「疲労感」や「イライラ」、「職場に行くのが憂鬱」と感じている人が多く、「退職や休職を考えた」という人も少なくありません。
同調査で、不安やストレスの解消法として、「同僚との普段の何気ない会話」と答えた人が半数を超えていますが、お休みの職員が増えているという悲しい現実があります。
■新型コロナウイルス感染症の流行や対策の実施に伴う自分の変化
これまでよりも疲労がたまるようになった 47.7%
イライラすることが増えた 28.3%
職場に行くのが憂うつな気分になった 20.0%
労働時間が増加した 11.5%
休職・退職を考えた 8.1%
同僚とのすれ違いや対立が生じた 6.4%
利用者・利用者家族との関係が悪化することがあった 5.7%
メンタルヘルスに関する相談を申し出た 0.9%
その他 6.2%
特になし 30.2%
無回答 1.2%
■新型コロナウイルス感染症が流行する中で仕事を続けるにあたって、不安やストレスの軽減に役立っていること
同僚との普段の何気ない会話 57.1%
利用者や利用者家族からの理解・感謝の言葉 36.6%
職員同士で悩みなどを話し合う機会 36.4%
家族の理解・感謝の言葉 32.9%
管理者や上司からの適切な情報提供 23.1%
上司への相談や面談の機会 13.4%
地域の理解・感謝の言葉 6.9%
外部の相談窓口 1.2%
その他 3.6%
特になし 13.6%
無回答 1.2%
※厚生労働省/新型コロナウイルス感染症に対応する介護施設等の職員のためのサポートガイド」全国の訪問介護事業所、通所介護事業所、短期入所生活介護事業所、介護老人福祉施設、介護老人保健施設への調査(職員2,806人の回答・複数回答)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000757739.pdf
介護施設の感染者は入院措置を望む
現在、島根県では7月12日には、1日で1260人という過去最高の感染者数を記録※し、感染拡大が続いています。しかも、50才以上の年代の陽性者数の急増と病床使用率の上昇も報告されています。
※島根県 県民の皆様へのお願い(令和4年7月12日)
https://www.pref.shimane.lg.jp/bousai_info/bousai/kikikanri/shingata_taisaku/kenmin.html
しかし、介護施設の利用者様は身体介護が必要な方も多いため、どうしても職員の感染リスクは高くなります。介護施設で感染した利用者様はすぐに入院措置を取れるように病院と即座に連携できたらいいのにと強く感じています。
人手不足が深刻すぎる
とにかく僕の施設では人手不足が深刻です。感染した職員が抜けた穴をどうにかして埋めようと休日返上で働いていますが、実質、職場崩壊が起きているといってもいいという状況です。
・他部署から多くの応援を要請
・休日出勤残業する職員はほぼ毎日いる
・ほぼ毎日出勤する職員も
・その日の日勤→夜勤を両方こなす
このような急場しのぎの対応で今のところは何とかなっていますが、これ以上感染者が増えたら一体どうなるのだろうか――。
介護施設にはコロナ休業なし
介護施設では利用者様の生活の場なので、他の業種のように「感染が広がったので休業する」という選択肢はありません。
業務量も日に日に増えており、職場に行くのが憂鬱な日々――。ギリギリのところでコロナ対応をしていますが、給料が上がるわけではありません。
また、令和4年に関しては介護従事者のコロナ対応による特別手当や補助金、交付金などについてはまだはっきりしていないようです。
ちなみに、昨年度は、介護職員への慰労金※は、感染者が発生または濃厚接触者に対応した事業所に勤務し利用者と接する職員には20万円、その他の事業所で勤務し利用者と接する職員は5万円となっています。
※厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対策を行う介護サービス事業所・施設介護サービス事業所・施設に勤務する職員の皆さまへ」(令和2年4月1日から令和3年3月31日まで)https://www.mhlw.go.jp/content/000652458.pdf
コロナ対応の悪夢は続いている
コロナは介護施設を崩壊に導くのではないかと、今回のクラスター騒動で強く感じました。まだ終わったわけではないのですが、感染した職員が完治して復帰することを願いながら耐えている状況です。
コロナという危機は、誰かが悪いわけでもないですし、誰もが被害者ではありますが、「仕方ない」と思って割り切って働くこともできそうにありません。
防護服を脱げば、全身びっしょり汗をかいていて、真夏のコロナ対応で身も心も疲弊しています。コロナの集団感染という悪夢を身をもって経験し、改めて介護職を辞めたいと感じる人がますます増えるのではないかと懸念しています。
介護職員向けの相談窓口もある
前述の調査では、「相談窓口」を利用している人はまだ1.2%と低い数値ですが、現在設置されている相談窓口を紹介したいと思います。誰かに話すことで、少しでも心が晴れるといいと思います。
■公益社団法人全国老人福祉施設協議会 『JSここメン』http://js-cocomen.com/
■公益社団法人全国老人保健施設協会 『コロナ・ココロの相談』http://booking.roken.or.jp/
■新型コロナウイルス感染症に対応する介施設等の職員のためのメンタルヘルス相談窓口http://www.murc.jp/cam/covid19_soudan/
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
文/たんたん(深井竜次)さん
島根県在住。保育士から介護士へ転職し、介護士として勤務。主に夜勤を中心に介護施設で働きながら介護士の働き方について綴ったブログ『介護士働き方コム』を運営。著書『月収15万円だった現役介護士の僕が月収100万円になった幸せな働き方』(KADOKAWA)が話題に。