ハリー杉山さん「大親友だった父に寄り添った10年」緊急搬送から看取りの刻まで
ハリー杉山さん(37才)は、パーキンソン病で認知症も併発していた父ヘンリー・スコットさん(享年83)の介護を経験した。晩年の父は、介護施設で穏やかに過ごしていたが、コロナ禍で面会が制限されてしまった。父の緊急搬送から看取りまで、およそ10年。介護と向き合ってきたハリーさんが今、伝えたいこととは。
ハリーさんが「なんでも話せる大親友。お互いをハリー・ヘンリーと呼び合う仲でした」と語る最愛の父、ヘンリーさんは、イギリス人ジャーナリストとして活躍してきた。しかし、2012年、ヘンリーさんが75才のときにパーキンソン病で認知症も併発。このとき、ハリーさんは27才。母親と共に在宅介護を続けてきたが、2016年、父は介護施設へ入所した。
→ハリー杉山さんが27才で直面した父親の介護「誰にも言えなかった孤独と葛藤」
コロナ禍で会えないもどかしさと父の緊急搬送
仕事の合間に施設に通い父の足をマッサージしたり、食事の介助をしたり、これまで通りのハリーとヘンリーの穏やかな関係を取り戻していた。しかし、コロナ禍に突入し、面会が制限されてしまった。
「面会はその人のQOLを考えると極めて大事。家族と会って触れ合って、声をかけて、それが生きる活力に繋がっていく。
“まん防”が解除されてようやく10〜15分の面会ができるようになったと思ったら、父が3月初旬に誤嚥性肺炎を起こして救急搬送されました。
救急車の中、なかなか受け入れ先の病院が決まらず、これがいわゆるたらい回しか、と。その間、救急隊員のかたから、『救命救急センターには行けますが人工呼吸器が使われるかもしれません』と説明されて…。
命をつなぐためには、つけたほうがいかもしれない。でも父は83才でパーキンソン病を患っている。一度人工呼吸器をつけてしまうと、外すときに体力が消耗してしまい、つけたまま最期を迎える可能性もあるのではないか。
つけるか、つけないか――。
酸素濃度が下がっていて地獄のようにアラームが鳴り響く救急車の中で、僕と母は人工呼吸器を“つけない”という選択をしました」
そしてなんと4時間半後にようやく受け入れ先の病院が決まった。
「病院で抗生剤などの治療を受けて翌朝には肺炎も落ち着きました。しかし、入院して疲れ切っていた父はなかなか自分からご飯を食べることができず、体はどんどん弱っていきました。早く退院させたいけれど、父親の介護施設は点滴などの医療行為はできないというジレンマ。母と何度も話し合い、なんとか口から流動食を食べられるようになったタイミングで退院してようやく介護施設に戻ることができました。
このとき、そろそろ覚悟をしてくださいとスタッフのかたからは言われていましたが、最期までの日々をいつも過ごしていた部屋で父と触れ合うことができました。だから僕は今でもあのときの選択は正しかったんじゃないかと思っています」
春の穏やかな日差しが降り注ぐ部屋で2022年4月17日、ヘンリーさんは愛する家族に見守られながらその生涯を閉じた。
柿ピーでも食べながら人生の黄昏時について話し合って
「晩年の父をケアする中で、僕はいつも父だったらこう考えるだろうという強い信念で行動をしていました。
僕は幼い頃から父親の目を通して世界を見ていたから、父が何を求めているのか、どんな死を迎えたいのか、常に考え続けてきました。
人生の黄昏時をどうするか、家族全員が元気なときに話し合っておくべきだと思う。死を迎えることは人間にとって自然なこと。僕は介護や終活に対するネガティブなイメージを取っ払いたい。若いうちから介護のことをディスカッションできるような世の中にしたい。
ビール飲んで柿ピーでもつまみながら、自分がどんな最後を迎えたいのか、日常的に話せるといいですね」
ヘンリー・スコットさんの歩み
1964年/父ヘンリー・スコット・ストークスさん26才で来日。フィナンシャル・タイムズ初代東京支局長に就任。
1985年/47才のとき母あき子さんとの間にハリー杉山さん誕生。
2012年/75才でパーキンソン病を発症し、認知症を併発。
2013年〜2015年/ハリーさんと母とで在宅介護。
2016年/介護施設へ。施設入所後も著書を出版。
2022年3月/誤嚥性肺炎により緊急搬送。3週間の入院生活を経て介護施設に戻り、その後4月17日永眠。享年83。
プロフィール
ハリー杉山さん
1985年東京生まれ。タレントやモデルとして活躍。連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)に出演し話題に。『ノンストップ!』(フジテレビ系)ほか多くのメディアで活躍中。SNSなどで介護情報を積極的に発信している。
撮影/小倉雄一郎 取材・文/廉屋友美乃 家族写真はすべてハリー杉山さん提供
※記事は2022年4月11日時点の情報をもとに構成しています。
初出:女性セブンムック 介護読本Part2 ~人生100年時代 親・家族・自分のことをみんなで考える~