ハリー杉山さんが27才で直面した父親の介護「誰にも言えなかった孤独と葛藤」
朝の情報番組やラジオのDJなどパワフルに活躍するハリー杉山さん(37才)。2022年4月17日、最愛の父ヘンリー・スコット・ストークスさん(享年83)は旅立った。パーキンソン病で認知症も併発していた父親を母と共に支え、ケアを続けてきた20代からおよそ10年。介護と向き合ってきた日々を振り返る――。
大親友だった父に異変が
「世界で一番尊敬する人であり、なんでも話せる大親友でした」
父ヘンリーさん(享年83)を語るとき、その瞳には強い灯がともる。
「彼はジャーナリストとして日本の文化や美徳を伝え続けていました。四六時中取材で駆け回り、タイプライターを打つ姿を幼い頃から見つめていました。たくさんの愛情を注いでくれて、人間関係の悩みや進路のこと、すべて丸裸で話す間柄。お互いをヘンリー、ハリーと呼び合う仲でした」
ヘンリーさんに異変が起きたのは2012年、ハリーさんが27才のときだった。
「75才のときにパーキンソン病を発症し、認知症の症状もありましたが、僕はそれを認めたくなかった。ただ調子が悪いだけ、怠けているだけだと、無理やり筋トレや運動をさせようとしていました。体を鍛えれば元の姿に戻るんじゃないかって…」
しかし、状況が良くなることはなかった。
父の病を認められず誰にも言えなかった
「仕事命の人だったから朝の4時にスーツを着て仕事に向かおうとする。徘徊もたびたびありました。
診断から1年後には、日常生活のほとんどでサポートが必要になっていました。無理やり立たせようとして転倒しそうになって、それをかばおうとした僕のほうが転んでしまって怪我をしたこともありました」
当時ハリーさんは、新たな仕事に挑戦している時期でもあった。
「撮影現場でも父のことが気になって、絶対だめなのにスマホをポケットに忍ばせて、収録の合間にチェックしていましたね。
現実逃避して飲みにも行っていたこともありますが、同年代の友達には父のことは話せない。楽しく盛り上がっているときに、父の介護の話をすると、みんな引いてしまうんじゃないか。だったら話す必要ないよねって、自分の殻に閉じ込もっていた」
イライラして壁を殴ったことも
孤独と心の葛藤を抱えながら在宅介護を続ける日々。
「一番の親友だった父が病と闘っているのに、それを支えられない自分をどんどん嫌いになっていく。常にイライラしていて壁を殴ったり、父親に手を上げそうになったりしたことも。愛するがゆえに過敏になっていましたね。
一番しんどかったのは2015年頃。ほとんど寝ずに現場に行くと目の下のクマが酷くてやつれている。幸せな家庭に憎しみを抱き、ブラックな感情に揺さぶられていて、僕も母も限界がきていました。
何より父親本人もストレスを感じていて、それが認知症を進行させているということを肌で感じました。
父親を守るためにも、母と相談して介護施設に入所させることを決意しました。
実は2012年に母方の祖母が脳梗塞で倒れて、半年後に逝ってしまったんです。幼い頃から可愛がってくれた祖母に、僕は寄り添うことができなかった。これは今も背負う十字架。だからこそ、父親のケアに対して思い入れが強かったんです」
僕を救ってくれた介護スタッフはヒーロー!
ヘンリーさんが特別養護老人ホームに入所したのは、2016年のこと。
「僕も母も祖母のときの経験があったからケアマネジャーと早く繋がることができて、施設の情報をいち早く知ることができたのはラッキーでした。
それまで僕は介護施設にネガティブなイメージを持っていて、父を施設に入れることをためらっていました。
しかし、いざ施設を見学してみたら考えが一変しました。スタッフの人たちは、利用者を懸命にサポートされていて、僕の目には“ヒーロー”のように映りました。
施設には近隣の小さな子どもたちが出入りできる場所があって、環境としても素晴らしいんです。施設のスタッフの方々に僕と母親がどれだけ救われたことか。
施設に入所することで利用者や家族にとって新しい人生が見えてくると思うんです。だって父親は施設にいながら本も出版しているんですよ。もちろん周囲の方々に手助けしていただきながら、これまで取材してきたことを共著も含めると10冊以上の書籍にまとめました。介護施設にいても認知症になったとしても、仕事ができる。それを父が証明してくれました」
プロフィール
ハリー杉山さん
1985年東京生まれ。タレントやモデルとして活躍。連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)に出演し話題に。『ノンストップ!』(フジテレビ系)ほか多くのメディアで活躍中。SNSなどで介護情報を積極的に発信している。
撮影/小倉雄一郎 取材・文/廉屋友美乃 家族写真はすべてハリー杉山さん提供
※記事は2022年4月11日時点の情報をもとに構成しています。
初出:女性セブンムック 介護読本Part2 ~人生100年時代 親・家族・自分のことをみんなで考える~