医師が教える眠りの新常識「70才を超えたら5時間眠れば充分」眠れなくても焦らずに!
「夜10時前には布団に入っているのに、寝付けなくてもう2時間が経とうとしている」。そんな日常に不安と焦燥感を持つ人に朗報です! 年を重ねるほどに睡眠時間が短くなるのは“自然の摂理”だった──寝苦しい夜にお伝えしたい“睡眠の新常識”。
「睡眠不足は生活習慣病の温床」「夜10時から深夜2時はお肌のゴールデンタイム」。深く長く眠ることをよしとするこうした言説が市民権を得る一方、布団に入っても寝付けず、充分に休養が取れないことに悩む人は年を重ねるごとに増えていく。
実際、厚生労働省の調査では、60才以上の3人に1人が睡眠問題に悩んでいることが明らかになっている。寝具にこだわったり早めにベッドに入ったりと、少しでも長く眠るために骨を折っている人も少なくないだろう。
しかし、在宅医療のスペシャリストであるたかせクリニック理事長の高瀬義昌さん(高=はしごだか)はこうした努力を一刀両断する。
「“昔のように長い時間眠れなくなった”と悩む高齢者は多いですが、年を重ねれば、睡眠時間は短くても何も問題はありません。特に70才を超えたら5時間眠れていれば充分です」(高瀬さん)
長く眠るほど元気になるのは若いうちだけ。年を重ねたら、いかに睡眠に対する努力と期待を手放すかが、健康で快適な生活を送るためのカギになるのだ。
そもそも高齢者は睡眠ホルモンが少ない
「いちばん悪いのは“最低でも7時間は眠らなければ”“8時間睡眠で疲れが取れるはず”といった固定観念にとらわれることです」
そう話すのは、城北さくらクリニック副院長の犬丸真理子さん。犬丸さんは、そもそも必要な睡眠時間は年齢によって異なると言う。
「子供は日中の活動量が多く、成長過程でもあるため、長い睡眠が必要です。しかし高齢者は活動量も少なく、昼間に消費するエネルギーが減少するため、それに比例して必要な睡眠時間も短くなる。また、最新の研究によって睡眠を促すホルモンである『メラトニン』の分泌量も、年を重ねるごとに減ることが明らかになっています」
高瀬さんも声を揃える。
「睡眠の重要な役割の1つとして日中の記憶を再構築し、脳内に定着させることが挙げられますが、年齢を重ねれば記憶しなければならないことが減ってくる。脳の活動量の減少に伴って長い睡眠を必要としなくなっているともいえます」
厚労省が発表しているデータにおいても、実質的な睡眠時間が加齢とともに短くなる傾向ははっきりしている。12才以下の子供は9時間以上眠っているが、20代になると約7時間になり、40代では6時間半ほどに減少する。70代に入るとさらにガクンと減り、70~79才ではおよそ5時間半になる。
★高齢になるほど寝床にいる時間が延びる
一方で「寝床にいる時間」は70代以上がダントツに長く、約9時間。入床時間も年を重ねるほどに早まっていき、多くの70代が夜9時前には布団に入っている。たっぷり眠ろうとして布団に入ったものの、思うように眠れない──高齢者の睡眠に対する「期待」と「現実」には、大きなギャップがあるのだ。
しかし、高瀬さんは睡眠に期待し、無理に眠ろうとする行為は意味がないどころか体に負担をかけると話す。
「散見されるのは短時間しか眠れないことに悩んだ末に病院へ行き、大量の睡眠薬を処方されるケースです。こうした薬は依存性のあるものも少なくないうえ、副作用としてふらつきや転倒が懸念される。短時間睡眠であること以外はどこにも不調のなかった高齢者が睡眠薬によって体を壊してしまう事例は少なくありません」
蝕まれるのは体だけではない。
「“眠らなければ”というプレッシャーや“今夜も眠れなかったらどうしよう”という不安は大きなストレスを生み、メンタルにも影響が出ます。同居している家族がいる場合、『眠らなくて大丈夫なの?』『まだ寝ないの?』などと聞かれ、さらなる重圧を感じる人も少なくない。“眠らなければ体に悪いのではないか”という思い込みを本人も家族も手放すことが大切です」(犬丸さん)
教えてくれた人
高瀬義昌さん/たかせクリニック理事長、犬丸真理子さん/城北さくらクリニック副院長
※女性セブン2022年6月30日号
https://josei7.com/
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