スティーブ・ジョブズやニーチェは「歩くこと」で偉人になった!朝散歩で認知機能の低下を予防しよう!【医師監修】
知の巨人と呼ばれたニーチェは歩くことを好んだ。歩くことは健康の増進に役立つだけではなく、頭脳の働きにもポジティブな効果をもたらすことは医学界の定説となっている。歩きと脳のメカニズムを知れば、普段の散歩がより有意義なものになるかもしれない。
教えてくれた人
篠原菊紀さん/公立諏訪東京理科大学工学部特任教授、檀一平太さん/中央大学理工学部教授、加藤俊徳さん/加藤プラチナクリニック院長
歴史に名を残す偉人たちはみな歩いていた
アップル創設者のひとりであるスティーブ・ジョブズや、メタ(旧Facebook)社社長のマーク・ザッカーバーグは、歩きながら仕事をすることを好んだ。思想家のフリードリヒ・ニーチェは「真に偉大な思想はすべて、散歩中に浮かんでくる」と述べ、哲学者のジャック・ラカンは「われわれは脳で考えていると思っているが、私は足で考える」と話している。そして日本にもまた「思索と歩き」を関連付ける史跡がある。京都市左京区にある「哲学の道」と呼ばれる、銀閣寺から熊野若王子(くまのにゃくおうじ)神社を結ぶ道だ。哲学者の西田幾多郎をはじめ、多くの知識人がここを歩いて思索を深めた。
偉人たちが「歩くこと」によって歴史に名を残す成果を上げた可能性について、公立諏訪東京理科大学工学部特任教授の篠原菊紀さんは「歩行が脳の働きに有益であることは研究者の間では共通認識」だという。
「研究が進んだことで、運動直後から注意力や課題処理能力が向上する報告が多数あがっています」(篠原さん)
紀元前460年頃に医師だったヒポクラテスは「歩くことは人間にとって最良の薬である」と語った。
歩行の健康効果についてWHO(世界保健機関)は心血管疾患、2型糖尿病、特定のがんなどの予防、認知機能の低下やうつ病予防が期待できるとしている。
ウオーキングは心肺機能、認知機能向上にも効果が
これらの中で特に注目したいのは、歩くことによって認知機能の低下を予防する効果が得られることだ。中央大学理工学部教授の檀一平太さんがメカニズムを解説する。
「ウオーキングは有酸素運動であり、心肺機能向上に効果的です。高齢者を集めて行った研究で、心肺機能が高い人ほど知的作業のテスト成績が上がることがわかっています。また脳神経の活動が活性化すると、その部位の血流量が増えることもわかっている。心肺機能が高いと、脳に必要な酸素や栄養の補給がスムーズに行えて、結果、脳の機能がよりよく使えるのです」(檀さん・以下同)
さらに歩いた直後は一時的に脳のパフォーマンスが上がるという。
「ある研究で運動前後の脳の課題処理能力を調べたところ、運動直後は成績が上がることがわかっています。運動直後は脳への血流量が増えるため、脳神経の働きが高くなっているのだと考えられます」
加藤プラチナクリニック院長の加藤俊徳さんは、「毎日一度、脳のパフォーマンスを高めることが重要」と指摘する。
「歩くという行為は利き手と反対の手で字を書くぐらい、自発的にしないとできない行為です。つまりやる気を出さないとできないので、歩くことで結果的に意欲が高まってあらゆることに精力的に取り組めるようになります」(加藤さん・以下同)
歩かないと脳の活動が低下したままとなるので、不調が出やすくなる。
「歩行は脳全体を活性化し、うつ症状や気分の悪さ、神経症状のような不調を抑えてくれます。そうなると気持ちよく一日が過ごせて、結果的に日々のパフォーマンスがさらに高くなっていきます」
また運動をすると「エクセルカイン」と呼ばれる情報伝達物質が各臓器から放出されて、それが脳を成長させることもわかっている。
「エクセルカインにはすい臓から出るインスリン、肝臓からのβ-ヒドロキシ酪酸、筋肉からはカテプシンBやインターロイキン6、骨からはオステオカルシンなどがあります。これらの物質は、歩行によって血中濃度が上がり、脳に届くとBDNF(脳由来神経栄養因子)という脳の神経ネットワークの形成を促進します。特に一時記憶を行う海馬の成長を促す作用があります」(篠原さん・以下同)
さらには歩くことで、“若返り物質”も分泌されるという。
「2014年に報告された動物実験では、若いネズミと老いたネズミの血液を互いに循環させると、老いたネズミの脳と筋肉が若返ったと報告されました。その研究グループは2023年にPF4(血小板第4因子)が若返りの原因物質だと発表した。PF4は人間でも歩行をはじめとした運動によっても分泌されることがわかっています。これが歩行による認知機能向上の理由の1つでしょう」
週3回以上、計150分の朝散歩で“100年動ける体”に
知力が増し、認知機能が高まり、脳のパフォーマンスが上がる。さらに歩行は“天才的ひらめき”ももたらす。
「ひらめきが起こる仕組みは、脳の使い方の違いにあります。脳は部位によって役割が異なり分業体制を取っています。簡単に言えば座っているときは考えることだけに集中できますが、歩いているときは目や耳から情報を集めて、危険はないか、どちらへ歩くか、などを常に思考しながら体を動かすため、脳のさまざまな部位を同時に使っているのです。
つまり歩いているときは、座っているときよりも多くの脳の部位同士が連携しているので、座っているときとは違った発想が生まれる可能性がある。それがひらめきと呼ばれるものの正体です」(加藤さん・以下同)
歩くことであらゆる効果が期待できるとわかったら、実践するコツも知っておきたい。加藤さんは朝の散歩を推奨する。
「寝起きは脳の活動が低下しているので、歩いて活性化すると意欲が湧いて、一日のパフォーマンスを上げやすいです。午後でもいいのですが、疲れから体力を温存しようという思考が働きやすいので、朝一番の元気なときがもっとも有効でしょう」
朝散歩の効能は多く、朝日を浴びての散歩はドーパミンを増やして、前向きになり、抗うつ効果が高く、自律神経も整えて睡眠の質が上がりやすい。
「効果をさらに高めるなら軽いジョギングぐらいの運動を長めに、週3回以上、計150分といわれます。ですが月1回の運動をしただけでもうつ症状の改善効果が3週間持続したという報告もあります。いつでもどのような歩き方でも、少し運動をするだけ効果はあるのです」(篠原さん)
体力アップ、フレイル予防など歩行は筋力を保ち“100年動ける体”をつくってくれる。さらに脳機能を上げるとなれば歩かない手はない。ウオーキングの時間をきっちりとらなくとも、いつもより家事を長めに、買い物の回数を増やす、といったことも充分効果につながるだろう。歩くのにぴったりの季節、外に出て風を感じてみよう。
写真/PIXTA
※女性セブン2025年5月29日号
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