見知らぬ他人にあなたは優しくできますか?4つの実例に学ぶ人を思いやる行動と勇気
先が見えない不安が募り、心の余裕をなくしている人は多い。それでも、街で、電車で、旅先で思わぬ事態に見舞われた時、見知らぬ人の親切に救われたという人たちがいる。忘れられない思い出を振り返り、あの日言えなかった「ありがとう」をいまここで伝えます。取材に基づいた4つのエピソード。他人の優しさを感じてほっこりしてください!
受験日のアクシデント。やさしさに救われて
青森県の曽根瑞稀さん(44才・仮名)は中学校教師。この職につけたのは、ある人たちのおかげだという。
「大学受験をするため、青森から上京したときのこと。慣れない土地と緊張のせいで電車を乗り間違え、試験の時間に遅刻しそうになりました」
教師になるという夢が遠のいた――駅で去りゆく電車を見ながら、呆然と立ち尽くしていると、サラリーマンが声をかけてきた。
「私がよっぽど憔悴していたからでしょうか。その人は私の話を聞くと、タクシー乗り場まで案内してくれたんです」
さらに、タクシー代まで渡してくれたという。慌てて、お金を返すため連絡先をたずねたが、その人はこう言った。
「いいから急いで。ぼくは受験に失敗しちゃったけど、きみはがんばってね」
運転手に「お願いします」と告げて、サラリーマンは去って行った。運転手も事情を聞き、抜け道などを駆使してくれた。そのおかげで、遅刻せずに無事、試験会場に辿り着いたという。
「おかげで私は志望校に合格し、いまこうして教鞭を執っています。生徒たちにはその人たちのような思いやりを持ってほしいと、何度もこの話をしています」
張り詰めた心を溶かしたエコバック
2人の子供を育てている神奈川県のシングルマザー・三田阿佐美さん(42才・仮名)。5年前は、家事や育児をしない夫(当時37才)と生活していたという。
「共働きなのに、夫は何もせず、あまつさえ、“子供の泣き声がうるさいからなんとかしろ”などと怒鳴る。私には当時、相談する相手も手伝ってくれる相手もおらず、常に心が張り詰めていました」
そんなある日、当時4才だった娘と6か月の息子を連れて買い物に行った。
「夫も一緒でしたが、荷物を持つこともなく、子供と手をつなぐことすらしませんでした」
すると、娘が買い物袋を引っ張り、穴が開いて商品が散らばってしまった。娘は驚いて泣き出し、それにつられておんぶしていた息子まで…。夫は「うるせえなあ。先に車に戻ってるわ」と、行ってしまった。
「呆然としていると、おじいさんが来て、自分のエコバッグに散らばった商品を入れて私に渡してくれたんです」
エコバッグを返したいのでと、連絡先を聞こうとしたが、「あげるよ。丈夫なエコバッグでも詰めすぎると破けちゃうから無理しないでね。あなたもね」
そう言っておじいさんは去って行った。三田さんはその言葉で、目が覚めたという。
「私の心はとっくに、買い物袋みたいに破けていたんだな、と気づきました」
その後、役立たずの夫とは離婚。いまは子供たちと穏やかに暮らしているという。
「あのエコバッグはお守りにして、いまも持ち歩いています」
捨て犬に新たな幸せを与えてくれた人
ペットホテルを併設したペットショップでトリマーとして働いていた、福井県の林京子さん(45才・仮名)には、忘れられない客がいるという。
「うちのペットホテルに“くるみ”というポメラニアンが預けられました。ところが、飼い主が引き取りに来ないまま音信不通になってしまったんです」
くるみはペットホテルに捨てられたのだ。林さんはくるみの引き取り先を必死で探した。
「数日後、たまたま犬を見に来店したお客さまが、くるみの話を聞き、即座に引き取ってくれました。スタッフ皆で大喜びしましたね。このまま新しい飼い主が見つからなければ、最悪、保健所に連れて行かなければならなかったので」
しかし、動物にも感情がある。くるみは飼い主が迎えに来ないことがわかっており、新しい飼い主のもとでは、ほとんど食事も摂らず、やせ細っていった。
「新しい飼い主は老夫婦で、お子さんが独立し、夫婦ふたりになったのを機に初めて犬を飼ったそう。自分の子供を相手にするように、やさしく根気強く接し続け、少しずつくるみの心を開いていったようです」
1年後、林さんは異動したが、店にその飼い主から、丸々太ったくるみとの旅先での写真が送られてきたと聞いた。
「くるみが幸せな第二の人生を迎えられて、新しい飼い主には感謝しかありません」
いじめっ子を倒したスーパーガール
福岡県の会社員・吉田美樹子さん(51才・仮名)は、故郷の岐阜で子供の頃に出会った恩人がいまでも忘れられないという。
「小学2年生の夏休み、近所の公園で遊んでいたときのこと。その日は友達が来ておらず、私はひとりでいました」
ところがそこへ、やんちゃな上級生たちがやってきた。
「小学5年生の男の子たちで、日頃から年下の子や女の子ばかりを狙っていじめていた子たちでした。私はひとりだったためターゲットにされ、石や砂を投げられたんです」
逃げようとすると出口を塞がれてしまい、どうすることもできず泣いていた。するとそこへ――。
「突然、誰かが公園に飛び込んできて、いじめっ子たちを次々とやっつけてくれました。それがなんと女の子だったんです」
女の子は、「たいがいにせえよ」と、いじめっ子たちに叫んでいたという。女の子の剣幕に、いじめっ子たちは逃げて行った。
「後でわかったのですが、その子は福岡弁を話していたようです。きっと、夏休みにいとこの家にでも遊びに来ていたんじゃないでしょうか」
この件がきっかけで、福岡に憧れを抱くようになった吉田さん。故郷を離れ、福岡の会社に就職。そこで結婚した。
「いまでは故郷よりも長く福岡に住んでいます。私の人生を変えたあの子にいつか福岡で会えることを夢見ています」
取材・文/川辺美奈子 イラスト/ico.
※女性セブン2022年6月9日号
https://josei7.com/
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