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毒蝮三太夫も感嘆!老夫婦が明かした素敵なエピソードとは【連載 第19回】

 親に歴史あり。父親にも母親にも若い頃があり、新婚時代があった。たまにはその頃の話を聞いてみるのも楽しそうだ。こっちが大人になった今だからこそ、聞けることもある。「すべてのお年寄りは、その人だけの素敵なドラマを持っている」と毒蝮さんは言う。今まで知らなかった親のドラマを掘り起こす楽しさと大切さを聞いた。(聞き手・石原壮一郎)

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ラジオ番組に出演した老夫婦のエピソード

 ここ数か月、世の中はたいへんな状況だった。つらいこともたくさんあったけど、ちょっと立ち止まったおかげで分かったこともある。たとえば、いちばん大事なのは人とのつながりなんだって、みんな実感したんじゃないかと思う。家族や親子のつながり、もちろん友だちとのつながりもだけど、普段はそのありがたみに気づかないもんな。

 6月といえば「ジューン・ブライド」だ。ヨーロッパには「6月に結婚する花嫁は幸せになれる」っていう言い伝えがあるらしい。日本は梅雨時だから、花婿が「水もしたたるいい男」になりそうだな。まあそれはいいや。

 結婚といえば、40年以上前かな、TBSの「土曜ワイドラジオTOKYO」で永六輔さんがパーソナリティーをやってるときに、「おめでとう結婚記念日」ってコーナーがあった。結婚50年目だとか節目の記念日を迎えた夫婦が、親戚や近所の人たちに「おめでとう」って祝ってもらっているところに俺が訪ねていくわけだ。

 ある時、下町の靴職人のオヤジと奥さんのところに行った。座敷に座布団並べて80ぐらいのジジイとババアが、狸の置物みたいに座ってる。両方とも明治生まれで、結婚して秋田だか山形だかから出てきたらしい。「新婚旅行は行ったのかい?」「そんなの行かないよ」「ふたりは見合いかい?」「そうだよ。その頃はみんなそうだった」なんて話をした。

 当時の結婚式は、田舎のことだから三日三晩どんちゃん騒ぎだったらしい。それが終わるまでは、ふたりっきりになれなかったわけだ。「やっとふたりっきりになってどうだった?」ってジジイに聞いたら、振り絞るような声で「いやー、興奮したよ」って言いやがった。そりゃ、待ちに待ったわけだもんな。まわりで聞いてる人たちも大喜びだよ。

靴職人のオヤジが新妻の思い出を谷崎以上の表現で描写

 いろいろ思い出したんだろうね。それに続けて「初めてバアさんの裸を見たときには、目がつぶれるかと思った」なんて言い出してさ。バアさんのほうは「おじいさん、なに言ってるの」って恥ずかしがってる。ジジイに「で、どうだったんだ? 暗い豆電球の下で初めて見た新妻の裸は?」って突っ込んで聞いたら、その答えが素晴らしかったね。

「白壁にコウモリがとまっているような感じだった」だって。まわりの人たちも、笑うんじゃなくて「はー」って感心して黙り込んじゃった。そしたら、スタジオの永さんが「上手い! 谷崎潤一郎にも書けない! これぞ文学だ!」って絶賛したんだよね。

 けっしていやらしい話なんかじゃない。その夫婦の人生の中で、すごく大切で思い出深い場面なわけだよね。こう言っちゃ何だけど、文学とかそういうことには縁がなさそうなジジイだよ。でも、頭の中で50年前の感動を思い出して、素直にそういう表現が出てきたわけだ。バアさんは最後まで「やめてくださいよ、おじいさん」って手を振り回してたけど、ちゃんと覚えてくれてて、しかもそんなふうに表現してくれて、嬉しかったと思うな。

 男っていうのは、ふだんはガサツなことばっかり言ってても、そういうロマンチックな一面があるんだよ。大工をやってた俺のオヤジも、歳を聞いたら「毎年変わるからわからねえ」なんてバカなことばっかり言ってる人間だったけど、おふくろに対してロマンチックな気持ちを抱いたこともあるはずだ。いや、おふくろだけとは限らないか。生きているうちに、そういうこともちょっとは聞いとけばよかったな。

 当たり前だけど、自分の父親にも母親にも若い頃があって、夫婦の歴史がある。今はケンカばっかりしてたり、片方が先にいなくなってその悪口ばっかり言ってたりするかもしれないけど、新婚時代からそうだったわけじゃないよ。親に「父さん(母さん)に最初に会ったときは、どう思ったの?」なんて聞くのはテレ臭いかもしれないけど、たまにはその頃の話を聞いてみるのもいいんじゃないかな。聞かれた親も、きっと喜ぶよ。

 こっちもいい歳になって、子どもや孫なんかもいたりするからこそ、聞けることや理解できることもあるしね。思いがけないドラマがあったり、ビックリするようなロマンチックな言葉が飛び出したりするかもしれない。そこで出てきた話や恥ずかしそうにしてる表情は、この先何十年たってもけっして忘れない、大事な宝ものになってくれると思うよ。

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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう) 

1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。84歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は『恥をかかない コミュマスター養成ドリル』。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。

撮影/政川慎治

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