「介護職賃上げ9000円」実際どうだった?金額に納得いかない現場のリアル
介護施設で働きながらブロガーとして活動する、たんたんさんこと深井竜次さんが、「介護職員の賃金アップ」について発信した記事に多くの反響が寄せられた。「給料はアップしてない」「金額に納得いかない」など現場のリアルな声を引用しながら、2月から実施された介護職への月額9000円の交付金問題について考察する。
介護士ブロガーのたんたんと申します。
介護現場で働いてきた経験や知見をもとに、「多くの介護士さんが幸せな働き方を実現できるように」という思いを込めて、ブログを運営しています。
介護ポストセブンでもこれまで僕が介護現場で経験した出来事や学びを、「介護士さんをはじめ介護にかかわる多くの人に参考になれば…」と思って記事を書いてきました。
2022年2月から介護職員の給料が2月から1人あたり月額9000円の交付金が支給※されることになりました。
この政策に対し、自分の周りの介護職員がどのように感じているのかを書いた記事に、大変多くの反響が寄せられました。そこで今回は、みなさんの投稿に返信する形で記事を書いてみたいと思います。
※参考/厚生労働省『福祉・介護職員処遇改善臨時特例交付金』
https://www.mhlw.go.jp/content/000915757.pdf
→前回の記事「介護職9000円の賃金アップ」現場の実感薄い 2月の給与明細に僕が感じた失望
賃上げの記事に多くの反響が!
介護職員への特例交付金とは、コロナ禍で働く福祉・介護職員を対象に令和4年2月から9月までの間、収入を3%程度(月額9000円相当)引き上げるための措置です。しかし、実際2月の給与明細を見てみても、僕の給料には反映されていませんでした。
このことについて書いた記事に投稿されたコメントをすべて読んでみたところ、以下の3つに分類できました。
1.給料がアップしていない人
2.給料はアップしたけど納得がいかない人
3.経営者側の意見
この3つのコメントについて、僕の考えを書いていきたいと思います。
1.給料がアップしていない人
給料がアップしていない人の声には、
「やはり今回も上がらなかった。そもそも、新規の働き手を確保することや、離職を防ぐ目的だったと思うが、9000円では魅力なし。そんなにもらえない、UPすらない、コロナで経営不振で給料カットのところもある。もちろんモチベーションは下がる」
というものがありました。
これまでも介護職の給料アップの政策はたびたびありましたが、僕の周りには、実際の給料に反映されてこなかった人が多いように感じています。
そもそも国が決めた政策ですが、実際のお金の配分は施設側に任せているため、現場で働く職員が納得のいく給料アップが実施されていないというのが現状のようです。
9000円もらえなかった介護職員のモチベーションが下がるのは当然ですし、介護の質の向上や介護職員の確保を目的とした政策が、逆にモチベーションを下げてしまい、退職にもつながるということもあり得ます。
また、「まったく上がっていません。上層部だけがホクホクしていると思います」というコメントもありました。
施設に任せられた分配方法について、その実態までは解明できませんが、本来もらえるはずのお金をもらえていない場合、職員が施設の経営に対して不信感を抱いてしまう要因にもなってしまいます。
施設側は国から給付されるお金について職員に周知するべきですし、そこを曖昧にしている施設ならば、転職を考えたほうがいいかもしれないと僕は思います。
経営側もなんらかの事情を抱えているはずなので、そこは包み隠さず、職員が納得できる説明をしてほしいと思います。
2.給料はアップしたけど納得がいかない人
「自分のところは、全員アップすると言っていて介護職以外も上げるようです。私はパートなので10円ほど時間給が上がるようです。納得いきません」
僕が見たコメントでも周りの介護職員の話を聞いてみても、「給料は上がったけど納得していない」という声が一番多いと感じています。
中でも最も多かったのが、「介護職員以外の職種の給料をアップさせるから9000円満額はもらえない」という声でした。施設側からしてみれば、介護職だけ給料アップしてしまうと他の職種の職員のモチベーションを奪ってしまう恐れもあります。
しかし、今回の交付金はあくまで「介護職員の賃金向上」という目的があるので、介護職員からすると不満が出るのはもっともなことです。
また、こんな声もありました。
「私のところは、全員一律で事務方含め9000円以下が、国から支給がある頃くらいに配布されるらしい。期間限定らしいし、ベースアップじゃない。処遇改善も会社により給付内容違うしモチベーションは低下かな」
今回の施策は、2月から9月までの臨時交付金であり、あくまで10月のベースアップを見込んだ前倒し分を支給するというもの。厚労省の資料によると、「10月以降の加算率については、引き続き調整・検討予定」となっています。
――10月から給料のベースアップはいったいどのように実施されるのでしょうか…。
3.経営者側の意見
経営者側の声には、こんなものがありました。
「介護職員の管理をしています。やはり、そうなりますよね。介護職員9000円の報酬アップと言われたら、みなさんそう期待するのは当然です。
でも、職員1人あたり9000円の原資を国が給付するわけではありません。説明不足の国はずるい。特に2月分支給については、超わかりにくく、手間のかかる申請をして補助金が入るのは数か月先。
ただですら、介護事業者の報酬は2月遅れ。原資がないのに賃金アップの実績を言われても厳しい。そもそも、いつまで制度が続くかわからない処遇改善系をたよりに基本給を上げるのはリスクが高すぎる」
たしかに安易に賃金を上げてしまうと、もしに国の方針が変わって支給されなくなってしまった場合、基本給を下げることができず、施設の経営が逼迫していまいます。そもそも介護施設側が儲からなければ、そこで働く介護職員の給料がアップするはずがありません。
まずは介護施設側が儲かるような制度改正、介護報酬の引き上げが必要だということです。
そもそも2月に実施されたこの政策は、事業所の形態や交付金の金額について、支給対象となる人の人数などによっても加算額や交付率が変わるため、一律9000円とはならない。しかし、複雑なルールは現場で働く人たちにはわかりにくく、「給料が9000円アップする!」と期待感を持ってしまうのだと思います。
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賃金アップについて様々な視点からコメントがあり、僕自身、とても勉強になりました。介護職員の目線で記事を書くことが多い僕からすると、経営者側の意見が聞けたのは非常に有意義なものでした。
政府は「継続的に賃上げ政策を打ち出す」ことを公言しています。今後に期待しつつ、その政策の中身については、「本当にこれでいいのか?」と常に掘り下げて考えていきたいと思っています。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
文/たんたん(深井竜次)さん
島根県在住。保育士から介護士へ転職し、介護士として勤務。主に夜勤を中心に介護施設で働きながら介護士の働き方について綴ったブログ『介護士働き方コム』を運営。著書『月収15万円だった現役介護士の僕が月収100万円になった幸せな働き方』(KADOKAWA)が話題に。
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