「声が出にくい」「むせやすい」は”のど老化”のサイン 原因と自己チェックリスト【医師解説】
いまだマスクを手放せない状況が続いている。外出や会食の自粛が引き続き求められる中、「声が出にくい」「むせやすくなった」などと訴える人が増えている。これは、会話する機会が減り、声を出さなくなったことによる“のど老化”が進んでいるサインかもしれない。
声が出づらくなった人が増えている3つの原因
「運動不足による体の不調とともに、のどの運動不足も進んでいる」
と言うのは、音楽・音声ジャーナリストで「声・脳・教育研究所」代表理事の山﨑広子さん。
「20~70代まで、幅広い年齢のかたから、『最近、声が出づらくなった』という話をよく聞きます。その主な原因として考えられることは3つあります」(山﨑さん・以下同)
【原因1】
会話をすることが減ったため、のどや声帯を使うことも減り、のどが運動不足に陥っていることだ。
「手足などの筋肉を使わないと弱っていくように、のどの筋肉も使わなければ衰えていくので、動かして鍛えることが必要です」
【原因2】
マスクをしている影響で、呼吸が浅くなっていること。
「呼吸は声のエネルギー源。しっかりと呼吸をして、新鮮な酸素を肺に取り入れなければ吐く息が弱くなり、力強い声を出すことができません」
【原因3】
マスクをすることで口の動きが封じられてしまい、口を大きく開けずに“もごもご”としゃべっていること。
「声を出すときは、口からのど、声帯にかけて、たくさんの筋肉が連動しています。意識して声を出すように心がければ、のどの運動不足の解消につながり、ある程度は元に戻ると考えられます」
日常生活での「のど老化」のチェックリスト
□最近、会話が減った
□食事中にむせることが増えた
□声が弱く、かすれたりしゃがれたりする
□のどに違和感がある
□せき払いをよくする
□たばこを吸う
□毎日、たくさん飲酒する
□脂っこいものが好き
□野菜をあまり食べない
□血圧が高い
□いびきや睡眠時無呼吸の症状がある
□胸やけがする(胃酸の逆流)
<判定>
1つでも当てはまる人は、のど老化のリスクがある。数が多いほど老化は進行している。上から5項目は、のどの筋力低下リスク、その下の7項目は、のどを老けさせる生活習慣と症状を示している。
食事中の「むせる」は、のど老化の始まり
声の違和感に加え、「むせる」「せき込む」などの回数が増えてきたら、「のみ込む力(嚥下(えんげ)力)が衰えている可能性がある」と言うのは、呼吸器内科の専門医で、「池袋大谷クリニック」院長の大谷義夫さん。
「食事中に食べ物や飲み物が気管に入って、むせたりせき込んだりすることが、40代頃から少しずつ増えていきます。これは、のどの老化の始まりで、誤嚥しやすくなってきたサインです」(大谷さん・以下同)
食べ物や唾液、逆流した胃液などが、口からのどと食道を通って胃に送られるはずが、誤って気管や肺に入ってしまうことを誤嚥という。このとき、細菌が含まれていると肺で炎症を引き起こし、誤嚥性肺炎になってしまうのだ。
のどの衰えから誤嚥性肺炎にも…
厚生労働省が発表した「2020年人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、昨年の誤嚥性肺炎による死者数は4万2746人で、3年連続で増加している。それ以外の肺炎による死亡者は7万8445人で、両方を合わせると12万1191人となり、死因別死者数の第4位に位置する。
「肺炎を予防するには、肺炎球菌ワクチンを接種することと、歯磨きやうがいなどの口腔ケアをして口の中を清潔に保つことが有効というエビデンスもあります。
これに加え、のどが衰え始める40代から、のみ込む力やせき反射(※)が衰えないように口腔内のストレッチなどに取り組み、誤嚥性肺炎のリスクを下げるように心がければ、健康寿命を延ばすことにつながると思います」
(※)せき反射とは、異物がのどの奥まで侵入すると気道の表面にあるセンサーが察知し、脳に伝え、のどに吐き出すよう指示を出し、せきを起こさせること。
教えてくれた人
山﨑広子さん/音楽・音声ジャーナリスト
「声・脳・教育研究所」代表理事。著書に『声のサイエンス あの人の声は、なぜ心を揺さぶるのか』(NHK出版新書)などがある。
大谷義夫さん/池袋大谷クリニック院長。
呼吸器内科のスペシャリスト。著書に『肺炎を正しく恐れる』(日経プレミアシリーズ)などがある。
取材・文/山下和恵
※女性セブン2021年7月22日
https://josei7.com/