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認知症の人の潜在能力を高める“かかわらない介護”のすすめ|料理特化型デイサービス『なないろクッキング』の事例

 コロナ禍で面会等が制限されるなかでも、忙しくまわり続ける介護の現場。「お年寄りの潜在的なパワーを引き出したい」「“できない”という思い込みをなくしたい」そんな思いで利用者の心と体を支える人気の介護士さんをご紹介。老親介護に悩むかたも必見です。

コロナ禍と認知症の意外な共通点

「いまはコロナのせいで日常生活も思うようにいかず、環境のために皆が生き辛いですよね。これって認知症の状態にあるかたと同じなんです」

 大起エンゼルヘルプ取締役の和田行男さんはコロナ禍と認知症の意外な共通点を指摘する。

「人は環境によって生き方が変わります。認知症の状態にあるかたも、本人には能力も意欲もあるのに、まわりが手を出しすぎることで、できるものもできなくなるんです」(和田さん・以下同)

いまこそ“かかわらない介護”へと見直すチャンス

 介護職に就いて30余年。和田さんはそれまでの「なんでも介助する」から「できることは自分でする」の常識を覆す介護で、「自立支援のカリスマ」と呼ばれてきた。

 そして、コロナにより人との接触が慎重になっているいまこそ“かかわらない介護”へと見直すチャンス、と話す。

 本は読み聞かせではなく、何冊か用意しておけば、読みたい人は自分で本を選んで読み出す。着替えも、片方の袖だけ手を通してあとはまかせる。

「すべて介助するほうがスピーディーだし安全なのは確か。でも、それではできるものもできなくなっていきます。その人が主体的に生きるための、最小限の支援は何か。どこまで手を貸せばいいか。その見極めこそ、プロの介護士の仕事です」

料理というツールを使ったリハビリが目的のデイサービス

 ガラス越しに見えるポップなインテリアに、介護施設とは思わず、カフェと間違えて入ってくる人もいるという料理特化型デイサービス『なないろクッキングスタジオ自由が丘』。生活相談員兼介護職員の石川大輔さんが語る。

「利用者さんもここに来ると日常とは違うスイッチが入るようで、イキイキとした表情になるんですよ」(石川さん・以下同)

 ここ、なないろクッキングスタジオは料理特化型デイサービスだが、ただ料理を楽しむのではなく、料理というツールを使ったリハビリが目的。

「ぼくたちが何もかも介助するのではなく、その人ができることはやってもらえるよう、適切なサポートを心がけています。驚かれますが、包丁も火も使いますよ。料理ですから(笑い)」  

 利用者の家族に「1時間ずっと立って調理していますよ」と伝えると、「嘘でしょう? 家では寝てばかりなんですよ」と驚かれることも。閉じこもりがちだったお年寄りが「こんな料理を作った」と話すなど、家族間で新たなコミュニケーションが生まれることも少なくない。

「できないと思っていたことでも、できるようになる。料理をし、刺激を受けることで、皆さんの潜在的な力を引き出せれば、と思っています」

→認知症の人が通う料理体験デイサービスはポップだった!【オバ記者は見た!新しいシニアライフ】

「料理したことを忘れても、とびきりの笑顔で過ごして欲しい」

 石川さんの業務は料理補助だけではなく、多岐にわたる。1日のスケジュールは、こうだ。まず出社後、車で午前の部の利用者を迎えに行く。その後、生活相談員として家族やケアマネジャーとの連絡、介護福祉士として調理のサポートや見守りを行う。昼には午前の利用者を車で送り、午後の利用者を迎えに行く。午後も午前と同様に業務を行い、午後の利用者を送って1日の仕事が終わる。  

 送迎ドライバー、介護補助、クッキング指導のほか生活相談と、多くの仕事をこなす毎日だが、ここでの仕事にやりがいを感じると石川さんは話す。

 利用者の9割が認知症ということもあり、料理をしたことを忘れ、「うちのおじいちゃん、今日は何もしなかったと言うんですが…」と家族から問い合わせがくることもあるそう。そんなときでも「ぼくたちは皆さんの笑顔を知っていますから。ここにいる時間はとびきり幸せに過ごしてもらえるよう、お手伝いしています」と明るい。  

 自身も家族の介護や入院を経験して「生きている時間の質の向上」の大切さを身をもって感じたという。仕事は多忙だが、そのどれもが利用者の新たな可能性につながると信じている。





和田行男さん

プロフィール/大起エンゼルヘルプ取締役。旧国鉄職員時代に障がい者が楽しむ列車の旅のプロジェクトにかかわっていたことをきっかけに、1987年の退職後から福祉業界に。「必要なことだけ支援する」を掲げ、認知症への理解を深める活動を行う。

注文をまちがえる料理店HP:http://www.mistakenorders.com/

石川大輔さん

プロフィール/なないろクッキングスタジオ自由が丘の生活相談員兼介護職員。一日型のデイサービス施設に勤めていたが「新しい形の介護にチャレンジしたい」と2年前に転職。1月に女の子が誕生、新米パパとしても頑張る。

なないろクッキングスタジオHP:https://www.unimat-rc.co.jp/nanairo/

撮影/北原千恵美、玉井幹郎 取材・文/別所礼子

※女性セブン2021年2月18・25日号
https://josei7.com/

●認知症など要介護者が調理、接客する「奇跡のカフェ」レポート<1>

●理想の老後がここにある!認知症3人娘「あめちゃんず」爆笑ラジオ本日も生放送

●つちやかおり認知症の母と向き合う葛藤と『認知症ケア指導管理士』資格取得を告白 

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