母の首を絞めたことも…介護者が語る日々の悩みや不安
厚生労働省の「介護保険事業状況報告」(2018年1月分)によると、全国で介護者向けサービス(予防も含む)を受けている人の数は、約550万人にのぼる。
つまり、「介護をしている人」は、その数以上いるということ。でも、介護者の抱える不安や孤独は大きく、“誰にも相談できない”と介護している家族とともに命を絶つ事件も少なくない。
「認知症カフェ」で悩みを語り合う人たち
「公益社団法人認知症の人と家族の会」では定期的に介護者が集う「認知症カフェ」で互いの悩みや不安を話す。誰かの不安に自分の不安が共鳴し涙が止まらない人、誰かの経験に強く共感する人――。
60代男性Kさん──「2005年から13年間にわたって母親の介護をしました。今年、90才で亡くなりましたが、在宅で介護したい、看取りたいと必死でした。『こんな親、早く死んでくれたら』と首を絞めたこともあります。国は、認知症になっても在宅で看取ることを推奨するけれど、それがいかに大変か。家族は相当腹をくくらないと無理です」
60代男性Aさん──「私も認知症の妻の介護を在宅でしていますが、この4月からショートステイを利用しています。以前から夜中に2~3回トイレに行くのですが、ここ最近は妻が起きたことに気づけなくなった。そうするとね、あっちこっちに用を足してるんです。もうね、ティッシュをばらまいて吸い取って…。今朝も、朝、料理する私にいろいろ言ってくるから、キーッとなって菜箸を折ってしまった」
参加者一同──強くうなずく。
70代女性Uさん──「うちも在宅ではやはり厳しくて、主人には有料老人ホームに入ってもらいました。夜、ぐっすり眠れるんです。眠れるのが幸せ、本当に幸せです」
Aさん──「私ももうそのままグループホームに入れようかなって思うんですが、まだ迷っている。入った方が自分もラクになるとわかっているし、子供も賛成してくれているけど、なんか…悩んでいます。とりあえずパジャマを1着持たせて、着替えを持って行くんだけど、その時に『連れて帰ろう』と思ったり」
80代男性Mさん──「家内を介護して20年、今はグループホームに預けていますが、預け先を探すのも一苦労。自治体によって料金もサービス内容も全然違う」
Aさん──「そう、情報が手に入らない。そもそも、介護しながらそういう情報を探すのには無理がある。特養は何十人待ちだし、地域密着型のサービスホームはアクセスが悪い。山の上にあったって、会いにもなかなか行けないでしょう」
70代男性Uさん──「67才になる家内の介護をしています。認知症と診断されて3年くらい。毎日デイサービスに行っていますが、朝夜の食事の仕度をしてそれを食べ残されたり、廊下をぐるぐる回ったりしているのを見ると、これからどうなるんだろう、どうすればいいんだろうと」
Kさん──「在宅か施設か、という迷いとともに延命治療をどうするかということでも悩みました。在宅だと、点滴だって満足にできない。母はもう、最期は飲まず食わずで自然死のような形で逝きました。“これは見殺しじゃないか、いや違う看取りだ”と何度も何度も葛藤しました」
60代男性Sさん──「17年間、妻を在宅で介護し、胃ろうもし、看取りました。認知症初期の頃は、会話をしたり旅行に行ったりしていましたが、最後の2年はもう…ただただ胃ろうから栄養を入れるだけで本当に悲惨で。悪いことをしたなぁと後悔の念が残る思いでした。でも、それでも6年も経つと忘れてしまうから。一生懸命に介護すればするだけ、後悔は少なくなるんだと、今は思えます」
会の終盤、若年性認知症を発症した夫と、その妻が口を開いた。
「手続きもまだです。何をしていいかもわからなくて」「今は何をしたらいいのか…」─―目頭をハンカチで押さえながら、口数はとても少なかった。
Kさんが言う。
「介護を終えたから話せることがほとんどです。介護の真っ只中にいると、不安も悩みも、話せないんです。誰にも、わかってもらえないんじゃないかという思いもある。でも、聞くだけでも少しはラクになれることもあります」
同会は全都道府県に支部がある他、同様の会は各自治体やNPO法人など全国にある。介護者の負担、それは550万人の家族が共有している。
※女性セブン2018年5月10・17日号
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