有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』幸せ願う最終話「この星は壊れない。そうだよね、姉ちゃん」
NHK朝ドラ『ひよっこ』の脚本家・岡田惠和とヒロイン・有村架純がタッグを組んだ話題作『姉ちゃんの恋人』がついに最終回を迎えた。美しいハッピーエンドにはコロナで「傷ついた星」で暮らす現状を癒やす願いが込められていた。真人(林遣都)も桃子(有村架純)も幸せに! ドラマを愛するライター・大山くまおさんが振り返ります。
「今年1年、みんな、よく頑張りました!」
有村架純、林遣都主演のドラマ『姉ちゃんの恋人』が最終回を迎えた。「やっぱり!」という展開を織り交ぜながらも、絵に描いたようなハッピーエンドで、傷ついた星で暮らす人たちを癒やしてみせた。
今、私たちが生きている現実は、ドラマで描かれていた世界よりもう少しハードだけど、まわりの人たちを大切にして、日々を誠実に、懸命に生きていたら、きっといいことがある。きっと幸せになれる。小さな奇跡がもたらされることもある。そんなことを信じてもいいような気にさせてくれるドラマだった。
「なんか、話したいこといっぱいあるけど、今年1年、みんな、よく頑張りました! だから来年もきっといい1年になると思いまーす」
安達家のクリスマスパーティーを始める桃子(有村架純)の言葉は軽い調子だったが、ドラマから視聴者みんなへのねぎらいの言葉のようにも聞こえた。
恋愛における手続きの大切さ
まずは恋愛のお話。3組のカップルがそれぞれ幸せな結末……じゃなくて、始まりを迎えた。
まずは和輝(高橋海人)とみゆき(奈緒)のカップル。2人で交換したプレゼントがまったく同じもので、感激して涙ぐむみゆきが可愛らしい。それだけ年下の和輝との交際を真剣に考えていたということ。あらためて自分から「私も好きです。本当に和輝が好き」「恋人になりたい」と告げて、いそいそとマフラーの恋人巻き(久しぶりに見た)をする。和輝が何か囁いてみゆきが目を丸くするが、これは見ている人がそれぞれ想像するのが楽しいと思う。
次に日南子(小池栄子)と悟志(藤木直人)のカップル。悟志は多くの人が予想していたとおり、ホームセンターの新社長だった。花束を抱えて颯爽と店内を歩き、片膝をついて日南子にプロポーズを決める。日南子が一つだけ出した条件は、今の仕事を続けることだった。快諾した悟志に日南子は抱きついてみせる。
そして桃子と真人(林遣都)はホームセンターのパーティーを抜け出して、2人が出会うきっかけになったクリスマスツリーの前で向き合う。
「キスしていいかな?」
「えー、それ、聞く?」
「だって、嫌だったらあれだし」
「……お願いします」
静かに、だけど幸せそうに唇を重ねる2人。ドラマの中でのキスはかつて「奪う」ものだったが、今はちゃんと「許可を得る」ものになったということ。このドラマでは、キスだけでなく、それぞれのカップルの真剣な手続きの重要性が描かれていた。
和輝がみゆきに告白し、みゆきは熟考の末にちゃんと告白を返している。悟志は多くの証人の前でプロポーズをして日南子との関係をはっきりさせた。桃子も観覧車の中で「私の恋人になってください」と言っている。そしてラストシーンで真人のほうから桃子にプロポーズしてみせた。
なし崩しの関係や、なんとなくの関係ではなく、真正面から相手を見据え、相手の意思を尊重し、「告白」という手続きを経て恋人になる。当たり前のことをあらためてきちんと描いた最終回だった。
生きることとは幸せに片思いすること
このドラマのキャッチコピーは「つづけ、幸せ」。そのフレーズどおり、最終回は「幸せ」という言葉もあちこちに散りばめられていた。
「みんなで共に生きて、共に幸せになりましょう。今日から仲間です。メリークリスマス!」
これは新社長に就任した悟志のクリスマスパーティーでの挨拶。パーティーには社員の家族だけでなく、家族みたいな人を連れてきてもいいことになっていた。誰かと共に生きて、共に支えあうことで、人は幸せになれるのだろう。幸せってお金とかじゃなく、人間関係から生まれるものだとしみじみ感じさせられる。
桃子と関係者以外はよく知らないみゆきの再就職を祝って拍手するホームセンターの人たちがとても温かい。誰かが嬉しそうにしていたら、関係ないふりをするのではなく、一緒になって祝ってあげる。
「世界中にさ、イブの夜、仕事の人たくさんいると思うけど、たぶん、俺たちが一番幸せだね」
これは真人の言葉。この後、「仕事でよかった」とも言っている。桃子と真人は仕事を通じて知り合い、恋をして、今も一緒にいる。仕事と恋愛と家族や周囲の人間関係は分け隔てるものではなく、一緒になってもいいんじゃないかというのが、このドラマの一つの主張だったと思う。
「車のこと、簡単に克服なんかできないし、できなくたっていいと思うんだけど、できないことがあっても不幸なわけじゃない。きっとできない分、ほかの幸せ、あるから。ゆっくり進んでいこう」
これはデートで江ノ島を訪れた真人の言葉。「できないことがあっても不幸なわけじゃない」という言葉が心にしみる。桃子は過去のトラウマで車に乗れないけど、その分、歩いてデートをする幸せがある。真人の母・貴子(和久井映見)は教員の仕事を失ったけど、弁当屋での仕事も楽しそうだ。香里(小林涼子)も今はいきいきと働いている。
コロナでできないことがあっても、その分、今まで気づかなかった幸せに巡り合うこともある。楽天的過ぎる考え方かもしれないけれど、こういう温かいドラマがあってもいい。最後を締めるのは和輝のモノローグ。
「生きるってことは、ずっと幸せってやつに片思いし続けることなのかもしれないね。でも、片思いはせつないけど、楽しいよね。たしかに今、僕らが暮らすこの星は、傷ついて弱ってるかもしれない。でも、今を生きる僕らみんなが幸せにちゃんと片思いしていれば、きっと大丈夫。この星は壊れない。そうだよね、姉ちゃん」
ドラマには何度も地球のモチーフが登場する。第1話ではぱっくり割れていた小さな地球の模型が、最終回では壊れる前の姿でしっかりと女の子(稲垣来泉)に握られていた。
「壊れかけたけど、ほら、地球、復活しました」
第1話で桃子が気づいて、真人がそっと直した地球の模型。2人の出会いと恋が連鎖して、恋と人間関係と仕事と世界で小さな幸せをたくさん呼び起こした。誰かが誰かを思い、大切にすることで小さな幸せは生まれていく。その小さな幸せの連なりで地球はできている。コロナ禍であっても、いやコロナ禍だからこそ、誰かを思うことって大切なことなのだろう。今、このドラマに出会えて良かったとしみじみ感じている。
『姉ちゃんの恋人』これまでのレビューを読む
→コロナ禍の家族ドラマ『姉ちゃんの恋人』1話『ひよっこ』脚本家と有村架純の名タッグが嬉しい
→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』2話。しゃがみ込む桃子、触れようとした手を下ろす真人。過去に何が?
→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』3話。幸せな風景に気後れする人たちを癒やす
→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』4話「弱い人に優しい人でいてほしい」…今、当たり前が踏みにじられている
→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』5話。背負った十字架…でも誰かが話を聞いてくれる世界は美しいはず
→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』6話。手を繋いで観覧車をもう一周…幸せな未来を願わずにはいられない
→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』7話「「世界中が敵でも、俺たちだけは味方だから」姉の幸せを願う弟たち
→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』8話「この世界は愛だけで成り立っているわけじゃない」弟のモノローグが切ない
『姉ちゃんの恋人』番組公式サイト
『姉ちゃんの恋人』は配信サービス「FODプレミアム」で視聴可能(有料)
文/大山くまお(おおやま・くまお)
ライター。「QJWeb」などでドラマ評を執筆。『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『野原ひろしの名言』(双葉社)など著書多数。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
●『北の国から』は父の視点、子の視点、母の視点…あらゆる視点を内包する傑作である