認知症の家族が引き起こす問題行動の事例、理由、影響|迷子になる、物取られ妄想、排せつの粗相…
認知症の家族が引き起こす問題行動に頭を悩ます家族は多い。
具体的にどのようなトラブルが発生するのか。以下に「トラブル事例」「認知症患者の気持ちや状態」「家族への影響」を認知症の軽度から重度に至る順にまとめた。
食事中の「異食」に要注意
なかでも代表的なトラブル事例のひとつが「異食」である。
東京都在住50代男性の母親(80代)は認知症が進み、なんでも口に入れてしまうようになったという。
「食べこぼしやよだれを拭き取るためにポケットティッシュを渡しておいたのですが、あるとき母が口をもぐもぐさせているので、“もしかしたら…”と思い、口に指を突っ込むと大量のティッシュが出てきました」
どうやらティッシュを餅と間違えて食べてしまったというが、このようなケースは珍しくない。
「異食はストレスや精神的な不安がきっかけとなる場合もあるようです。加齢のために目が見えにくくなり、食べ物でないものを間違えて口に入れる。認知がしっかりしていれば吐き出すのですが、認知症が進むとそれが“食べ物でない”と判断できなくなり、飲み込んでしまう。喉を詰まらせて窒息してしまう危険もあります」(前出・高室氏)
家族関係にヒビが入りかねない周辺症状によるトラブルとしては「暴力」がある。
埼玉県で食堂を営む60代男性は、同居する80代の父親の暴言や暴力に悩んでいる。
「父親が認知症になり、私の妻に対して何かにつけて怒鳴ったり、ときには暴力を振るうようになりました。家族なので父親にはなるべく自宅で過ごしてもらいたいと思っていますが、女房のほうが参ってしまい……」
家族関係にも大きな影響を及ぼす。
「認知能力が低下し、できないことや分からないことが増えて不安を感じるようになると、『感情失禁』と呼ばれる現象が起きることがある。気持ちのコントロールがうまくいかず怒りをそのまま吐き出してしまうのです。それが、暴言や暴力という形で表に出てくることもあります」(高室成幸氏/ケアタウン総合研究所所長)
→認知症家族の悩みは、お金より問題行動!トラブル起こす「周辺症状」とは?
認知症患者のトラブル事例集「どんな問題に発展するか」
1.夜、寝てくれない
本人の気持ち状態:昼夜の区別があいまいになっている。(時間が分からない)
影響など:介護する家族が寝不足に!
2.ゴミの分別を間違える
本人の気持ち状態:ゴミ出しの日を覚えていられない。(記憶力低下)
影響など:ご近所トラブルに発展!
3.自動車のアクセルとブレーキを踏み間違える
本人の気持ち状態:まだまだ体は動くし運転だってできる。(認知能力の衰え)
影響など:事故を起こしたら大きな賠償が…。
4.いつもの道で迷子になる
本人の気持ち状態:自分の置かれた状況が分からない。
影響など:警察に保護される、ケガをする。
5.怒りっぽくなって怒鳴る
本人の気持ち状態:能力が衰えてきたのを認めたくない。(不安の現われ)
影響など:家族だけでなく他人ともケンカに。
6.火の不始末でボヤ騒ぎ
本人の気持ち状態:鍋に火をかけていたのを忘れる。(記憶障害)
影響など:火事を起こすと損害賠償!
7.着替えや入浴を嫌がる
本人の気持ち状態:臭いや汚れに鈍感に。裸にされるのが怖い。
影響など:不潔になり健康被害も…。
8.「財布を盗まれた」などの妄想
本人の気持ち状態:財布の置き場所を忘れてしまう。
影響など:家族に疑いの目を向ける!
9.お店で万引き
本人の気持ち状態:他人のものと区別がつかない。
影響など:警察沙汰やお店とのトラブルに発展!
10.なんでも口に入れてしまう
本人の気持ち状態:食べられないものの区別がつかない。
影響など:危険なものを食べて体を壊す。
11.排せつの粗相
本人の気持ち状態:便意や尿意に鈍感に。
影響など:弄便などをし始めると家族介護の崩壊も…。
12.大声で叫ぶ・暴力をふるう
本人の気持ち状態:不安から興奮状態になっている。
影響など:ヘルパーなどを攻撃して施設を出されることも…。
13.徘徊する
本人の気持ち状態:自分の家がわからなくなっている。
影響など:行方不明や線路内立ち入りで事故や損害賠償も…。
14家族や妻などの顔が分からない
本人の気持ち状態:身近な人でさえ判別できなくなる。
影響など:介護者には大きなショック。
15.寝たきりになる
本人の気持ち状態:身体機能が低下し、日常生活が何もできない。
影響など:施設によっては退去を求められることも…。
教えてくれた人
高室成幸氏/ケアタウン総合研究所所長
※週刊ポスト2020年11月27・12月4日号