健康

冬のお風呂で命を落とす危険な行為5つ|湯船でうとうと、入浴中に熱中症も…

 冬になると、自宅で亡くなる人が急増するという。その原因の1つに「入浴」が挙げられる。防止するには、そのリスクを知っておくことがいちばん。自分自身と家族を守るため、本格的な冬の到来前に対策を立てておきたい。

冬のお風呂場が危険な理由は…

 厚労省が2015年に発表した推計によると、入浴中の死者は年間1万9000人にも及び、約8割が高齢者だ。2019年の交通事故による死亡者3215人と比べると、約6倍にもなる。とくに冬場は注意すべきなのだ。

 なぜ冬場の入浴はそれほどまでに危険なのか。それは、急激な気温変化による「ヒートショック」によって、脳卒中や心筋梗塞が起きやすいからだという。東京都市大学教授で医学博士の早坂信哉さんが解説する。

「ヒートショックとは、急激な温度変化によって血圧が変動し、血管や心臓がダメージを受けることです。暖かい場所から冷えた場所に移動すると、体は熱を奪われないように血管を縮め、血圧が急上昇します。逆に冷たい場所から暖かい場所に行くと血管が広がり、血圧が下がります」

 つまり、暖かいリビングから寒い浴室に行くと血圧は上がり、服を脱いでお湯に入ると2~3分で血圧は下がる。10分もしない間に血圧が乱高下を起こすのだ。

「特に動脈硬化が進行している中高年や高齢者は、血圧の変化による血管のダメージが致命的な結果を引き起こしやすく、脳卒中や心筋梗塞で亡くなるリスクが高くなります。若い人でも高血圧や肥満の人は同様にリスクが高い」(早坂さん)

→野村克也さんも…お風呂が命取りになった著名人

1.長湯は危険!1時間経っても出てこないのは危ない

 入浴の危険は、ヒートショックだけではない。3年前の冬、まだ40代だった夫を風呂場での事故で亡くした谷口由香子さん(仮名・50才)が当時を振り返る。

「夜の9時頃に仕事から帰宅した夫は、すぐにお風呂に入りました。私と息子はリビングでテレビを見ていたのですが、1時間経っても出てこない。『物音がひとつも聞こえない』と息子に言われたことでハッとし、慌てて様子を見に行ったのですが、もう手遅れでした」

 国際医療福祉大学教授で温熱医学に詳しい前田眞治さんは、「“長湯”によって血圧が下がり、溺死する危険もある」と指摘する。

「寒い脱衣所では血圧が高くなっていますが、お湯につかると、水圧で胸が圧迫されて血圧は20mmHgほど下がります。たとえば、リビングでは120mmHgだった血圧が、脱衣所に入ると寒さで140mmHgに上がり、お湯に胸までつかると水圧で120mmHgまで下がる。そのまま長湯をして体が温まるほど、血管が広がってどんどん血圧が下がっていきます」

2.ウトウトしたら危険!すぐ上がること

 血圧が下がりすぎると、脳に酸素が充分に行き届かなくなり、意識がもうろうとしてくる。その結果、湯船で溺れてしまう可能性があるという。

「湯船につかったまま亡くなる人は、もがいたあとがなく、お湯をあまり飲んでいないケースが多い。普通は鼻まで水につかると苦しくてもがき、水を飲むのですが、血圧の変動によって意識障害を起こしていると苦しくならない。ポカポカして気持ちいいからと、湯船でウトウトするのは危険サイン。リラックスしているだけなのか、脳に血液が届いていないのか、本人ではわかりません。ウトウトしかけたら上がりましょう」(前田さん)

→入浴中の心肺機能停止で助かる可能性は1% 急な血圧低下にも要注意

3.入浴熱中症が危険!心配停止になる可能性も…

 千葉科学大学危機管理学部教授で熱中症に詳しい黒木尚長さんは、長湯による「入浴熱中症」に警鐘を鳴らす。

「高温のお湯に肩まで長時間つかることで、熱中症と同じ症状が引き起こされます。お湯につかっている間は汗をかいて体温を逃がすことができないため、体温調節がききません。42℃のお湯につかると、10分で体温が約1℃上がるので、通常の体温の人が全身浴をした場合、約30分で体温が40℃を超えます。すると熱中症で意識を失うリスクが出てくる。そのまま入浴して体温が42.5℃を超えると心停止で亡くなることもあり得ます」

4.高齢者は特に危険…重度の熱中症に!?

 若い人と比べ感覚が鈍くなっている高齢者は、のぼせている段階で気づくことができず、気づいたときには重度の熱中症になっていることも珍しくない。

 「そんなことはない」と思う人は、入浴後に体温を測るとその高さに驚くはずだ。また、寒い冬はお湯の温度を2℃程度高くして、長めに湯につかる人が増えるため熱中症が起こりやすい。黒木さんの調査によれば、入浴中に体調を崩した高齢者のうち、8割以上が熱中症かその疑いがあるという。「体にいいから」と長時間湯船につかることは、反対に、多大な負担をかける恐れがある。

→白川由美さんの死因もしかして…高齢者の長湯は死を招く!?お風呂で熱中症に

5.最も危険なのが”朝風呂”

 最も避けるべきは「朝風呂」だという。早坂さんが話す。

「朝はただでさえ脳卒中、心筋梗塞が起きやすい時間帯です。起きてから昼頃までは、副交感神経から交感神経にスイッチが入れ替わる都合で血圧が上昇しています。その時間帯にお風呂に入ると、追い打ちをかけるように血管に負担をかけ、ヒートショックを起こしやすくなります」

 朝はシャワーを浴びて、目覚めをスッキリさせたいという人もいるかもしれない。しかし、朝のシャワーは危険が多い。前田さんが言う。

「寝起きは体が脱水気味のため、血圧、脈拍ともに上昇しやすく、さらに血液がドロドロになって血栓ができやすい状態です。シャワーだけなら安全かというと、そうではない。実際に起きた例ですが、シャワーで最初に出てくる冷たい水を浴びてしまい、心筋梗塞を起こした人がいました。もちろん、熱いシャワーを急に浴びてもヒートショックの引き金となります」

 入浴は毎日の習慣だからこそ、細心の注意が必要だ。

→朝の入浴は要注意!交感神経が優位になって血圧が変動しやすい

教えてくれた人

早坂信哉さん/東京都市大学教授・医学博士、前田眞治さん/国際医療福祉大学教授・温熱医学、黒木尚長さん/千葉科学大学危機管理学部・教授

※女性セブン2020年12月10日号 
https://josei7.com/

●冬に多発する高齢者の入浴中事故原因ヒートショック|予防策・便利グッズ

●お風呂場で死なないために今すぐできること|怖いのはヒートショックだけじゃない!

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