親の担当医とうまくコミュニケーションできないときは…|700人以上看取った看護師がアドバイス
親が病院にかかったり入院したりしたときに、どうも医師とうまくやり取りできないことがある…。そんな悩みを抱える人に、看護師として700人以上を看取り、今は訪問看護の仕事をしている宮子あずささんから、医療者ならではのアドバイスをもらった。
高齢になってからは、医師に不信感を抱きやすい
医師とのコミュニケーションがうまくいかないという悩みを、よくうかがいます。
●不調を強く感じるし、若い頃のようにはすっきり治らない
年を取ってから身体を崩すと、検査のデータにあらわれる以上に不調を感じるものです。治療しても、若い頃のようにはすっきり治らないから、どうしても医師に対する不信感を抱きやすいということもあります。
治療して元気にしてくれた医師に対しては、患者も家族もいい感情を持つものです。しかし、年を重ねて、体力も気力も衰えていっている局面で出会った医師とのつき合い方は、難しくなりがちです。
患者と医師のコミュニケーションは、うまくいかないことが多い
例えば医師に「おはようございます!」と、明るく挨拶されたとして、それで、いやな気持ちになる患者や家族もいるわけです。
「なんで、こっちがこんなに大変なのに、あの先生はのん気なのか」と腹が立つ。
そうかと思うと、ちょっと抑えぎみに「おはようございます」という医師に対して
「あの先生の挨拶を聞いただけで、こっちまで暗くなるじゃないか」と腹が立つ人もいます。
挨拶ひとつでも、受け取り方はさまざまなのです。
●医師に「どうしますか?」と聞かれたら
よくある例としてわかりやすいのは、眠りが浅いというようなときに、医師から「お薬はどうですか。使ったほうがいいですか」と患者側に聞かれる場合です。
聞いてくれて、いい先生だと感じる患者や家族もいます。一方で、医師のほうで決めてくれと思う人もいるわけです。優柔不断な先生だと評価が低くなったりするのですね。
要は、人によって受け取り方はさまざまだということです。医師の対応にも正解はなく、コミュニケーションは放っておいてスムーズにいくわけではないのです。
●「わからないんですが、先生はどう思いますか」と聞いてみる
こういう場合、医師に対してモヤモヤしていないで、「薬を飲んだほうがいいかどうかわからないんですが、先生はどう思いますか」と聞くのが解決策だと思います。
医師と話していて、ちょっとどうかな?と思ったら、忖度したり遠慮したりしないで、ひとこと聞いてみるのがおすすめです。
●言わなくてもわかってもらうのは無理
知らないものどうしなのに、すぐに難しいやり取りが必要とされる医療者と患者の関係は、うまくいかないことが多いと思っていたほうがいいかもしれません。
患者の側としては、言わなくても医師にわかってほしいのですが。言わずにわかってもらうのはやはり無理なのです。思っていることを細かく具体的に伝えてみてください。
医師も患者の希望を聞いて治療を進めていくように変わってきている
付け足しておくと、医師の意識も変わってきています。
●黙って聞けというような医療者は減っている
かつての医師は、自分たちが専門家なのだからと治療の方針を医師だけで決めていました。まだ私が看護師になった頃には、軍医あがりの先生たちもいて、まったく聞く耳を持たなかったりしたものです。
しかし、今では患者中心の医療という考え方が浸透してきています。医学部の教育でも、患者さんの希望を十分に聞いて治療を進めていくということを教えています。今、大部分の医療者は、患者に対して自分の側が譲らなくてはならないとわかっています。
自分の言うことを黙って聞けというような横暴な医療者は減っていますから、ともかく言ってみることです。
患者側にも医師のほうで決めてくれという気持ちもあるし、まだ完全に移行しきっていってはいないけれど、ともかく話してみるということを頭のどこかに置いておいてみていただければと思います。
<医師とどうコミュニケーションするかのまとめ>
●高齢になるとすっきり治らないから医師に不信感を抱きやすい
●挨拶ひとつでも、受け取り方はさまざま
●「どうしますか」と聞かれてわからなければ「わからないんですが、先生はどう思いますか」と聞いてみる
●忖度したり遠慮したりしないで、思っていることを具体的に伝える
●患者中心の医療という考え方が浸透して医師の意識も変わってきている
今回の宮子あずさのひとこと
●高齢になってから医師に求めるべきは、治せるかどうかだけではない
医療には技術の差が出るものがあります。例えば外科手術などですね。そういう場合は、医師がどんなに感じが悪くても、手術ですっきり治してもらえれば、ありがたいと感じます。以前は、技術さえあればいいだろうと、威張っている外科医などもいたものです。
しかし、高齢になってかかる医師には、治せるかどうかだけではなく、接し方やひいては人間性のほうが求められていくことがあります。年を取ってどういうかかりつけ医にかかるかは、若いときとは違う基準で選ぶのがいいかもしれません。
最近では、地域の診療が見直されて、高齢者に特化するように診ている先生も増えてきています。今のかかりつけ医とどうもうまくいかないようなら、変えるという選択もあると思います。
教えてくれた人
宮子あずさ(みやこあずさ)さん/
1963年東京生まれ。東京育ち。看護師/随筆家。明治大学文学部中退。東京厚生年金看護専門学校卒業。東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。1987年から2009年まで東京厚生年金病院に勤務。内科、精神科、緩和ケアなどを担当し、700人以上を看取る。看護師長を7年間つとめた。現在は、精神科病院で訪問看護に従事しながら、大学非常勤講師、執筆活動をおこなっている。『老親の看かた、私の老い方』(集英社文庫)など、著書多数。母は評論家・作家の吉武輝子。高校の同級生だった夫と、猫と暮らしている。
構成・文/新田由紀子
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