兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし「第49回 警察から電話がありました パート2」
ライターのツガエマナミコさんは、若年性認知症を患う兄と2人暮らし。仕事を退職し、ほぼずーっと家で生活する兄の日常を支えている。ある日、夕飯時に警察官を名乗る男性から電話がかかってきて、叔母を保護しているという。この電話、もしや詐欺!? 疑心暗鬼のツガエさんだったが…。
「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。
* * *
一件落着だが…不安な未来
すぐにホニャララ警察のサイトを立ち上げ、自称警察官から聞いた電話番号と照合し、しっかり合致したことで、やっと内容が100%事実だと信じました。でもまだ保護されているのが叔母かどうかはわからないところ。
自分で叔母のいるグループホームに確かめたくても、その辺りのことは世話好きの叔母に任せきりで、住所も名称も思い出せないボンクラ。我ながら薄情な姪であることを恥じました。
そして念のため、その世話好きの叔母に電話をしてみると、スリーコールぐらいで繋がるではありませんか。
「あら、マナミコちゃん、ど~も~。お元気?お兄ちゃんも元気にしてる?」といつも通りの平和なお声。そのトーンから至って通常運転で、何事も起こっていないことがわかりました。
この叔母も78歳になります。認知症の叔母は彼女の妹という逆転介護でございまして、何かと苦労していらっしゃいます。
自称警察官の話しでは「電話しましたがお出にならなかった」と言っていたのに普通に出たので「あれ?」となりましたが、とりあえず「今ね、ホニャララ警察から電話があってカクカクシカジカ…」と事態を説明しはじめました。
すると「え~っ!」と驚き、「あ~、今さっき、電話あった。きっとあれだわ。でも知らない電話番号だったから出なかったのよ」と、叔母は叔母でナンチャラ詐欺にあわないように用心していたのでした。
一通り説明し終えると、叔母は「ホームからは何の連絡もないけど、じゃ、ホームに電話してみるわね。それから警察に電話するわ。それでいいかしら」と、のんびりした口調ながら的確だったので、「この叔母はまだ大丈夫だ」と別なところで安心しました。
その後、叔母から「グループホームにちゃんといるって。所長さんに確認したから大丈夫よ」という電話があり、何事もなく一件落着。そのあとすぐにホニャララ警察の自称あらため本物警察官からも電話があり、「グループホームにいる確認が取れたとお姉さんからご連絡をいただきました。いろいろご協力ありがとうございました」と爽やかにご報告をいただきました。
職務であり、善意でしかなかったのに、疑りまくってつっけんどんな態度で接してしまったことを本当に申し訳なく思いました。いろんな詐欺が多いので仕方ないとはいえ、「なにを言っても警戒され、胡散臭いと思われてしまうんだろうな」と思い、警察官のご苦労が身に沁みました。そして、我が親族の叔母でなかったことが判明したことで、保護されたその方の身元は白紙に戻されたわけで、あの警察官は、またニセ警官疑惑を持たれると承知しながら、いろんな家に電話をかけたのでございましょう。努力が実り、無事に身元が判明したことを信じます。
そんなこんなでやっと夕飯タイムになりました。兄も食べずに事態を見守っていたので、内心「どうせなにもできないんだから食べてていいのに」と思っておりました。
ひと段落して「なんだ、まだ食べてなかったんだ」という冷ややかなわたくしに、「一応、心配してたから…」と笑った兄の言葉で、また自分の冷血さを認識しました。
「この兄もいずれ叔母のように施設に入ることになるのでしょうか」
「暴力や徘徊がなければ、わたくしは一生この2人暮らしなのでしょうか」
「お金は続くのでしょうか」
「兄が死ぬとき、わたくしは何歳になっているのでしょうか」
日本の平均寿命から換算すると、兄はあと20年先まで健在です。思い浮かぶのは「老老介護」の四字熟語。ふぅ~、その先は考えないことにいたします。
つづく…(次回は7月16日公開予定)
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性57才。両親と独身の兄妹が、6年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現61才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。ハローワーク、病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ
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